第89話
う・・・うぅ・・・ん。んぁ・・・?
はっ!ここは!?
綺麗な花畑と大きな鳥籠。夢の中だ・・・!あれ?でもさっきまで私、誰かと話していたような気がするけど・・・。
でも・・・私にはまだチャンスがあるのね・・・。待っててアンジュ。貴女の生きる意味、私が見つけるから・・・。
私はパンッと両手で自分の頬を叩いて気合を入れた。いてて。
「あのっ!貴女は本当の愛を探しているんですよね?」
「・・・・・・?」
女神様は何故私がそんな事を言うのだろうと不思議そうな顔をしたが、無言で頷いた。
「だったら、この鳥籠から出なくちゃですよねっ!私、探します!絶対貴女をここから出してみせますから!」
「っ・・・・・・!!」
私はまず鳥籠の周りを探し始めた。花畑に埋もれているかもしれない。案外近くにあったりして・・・。
「いたっ!」
石に爪を引っ掛けてしまい割れた爪から血が滲んでいる。夢の中だというのにさっきからリアルに痛い。
「やめてください、きっと鍵なんて最初から無いんだから・・・」
「大丈夫、大丈夫、このくらい平気!」
「なぜ・・・」
私は鳥籠の周りから段々遠く移動しながら探していた。行けども行けども花畑。
でも、鳥籠が大きいから迷子にはならなそう。あそこを目印に帰ってくればいいのだから。
途方もない。見渡す限りの花畑。勝算など無い。けれど、私が絶対見つけなくてはならない。きっとそれが正しい答えだと思う。
私に出来る事、出来る限りの事をしたい。だって私・・・私達は、アンジュの為にこの世界に来たのだから!!!
ジジッ
『 さ よ う な ら ジ ゼ ル 』
その時ある攻略対象者の顔と声が脳裏に浮かんだ。・・・そうだ。私は貴方に呼び出されて・・・。
貴方の思い通りになんてさせないわ。フェルナンド!
思い出したわ。私はアンジュが早退した後、つい先程までフェルナンドに呼び出されて話し合っていた。そこで私は黒いモヤモヤに・・・。
私はゆっくりとフェルナンドとのやりとりを反芻した。
フェルナンドに薔薇園とは違って人気の無い方の裏庭に呼び出された私。改まって何かしら。
「話って何でしょう?フェルナンド様からの呼び出しって珍しいですね」
「ジゼルさん、僕はずっと貴女を・・・貴女達の事を見ていました」
「へっ!?」
すわ告白か!?と思ったが、貴女“達”と言い直したので違うみたいだ。いくら何でも自惚れすぎだよね。
「ジゼルさん達は、この世界の人にしては行動パターンが違いすぎる。言葉の端々やシナリオと違う行動・・・」
「え・・・?」
「“アンジュ”を差し置いてサポート役やモブが恋愛するなんて、あり得ない」
フェルナンドは刺々しい口調で吐き捨てた。この人、アドアンを知ってる?アンジュが主人公だって知ってる!?でも味方、では無さそうだ。
「あなたは、一体・・・?」
「・・・僕はこの世界の管理人ですよ。今までずっと何度も何度もアンジュの恋を見守ってきた。時には僕がアンジュの相手だった時もあった」
「貴方は、転生した訳じゃないの・・・?」
「僕はこの世界を彩るデータの一部でしかないですよ。貴女達も同じはずなんだけど、何で貴女達みたいなのが出てきたんだろう?」
「わ、私達は現実世界からこの世界に転生したのよ!」
「へぇ。外の世界の人だったんですね。なぜここに来れたのかな・・・」
怖い・・・。この人さっきから凄い笑顔なんだけど目が笑っていない。人を見下す様な冷たい目・・・憎しみさえ感じる。
「どうして私をここに呼び出したの?目的は一体何?」
「決まってるでしょう?この世界をいつもの世界に戻すんです。その為には貴女にはプレアデスの事を諦めてもらいます」
「なっ・・・、」
「このまま卒業式を迎えられたら、プレアデスは貴女に告白をするでしょう。それは本来のストーリーとは違うので」
「・・・・・・・・・」
「大人しく言う事を聞いてください。でなければ・・・」
フェルナンドの周りが黒くモヤモヤしている。
「この世界をリセットしなければなりません」
浄化・・・?
「リセットすれば物語は最初からになる。勿論アンジュも今まで通り“世界”の意思で誰かと恋愛をする。貴女はそのサポートをするだけの存在です。アマルシスとやらはただのモブに戻り、アンジェロも本分を弁えた存在に戻る・・・。そしてプレアデスもシナリオ通りに動く・・・。はは、ハハハハハハハッ!!!」
「か、勝手な事を言わないで!私だってプレアデスだってアマルシスだってアンジェロだって自分の意思があるの!それに、アマルシスをモブだなんて言わないで!!」
「だから、それが余計な事だって言ってんだよ?お前らに意思なんて必要無いんだよ。わからない人だな」
うっ、なんかフェルナンドの雰囲気が変わった。
「貴女のせいで、アンジュが変わってしまった。今までずっと繰り返し繰り返し恋愛をして、その度に幸せなエンディングを迎えていたのに。今回貴女のせいでアンジュはエンディングを迎えられないんですよ?」
『自分じゃない誰かの意思で異性に話しかけたり、その人が喜びそうな言葉を言ったり、その人の好みに合わせたりしたり・・・。そんなんで本当の愛とかおかしいです!!』
アンジュの言った言葉がカチリとハマった。
「あ、アンジュはとっくに気づいているわ!それは・・・そんなのは本当の愛なんかじゃ無いって事を!!だから、アンジュは本当の愛を自分の意思で見つけようとしてる」
「・・・何故です?そんな意味のない事をして何になると言うんですか?」
「意味のない事なんかじゃ無いわ。貴方だって!元の世界に戻すだなんて、それこそ世界の意思じゃなくて貴方の意思じゃないの!」
今ならわかる。どうしてアンジュがあんなにも頑なに恋する事に消極的だったのか。攻略対象者と恋に落ちたらシナリオ通りになってしまうからだ。だから、攻略対象者と私をくっつけようとしてたんだ。あれは気のせいなんかじゃ無かった。
きっと私を好きだと思っていたのも私がアルド様との初恋イベントを書き換えてしまったから・・・。彼女の唯一の誤算。だから、アルド様が私に告白した時に悲しい顔をしたのだ。シナリオに則ってジゼルを奪うライバルが現れてしまったと。
まぁ、私を好きという感情もアルド様に感じた嫉妬心もアンジュ自身の意思では無かったんだけどね。で、アンジュが正気に戻ったのは多分夏休み前に私がプレアデスルート確定させたから・・・。
私が攻略対象から外れた事でアンジュの恋は一度リセットされていた。
「僕の意思ですって?そんなものがある筈が無いです。本当の愛ですって?・・・よくわかりました。貴女はこの世界にとって敵とみなしました。話し合いで穏便に済ますつもりだったんですけどね」
フェルナンドの目が光りだした。それにさっきより黒いモヤモヤが大きくなっている。
「 さ よ う な ら ジ ゼ ル 」
「な・・・にを・・・っ!?」
「今度会う時はちゃんとアンジュのサポートをしてくださいね」
「キャァァァァァァァァッ!!」
黒いモヤモヤが私を飲み込んでいく。やだっ!何これ・・・!私、消えちゃうの?
私、アンジュに何もしてあげられなかった・・・。前世の記憶を持って生まれた私達は邪魔者なの?じゃぁ、この世界に私達が転生した意味って何だったの・・・?
『あぁ・・・、今回の君の相手は僕だね』
・・・?フェルナンドの声?
『君とまたこうして居られるなら、他の男と結ばれるのなんて平気だよ。次の僕の出番までいくらでも待つよ』
君・・・。アンジュの事、よね?
『シナリオが変わった・・・?くそ。早く原因をつきとめなくては』
『ジゼル・・・アイツが原因なのか?何でカミーユ兄さんに好かれているんだ!あのモブ女も兄さんに色目を使いやがって』
『この世界はアンジュの為にあるのに。皆から愛されるのはアイツじゃなくてアンジュなのに・・・』
フェルナンド・・・。貴方は・・・。黒いモヤモヤを通してフェルナンドの感情が私に流れ込んでくる。
「ジゼルッ!!貴方、ジゼルに何をしたんですか!?」
「アンジュッ!?何故ここに!君は帰ったんじゃ・・・」
「なんとなく嫌な予感がしたので戻ってきました」
「そう・・・。ジゼルはまた生まれ変わるんだよ。君もね。沢山の愛は全部君のものだよ」
「私は・・・私は、ジゼルやプレアデス様、それにアマルシスさんとアンジェロがいつもと違う事に気付いてました。私の祈りが聞き届けられたのだと思いました。ジゼル達は私の救世主なのです」
「はっ、何言ってんの?アンジュ。エンディングを迎えられなかったら君は消えてしまうかもしれないんだよ?」
「・・・私はそれで構いません。何度も何度も私は恋をする為に生まれてきました。でも何度恋をしても、私にも相手の方にも愛はありませんでした。お互いに世界の意思で動いているだけ・・・もう沢山です!」
アンジュ・・・。私達の事気付いていたの?アンジュの望みは強制的に動かされる主人公という立場から抜け出したかったって事?アンジュは、愛されたかった。そして愛したかったのだ。アンジュ・・・なんとかしてあげたいけど私、もう・・・。
ズズ・・・ズッズズズッ・・・
「ジゼルっ!!」
カッ
アンジュが叫んだと同時に眩い閃光が走った。私は薄れゆく意識の中でプレアデスの笑顔を思い浮かべていた。
ここまでお読みくださいましてありがとう御座いました┏○))ペコッ
今回いつもよりちょっぴり長めです(汗)
次回更新は4月29日(月)頃になります。




