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第87話

 誕生会も宴もたけなわ、料理も堪能したしとても満足だ。一人一人と話して、プレゼントも貰って、何だかアイドルの握手会みたいだなぁって思った。まぁアイドルというのはおこがましいけどね。


「ミューズ。記念撮影といこうではないか、ささ、こちらへ」


 エリク様が大きなカメラを手に、私をテラスの椅子に座らせた。カメラ・・・!この世界ではまだ珍しいものだ。そして撮る人にも技術が要るので我が家にはカメラは無い。


「最初はミューズだけで、次はミューズとヴィーナス達と・・・ブツブツ・・・」

「エリク、頼む!最後にジゼルと俺の2ショットを取ってくれないか?」

「ノンノン。駄目だよ、プレアデス殿下。いくら殿下の頼みとはいえ、抜け駆けは良くないね」

「黒髪のジゼルと黒髪の俺の2ショットが欲しいんだよ!」

「プレアデス。ジゼルとの写真が欲しいのはお前だけじゃないんだぞ」

「そうですよ、普段殿下がジゼル嬢を独り占めしてるんですからこんな時ぐらい俺達を優先してくださいよ」


 プレアデスを責めるアルド様とスティード。その後ろに立つ皆様方。


「ねぇ、エリク様。タイマーはついていないのかしら」

「一応ついてはいるけどちゃんと作動するかは試していないな」

「じゃぁ、全員で取りましょうよ!」

「うーん、ミューズがそう言うなら・・・まぁいいか」

「ありがとうございます!エリク様。記念になります」


パシャッ


「・・・美しい笑顔だ。思わずシャッターを切ってしまったよ」

「は、はぁ・・・」


 この後の集合写真では誰が私の隣に立つかで揉めていたみたいだけど、私の両脇には双子姉妹、後ろにはアマルシスで固めたので皆納得して写真を撮ってもらう事が出来た。


 皆と少し離れた所でひまわり畑を見つめるルシアン様が気になって声をかけた。


「ルシアン様、ご気分でも悪くされましたか?」

「あ、ジゼルさん・・・。何だかこういうのは慣れてなくて、その萎縮してしまった」

「私の為にわざわざ来ていただいてすみませんでした」

「いやっ!ルシアンの奴が無理矢理・・・あぁ違うな。だから俺は駄目なんだ・・・」

「ルシアン様?」


 ルシアン様は手に持っていたジュースをグイッと飲み干すと、私を見つめて


「ルシアンがどうこうじゃない。俺が来たかったんだ。君の誕生日を祝いたくて・・・」


 と言った。フッと視界が暗くなり、頬を染めたルシアン様の顔が近付いて来た。眼鏡のレンズの奥のルシアン様の瞳は熱く濡れたような・・・。えっ?


「ルシア・・・」


 ルシアン様の顔は私の顔を通り越して、そのままの勢いで私ごと床に倒れた。う、重・・・。


「る、ルシアン様大丈夫ですか?」

「すまない・・・、なんだか身体が熱い・・・」


 はぁはぁした息遣いが何とも色っぽい。この火照った感じはまさか!ルシアン様から仄かに香るアルコールの匂い。私がルシアン様の下でもがいていると、アルド様とプレアデスが慌てて私達を起こしてくれた。


「ルシアン、てめぇ何ジゼルを押し倒してんだよ!」

「やめて、プレアデス!違うのよ!」


 私は咄嗟にルシアン様の胸倉を掴んだプレアデスを止めに入った。もう、すぐ頭に血がのぼるんだから!


「誰ですか、お酒なんて用意したのは」

「えっ?あ、これジュースじゃなかったんだ!ごめん、持ってきたの俺だ〜」

「他には誰も飲んでませんか?残りはお兄様とイアンさんとハルジオンさんに飲んでもらいましょう。アンジェロ、ルシアン様にお水を」

「わ、わかった!」


 アルド様がルシアン様を椅子に座らせ、アンジェロはバタバタとお水を取りに行った。


「ごめん、ルシアン」

「ぅ・・・やはり貴様のせいか。カミーユ・・・全くお前はしょうがないやつだな」


 カミーユ様がルシアン様に謝罪をするとルシアン様が苦笑いを浮かべた。

 普段ルシアン様は、“人嫌いのルシアン”と呼ばれ誰ともつるまないが、カミーユ様には心を開いているんだな。ルシアン様の意外な一面を見た気がする。


 ・・・ていうか、頬を染め、潤んだ瞳でカミーユ様を見上げる荒い息遣いのルシアン様と傍らに寄り添うカミーユ様を見て危うく成仏しかけた。チラッとアマルシスの方を見ると、アマルシスも食い入る様に二人をガン見している。

 ご・・・ごっつぁんです!!!出来る事ならば今すぐエリク様からカメラを奪い取って激写したいくらいである。思わぬバースデープレゼントを貰ったわ。


 そこへアンジェロがお水を持って帰ってきた。緊張しているのか手が震えている。ちょっ!尋常じゃない震えー!!

 

「あああああのあのあの・・・こっ・・・これ、お水・・・・・・はわわっ!!!」


バッシャァァ


「「うわっ!」」


 アンジェロの持っていたお水は宙を舞い、ルシアン様とカミーユ様にかかった。

 ふぉぉぉぉぉ!!!夕日に染まった水も滴るいい男が二人!!何たるハプニング!うほっ!


 ・・・じゃない!ショックでアンジェロが召されそうになってる!!


「た、タオル!アンジェロ!アンジェロはかかってない?」

「じ、ジゼルーーーーー!!ぅ・・・わぁぁぁぁん!」


 私がタオルを持って水をかぶった二人に渡すと、アンジェロは私にしがみついて号泣した。


「アンジェロちゃん、俺達なら平気だから。ね、ルシアン」

「あぁ、気にするな」

「うぇぇぇぇ・・・っくっ・・・うっく・・・ごっ、ごめ、んなさい・・・」


 私はアンジェロの背中をトントンして落ち着かせ、椅子に座らせた。

 推しキャラに水をぶっかけたんだもの、心は無傷ではいられないわよね・・・。でも、多分大丈夫だと思う。これがキッカケになって、ルシアン様ともっと近付ける筈。ルシアン様は他のキャラより大人しいキャラだから、ハプニング系のイベントが多かったからね。

 

 カミーユ様の服を拭いているアマルシスと、濡れている自分を拭かずに泣いているアンジェロにタオルを差し出すルシアン様を交互に見て、私は二人の恋が上手くいきそうな予感がした。


「ジゼル、僕達最後にサプライズプレゼントを用意したんだ」

「お兄様?もう充分素敵なものを沢山頂いたのに、まだ何かくださるの?」


 アンジェロも泣き止み、場が落ち着いた頃、お兄様が私にそう言った。皆がニコニコとこちらを見る中ただ、1人プレアデスだけは何事かとキョロキョロしている。


「ジゼル、非常に不本意だが皆を代表して俺が話す」

「え、えぇ」


 な、何だろ。アルド様がキッとプレアデスを睨んだ。


「ここから、日が暮れるまでお前にジゼルを預ける。俺達は先に帰るから暫しの間ジゼルの傍に居てやれ」

「え・・・?お、おぅ!!」

「だが!ジゼルには指1本触れるなよ!!」

「マジかよ!!」

「当たり前だろう。それが満場一致の落とし所だ。『ジゼルと二人きりになる』事の対価だと思え」

「わかった」


 えっ・・・。プレアデスと二人きりに・・・?プレアデスは私の隣に立つと皆に向かってお辞儀をした。


「皆、ありがとう。感謝する」

「お前の為ではない。ジゼルの為だ。ではな、ジゼル。何かされたら遠慮なく俺に言え」

「ジゼル嬢、今回は殿下に譲るけど俺の誕生日は俺と二人きりになってよ」

「あっ、ズルい!なら俺の時も・・・あ、いや、俺は自重しとくかな。ジゼルちゃん何かと多忙そうだしね、またね!」

「今日は久々に人と会った気がする。ではまた」

「ミューズ!今日撮った写真は後で送るから楽しみに待っていてくれ」

「ジゼル様、また近い内に会いましょうね♪」

「ジゼルー。殿下と二人で素敵な誕生日満喫してね(ごゆっくり♪)」

「ジゼル、本当にお誕生日おめでとうございます。この世に生まれてきてくれて本当にありがとうございます・・・グスッ」

「ジゼル、今日はごめんね。その、ボク泣いちゃったりして・・・でも、楽しかった」

「皆・・・ありがとう。本当にありがとう!私今日と言う日を忘れないわ」


 私は一言ずつ言葉をかけてくれた皆を見送りつつ、深々と頭を下げた。ふふ、カミーユ様ったら、あれは絶対アマルシスを気にしてるわね。


「さて、我々も帰りましょう。ジルドラ様。お帰りの際は気を付けてお帰りくださいね、ジゼル様」

「ぐっ・・・うん。ジゼルっ、早く帰ってくるんだよ!!」

「プレアデス様、外で待機している御者にこの建物の鍵を預けてありますので。それでは私もお先に屋敷に帰ります・・・。ジゼル様。今日だけは特別ですからね」


 イアンさんに引きずられるように様にして帰っていくお兄様とそれに続いて私をキッと睨みつけて去っていったハルジオンさん。うわぉ、何だか私敵認定されてない?


 そして、皆が帰った後静まり返る室内。この夏の二人の目標であった『二人きりになる』が再び叶ったのである。

ここまでお読みくださいましてありがとうございました┏○))ペコッ


次回更新は4月23日(火)頃となります。

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