第86話
建物の中に入ると、お兄様と今日は休みのはずのイアンさんが居た。それどころか、そこにはアンジュ、アンジェロ、アマルシスという親友達に続き、なんとアドアンの攻略対象者全員までもが正装して集まっていた。
「「「せーのっ」」」
「「「「「☆☆☆ハッピーバースデー・ジゼル☆☆☆」」」」」
アンジュとアンジェロとアマルシスが目配せをして3人で“せーの”と掛け声をかけると、皆が一斉に私に向かって誕生日のお祝いの言葉をかけてくれた。
「えと、皆さんありがとうございます?え?でも、なんで?えっ?」
あまりの展開に状況が上手くのみこめていないけど、とりあえず人としてまず先にお礼の言葉を述べた。
ちょっと待って?お兄様に無理矢理付き合わされて、途中からそのお兄様がプレアデスに化けて、で、連れてこられた場所は素晴らしい見事な景色が広がっていた。それから案内されるがままに建物に入ったらアドアンのキャラ達がこぞって私の誕生日を祝ってくれるとか何この天国・・・。←イマココ。
あぁ!そうか。これは夢か!やだわ。私ったら現実とごっちゃになってるわ。
アドアンのシナリオでは主人公の誕生日は主人公と最も仲が良いキャラが家に訪ねてくるだけなのだが、これが夢であるならば納得出来る。さて、そうと理解したなら起きなくては。・・・目を閉じて再び開くと・・・。
やっぱり光景は変わらなかった。皆こちらを向いてニコニコしている。・・・えぇー?夢ってどうやったら覚めるものなの?ダメだ、思考能力が追いつかないわ。
「ジゼル?あれ?ジゼル?おーい!あー、放心してる・・・サプライズが過ぎたかしら。」
「え・・・、どうしましょう?」
「ソテイラ・・・じゃない、ジゼル、ジゼルー?」
「おい、とりあえず席に案内してやれよ。プレアデス。あぁ、何なら俺が・・・」
「おいコラ。どさくさに紛れてジゼルの手を触ろうとすんな!アルド」
私はプレアデスに手を引かれ中央のテーブル席に座らされた。普通にプレアデスの手の温かさも感じるし、そういえば先程は匂いまで感じられた。膝をつねってみたら普通に痛い。・・・という事はこれは、夢じゃ、ないって事?えっ?
私は周りをキョロキョロと見回した。うわぁ。攻略対象キャラ達が揃うと凄い迫力である。しかも全員正装なのだ。イケメン達がにこやかに談笑している。なんて豪華でなんて迫力なの!
アルド様、スティード、カミーユ様、ルシアン様、エリク様。それにフェルナンドまで・・・。
あ、イアンさんとハルジオンさんは普通に執事服着てる。二人は他のキャラとは別に料理を運んだりせかせかと準備をしている。
本当に出会った攻略対象キャラ全員集まっているのだ。
「おっ、お兄様!そうだ!お兄様は「アイツらが来る前に」とか言っていたでは無いですか!それにイアンさんはお休みだと!」
ようやく思考が追いついてきたので、今日私を連れ出したお兄様を問い質した。お兄様の指示でプレアデスやアルド様の来訪から逃げる様に出掛けたのだから。
「・・・すっっっごい不本意だけど、あれはジゼルをここに連れてくる為のお芝居だよ」
「はっ!?」
「俺が頼んだんだよ。ジゼルの誕生日祝いたいだろうと思って声かけて回ったら皆乗り気でさ。で、アンジュの家に打ち合わせに行った時にちょうどお前が訪ねて来たって訳だ」
「え・・・。あの時?そう、だったんだ・・・」
プレアデスがサプライズを企画して動いてくれていたって事?俺を信じろって、こういう事だったのね。誕生日はまだ先だと思っていたのでまさかこんなサプライズを計画してくれてるなんて全く思っても見なかった。
それにお兄様、全然演技している感じには見えなかったわ。「アイツらが~」うんぬんのくだりはむしろ素だったのではないかと思う。
「あ、でも私プレアデスに誕生日の事伝えてないわよ?」
「ふっふっふっ。そ・れ・は、私が夏休み始まる前にプレアデスにリークしていたのよ。皆の誕生日は把握してるからね」
「アマルシス!」
「ぼ、ボクだってジゼルの誕生日知ってたよ!」
「ふふ、皆で計画するの楽しかったです」
「アンジェロにアンジュ・・・ありがとう」
後でアマルシスとアンジェロを引き合わせようと思っていたのに既に二人は打ち解けているようだ。きっと、企画で顔を合わせる内に仲良くなったのだろう。
「皆さんも、わざわざありがとうございます。フェルナンド様まで・・・この間お会いしたばかりなのに・・・」
うん。フェルナンドとはカミーユ様との試合で初めて会ってたまたま隣の応援席だったという関係でしかないのだけど、彼は何故来てくれたのだろうか?
「つか、俺はこいつ初めて見るんだけど、誰?」
「フェルナンドは俺の従兄弟ですよ。来年学園に入学するから仲良くしてあげてください、プレアデス殿下」
プレアデスが疑問を口にすると、カミーユ様がフェルナンドの横に立って皆に向かって紹介した。
「へ、へぇ。(まーたイケメンかよ。この世界はイケメンしか居ねぇのか?)」
「プラネタリアのプレアデス殿下ですね。お初にお目にかかります。フェルナンドと申します。ジゼル様の誕生会があると聞いて、今日はカミーユに無理を言って付き添いで参加させて貰いました」
「お、おぅ・・・。よろしく」
プレアデスは若干引きつった笑顔でフェルナンドと握手を交わした。
「ジゼル様!お会いしたかったです!黒い髪、とても良く似合っていますね」
「ありがとうございます・・・」
フェルナンドがプレアデスと握手を交した流れで私の手を握った。
「・・・知り合いか?」
プレアデスがあからさまにブスっとしながら私に向かって聞いてきた。
「あっ、うん。この間カミーユ様の試合の応援で私迷子になっちゃって。偶然にもカミーユ様の従兄弟だと言う事で、応援席まで案内してもらいつつ、一緒にアンジュとアマルシスを探してもらったのよ」
「へぇ。そうかそうか。フェルナンド君、いい加減その手を離そうな?」
そう言ってプレアデスは無理やり私の手からフェルナンドの手を引き剥がした。
「プレアデス。お前こそ主役の独り占めはやめろ」
「ぐっ・・・うぅ・・・」
「そうだよ、ミューズは皆のミューズなんだからね・・・いや、僕のミューズかな・・・?」
「ジゼルは俺のっ・・・」
「ジゼル嬢!久し振りだね!夏休み入ってジゼル嬢になかなか会えないからこうして誕生日を祝えて嬉しいよ」
アルド様が注意をし、エリク様が割って入った。尚も食い下がろうとするプレアデスの言葉をスティードが遮った。
「ふっ。ふふふ。あははははっ」
まるで、学園にいるかの様なにぎやかさ。ルシアン様は一連の流れを穏やかな表情で静観している。いつもと変わらぬやり取りに私は思わず吹き出してしまった。
「さぁ、お食事の準備も整いましたしパーティーを始めましょう」
イアンさんが皆に着席を促し、それぞれグラスに注がれたオレンジジュースを手に持った。
「それでは、ジゼル様の16歳の誕生日を祝しまして皆さんでジゼル様に乾杯を捧げましょう」
イアンさんに続いてハルジオンさんが口を開き、グラスを高く掲げると、皆も同じ様にグラスを高く掲げた。こちらの世界での乾杯は日本ではおなじみの、グラスをぶつけるという行為はしないのよね。
まさか、こんなに素敵な誕生日を迎える事が出来るとは思っても見なかった。悔しいけど、本当にサプライズだーいせーいこーう!!ってやつである。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました┏○))ペコッ
今回お読み頂いた際にエリク様ってだれだ?とお思いの方もいらっしゃると思います。今までずっと“アレク様”と間違った表記になっていた美術部の3年生です。既に公開済のページを遡って全てエリク様に修正しました。キャラの名前間違いという重大なミスをしてしまって混乱を招いてしまい、本当に申し訳ございませんでした。同じミスをしないよう注意して参りますのでこれからもどうぞよろしくお願い致します。




