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第88話

 プレアデスと二人、並んで座って夕焼けに染まる海とひまわり畑を眺めていた。日中とは違い、幻想的に見える。

 いざ、こうして二人きりになってみるとなんか緊張してしまう。さっきまで大勢でわいわい賑やかだったから余計にそう思うのかもしれないけど。


「あ、あの」

「な、なんだ?」


 意を決して話しかけてみたものの、お互い挙動不審になってる。どうやらプレアデスも同様に緊張している様だ。


「こないだはごめんね。嫌な態度とっちゃって」

「へ?あれ嫌な態度だったのか?可愛かっ・・・あ、いや・・・うん。ヤキモチ焼いてくれたんだよな?」

「ちょっと!・・・うー、まぁそうだけどさ」

「へへ。こっちもいいけど、やっぱいつものが一番だな」


 プレアデスはそう言って私のウィッグをとった。


「やだー!髪の毛がボサボサじゃない」

「なぁ、ジゼル」

「なに?」

「じいさんとばあさんになっても、こうしてのんびりと二人で綺麗な景色見てぇな」


 プレアデスの横顔を見て思わずドキッとしてしまった。


「そうね・・・」


 卒業後の後の事がどうしても気になってしまう。私達にエンディングの続きはあるのだろうか。


「大丈夫だって。きっと俺達の物語はずっと続くんだって信じろ」

「うん。ふふ。くっさぁ」

「言うな!俺だって自分で言ってクッソ恥ずかしいんだからな!」

「ぶぶー!王子様がクソとか言ったらいけませんー」

「あぁ?じゃぁ、う○こ?」

「うん○もダメですー!」

「つか、お前だって女がう○ことか言うな!」

「あー!女性差別ー!」

「いや、そうじゃない!断じて!!」

「・・・・・・ありがと」


 私はプレアデスの袖を掴んで自分の方へ引き寄せた。


「ジッ・・・ゼル?」


 プレアデスの腕に両手でしがみつき、寄り添った。


「側に居てくれてありがとう。見つけてくれてありがとう。・・・好きになってくれてありがとう」


 私はこの人が大好きだ。ずっと一緒に居たい。この先どんな事があったとしてもこの人と運命を共にしたい。


「ジゼル。好きの上は愛してるだろ?愛してるの上ってなんだろうな?俺はその上の言葉をお前に伝えたい」

「なんだろねー?」

「愛死天流?・・・愛羅武勇??」

「ちょっ、本気でそれが愛してるより上だと思ってんの?」

「・・・無いよな?(チッ。外したか)」

「無いっ!」


 私達は日が沈むまでそんな他愛の無い事を話していた。何も特別な事は要らない。ただこうして二人の時間を共有出来ている事が大事なのだから。




《月日は流れ・・・》


 フェルナンドが入学するのと同時にエリク様が卒業し、そして私達が3年生になるのと同時にカミーユ様とルシアン様が卒業していった。

 少し寂しいけれど、私達ももうすぐ卒業を迎える。


 相変わらず私とプレアデスは恋人同士の様にラブラブであるが、未だに付き合ってはいない。アマルシスもカミーユ様といい感じだし、そうそう!一番驚いたのはあの引っ込み思案のアンジェロが毎日放課後図書室に通いつめてルシアン様と勉強していたって事!現在ルシアン様は、王立図書館の司書として働いており、アンジェロは今度はそこに通いつめているのだが、仕事中だからと言われてあまり構ってもらえないと嘆いている。

 カミーユ様はお父様が騎士団長といっても、それまであんまり騎士団に興味がなかったみたいだけど、私とアマルシスの「騎士様って格好いいわよね」という会話(この後BL話になる)を都合のいい部分だけ聞いていたらしく、まんまと騎士団に入団した。元々フェンシングも得意だったし、剣を扱う仕事には向いているんじゃないかしら。そしてアマルシスともデートを重ねている。


 アマルシスとアンジェロとたまに卒業後の話をするけど、暗黙の了解というか全員の望みだからか、誰ともなく“きっと大丈夫だよ”って結末で話を終わらせるようにしている。


 卒業式が怖いのは私だけじゃない。アドアンをプレイした事があり、この世界がアドアンの世界だと知って、この世界の人を好きになったアマルシスもアンジェロも同じくらい怖いはずである。ゲームでは語られないエンディングのその先へ進むのが。


 この頃から私は、不思議な事に時折同じ夢を見るようになっていた。


 アンジュに良く似た女神様がとても美しい花畑の真ん中で大きな鳥籠に囚われている。助けたくても鍵など見つからない。

 話を聞いてみると、この女神様は本当の愛を探しているらしいのだ。その女神様は、自分の意思では何ひとつ出来ず、好きでもない殿方と何度も愛を誓い続けた罰なのだと泣いた。

 私は、女神に寄り添って何かを伝えようとするのだが、いつもそこで目が覚めてしまうので私が何を言おうとしていたのか分からずじまいだった。


 顔が似ているからか、なんとなくこの女神様がアンジュに重なって見えて仕方が無かった。あの女神様はアンジェロとはどこか違うのでアンジュと重なるのは顔が似ているせいだけじゃないと思う。


 アンジュは結局誰かを好きになる事は無かった。


 私に何か出来る事は無いだろうか。アンジュのサポート役なのに、未だにアンジュの役に立てていない。


 よし。今度あの夢を見たら鍵を探してあげよう。花畑に落ちてないかしらね。


「ジゼル、ぶつかりますよ?」

「え?あっ!!わぷっ!あぁぁ~、すみません!」

「いいえ、こちらこそ・・・大丈夫ですか?」

「大丈夫ですー、本当すみません」


 アンジュと一緒に教室に向かう途中の廊下で、掲示板を見ていた生徒に思い切りぶつかってしまった。


「考え事、ですか?」

「えぇ。最近不思議な夢を見るって話したじゃない?」

「あぁ、女神様の夢ですか・・・?」

「そう、今度その夢を見たら鳥籠の鍵を探してあげようと思って。でもその前に目が覚めちゃうのよねー」

「・・・ジゼルはどうしてその女神様を助けるのですか?」

「へ?どうして・・・って?」

「もしかしたらその女神様はジゼルの助けを必要としていないかもしれないじゃないですか。その女神様はジゼルに助けてって言ったんですか?」

「え、アンジュ?いや助けてとは言われてないけど」

「本当の愛なんて・・・、そんなの人に見つけてもらうものじゃないです」

「う、うん。そうね・・・。でも、自分じゃどうにもならない時だってあるわよ?」


 どうしたんだろう。アンジュから辛辣な言葉が出てくるなんて・・・。こんなアンジュは初めてだわ。


「だからって人の手を煩わせるのは・・・。まるでその女神様は自分の意思が無いみたいじゃないですか。自分じゃない誰かの意思で異性に話しかけたり、その人が喜びそうな言葉を言ったり、その人の好みに合わせたりしたり・・・。そんなんで本当の愛とかおかしいです!!」

「ア・・・アンジュ?」

「あっ・・・。す、すみません。私・・・、体調がすぐれないので早退しますね」

「アンジュ!?大丈夫?私も帰ろうか?」

「いえ、一人で帰れます」

「あっ・・・・・・」


 アンジュ・・・。何か思いつめている様な感じだった。一人にして大丈夫かしら。一人残された私は考えた。さっきのアンジュの言葉は・・・。


『まるでその女神様は自分の意思が無いみたいじゃないですか。自分じゃない誰かの意思で異性に話しかけたり、その人が喜びそうな言葉を言ったり、その人の好みに合わせたりしたり』

 

 これって正に乙女ゲームにおける主人公の行動パターンよね?

 アンジュは女神様に対していつになく批判的なことを言っていた・・・。でもアンジュは人に対してそんな事を言う子ではない。女神様を自分に置き換えて、自分に対して言っていた・・・?だとしたらアンジュは女神様と同じ思いを抱えてる・・・?


 アンジュはもしかしたら自分が乙女ゲームの主人公だという事を無意識に気付いているのかもしれない。アンジュも女神様と同じで他の誰にも干渉されずに自分の意思で本当の愛をみつけたいのかもしれない。


 だとしたら私に出来る事は・・・。

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました(^^)

いよいよクライマックスへと向かっていきます。よろしければ最後までお付き合いください。


次回更新は4月26日(金)頃になります。

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