第85話
その日私は朝早くからお兄様に起こされて始まった。
「ジゼル〜!お誕生日おめでとう♪誰よりも早く一番にジゼルに言いたくて♪」
「・・・ありがとうございます、お兄様」
私は寝ぼけた頭でお兄様にお礼を言った。あぁ、そうか。私の誕生日は今日だったか。すっかり前世の誕生日を自分の誕生日だと勘違いしていたので、誕生日はまだ先だと思っていた。
8月23日、公式のジゼルの誕生日である。
・・・ていうか、お兄様なんか正装してない?黒いタキシードに赤い蝶ネクタイという出で立ちだ。
「お兄様、どこかにお出かけでもするんですか?」
「何言ってるんだい。ジゼルの誕生日だよ?ジゼルも一緒に出かけるんだよ!さぁさぁ!アイツらが来る前に早く!!」
「え?はい?アイツらって・・・?」
お兄様にまくしたてられ、ベッドから出る羽目になった。お兄様はボニーとユミルに何かを伝えると「部屋の外で待ってるからね」と言って出ていった。
アイツら・・・。ら?お兄様が警戒しているのはプレアデスだけじゃないの?
今までの誕生日は我が家にアルド様とアンジュを呼んで家族と一緒にお祝いしていたわね。アルド様が士官学校に通われてからはアルド様を呼べなかったけど、その3年間ブローチに、オルゴール、ネックレスと毎年手紙と共にプレゼントをくれていた。
単に親戚づきあいがマメで律儀な人だと思っていたけど・・・。
もしかしたらマメだったのは私を好きだったからかもしれない、のかな?だとしたら、ハッキリとアルド様の気持ちには応えられないと正直に伝えたので、今年はお祝いは無いだろうな。
プレアデスにだって私は今日が誕生日だという事は伝えていない。私自身勘違いしていたから伝えそびれていた。
まぁ、少し寂しくはあるけど私は記念日というものに少々無頓着な所があるのでそこまでダメージは無かった。
「ジゼル様、準備が出来ました。ジルドラ様のご命令なのでこちらを被ってくださいませ」
「あぁ、何か言ってたわね。って、ウィッグ!?何故!?」
「さぁ、わかりかねます」
黒のロングのストレートのウィッグである。なんとなくベガ様みたい。お兄様の目的はわからないが、これを被らないと面倒臭い事になりそうなので、被ってみた。
鏡を覗いてみて懐かしい気分になった。前世では髪の毛を染めることも無く黒い髪だったなぁ、と。
この世界ではカラフルな髪の毛の色の人物が多くて黒髪はかえって珍しい感じである。
「まぁ、随分イメージが変わりますねぇ」
「本当です。いつものお嬢様の髪の色も大好きですが、こちらも凄く落ち着いていて大人しそうな感じで素敵です」
うぅ、褒められてるんだけど普段の私は落ち着きが無いみたいに聞こえる・・・。
黒髪のロングに青と落ち着いた水色の2色のドレス。普段の私ならまず着ないであろう肩が空いて露出度高めの大人びたドレスである。
「ね、ねぇ。これ変じゃない?私胸無いし背も小さいし・・・」
「そんな事はありませんよ。ドレスの丈は少し短めなので身長の低さも気になりませんし、胸元の装飾や首飾りに目が行きますので胸の大きさは気にする所ではありません」
「ジルドラ様、お嬢様に似合うドレス見繕うのお上手ですねぇ。さすがというか何というか・・・」
このドレス、見た事ないやつだと思っていたらお兄様が準備したやつだったのか!しかし、二人とも私が胸が無いと言った事に関しては否定しなかったな。くそぅ。
「お兄様お待たせしました」
「ジゼッ・・・!うわぁぁぁぁ!やっぱり似合う!似合うよ!!僕の理想の女の子だよーーー!!!」
「ちょっ・・・!」
ウィッグを被り、着飾った私を見たお兄様が最大級の惨事を・・・いえ、賛辞を述べて私に抱き着いてきた。
ぎゃぁ!誕生日当事者の私よりテンションたっかー!今日に限ってストッパーのイアンさんの姿が見えない。まさか、お兄様に忖度をしたのではないだろうか・・・。
「ところでお兄様、こんな格好でどこに行くのですか?そろそろ真意を・・・」
「着いてからのお楽しみだよ。さ、マイプリンセス。馬車に乗ろう」
「・・・はぁ」
あぁそうですか。今日は私ではなく、お兄様の希望を叶える日なんですね。アンジュは多分いつも通り夕方に来るだろうからそれまでには戻ってくるだろうし、仕方がないわね。
私は小さくため息を吐き、お兄様の茶番に付き合う事にし、お兄様が差し出した腕に手を回した。
「ふふっ。恋人同士に見えるかなぁ?」
「いや、それはさすがに困ります」
「えーっ!」
「あの、イアンさんは?」
「ぶー!他の男の名前は聞きたくないですー!」
「え・・・でも・・・」
「今日は休みだよ。実家にでも帰ってるんじゃない」
「あ、そうですか」
そっか。そういえばイアンさんここに来てから休みという休みを取っているイメージがあるなぁ。うわ、本当に家ってブラックなんじゃないの?
そうね。たまにはゆっくりお兄様から離れてゆっくりと羽根をのばすのもいいと思うわ。
・・・でも、お兄様と離れて自由を知って戻ってこなかったらどうしよう!
それは困る!お兄様の面倒を見れる人なんてイアンさん以外に居ないもの!
「ね、ねぇお兄様。やっぱりイアンさんも・・・」
「却 下。ジゼル、君はせっかくのイアンの休日を君のワガママで潰したいのかい?」
「う・・・、いえ・・・」
「じゃ、大人しく良い子にしてて」
えー、私がワガママなの?無理矢理付き合わされてるのに納得がいかない。
不貞腐れつつ窓の外を見ると、馬車は郊外に向かって走っている様だった。
「ここらへんかな・・・。ジゼル、君を驚かせたいから目隠しをするよ」
「えっ・・・。あ、はい。わかりました」
お兄様が白くて長い紐で私の目を隠しました。サプライズな何かなのかしら?楽しみ、というよりも少し怖い。
すぐに馬車が止まり、お兄様が「ジゼルはちょっと待っててね」と言って馬車を降りた様だ。
少しして、お兄様が馬車に戻ってきた。
「ジゼルお待たせ。後ちょっとだからね」
お兄様がそう言うと馬車はまた走り出した。トイレだったのかしら。それにしても正装までして目隠しをされているこの状況は一体・・・。
それから体感的に30分程経った所で馬車が再び止まった。
結構走ったわね。ここは一体何処なのだろう。
お兄様が無言で私の腕を掴み、立つように促した。そして、優しく馬車を降りる様にエスコートしてくれた。
「ねぇ、お兄様?いつまで目隠しをしていればいいのですか?」
「・・・・・・」
お兄様は無言である。その時サァっと涼しい風がふいた。風に乗って甘くてとても良い香りがした。
この香りは・・・!お兄様の香りではない。まさか・・・。ううん、そんな筈がない。だって、私は彼に誕生日を伝えていないのだから。
でも・・・。
「プレアデス・・・?」
私は以前から何度もこの香りを嗅いでいた。彼の部屋や彼自身からも・・・。ムスクの様なこの香りを。
プレアデスの名を口にすると、私の手を握っている手がピクリと反応した。間違いない、この人はプレアデスだ。
「あーぁ、バレちまったか。ま、着いたからいいか」
そう言って目隠しが外された。着いた場所は小高い丘の上で、丘の下には黄色いひまわり畑が広がっていた。そしてひまわり畑の先には海が見える。
「う・・・、うわぁぁぁぁぁ!凄い絶景ー!」
私はプレアデスの方を見た。プレアデスはこちらを見て優しく微笑んでいた。
プレアデスもまた、バッチリと正装でキメていた。格好いい・・・じゃなくて!!
「え?え?お兄様は?プレアデス?なんで?どうして!?」
「ハハハッ!誕生日おめでとう、ジゼル。サプライズ、だーいせーいこーう!!」
「は!?えっ!?サプライズ?えっ?」
未だ訳がわからずただ驚きで思考が停止している私は、プレアデスに手を引かれ、側に建っているカフェの様なモダンな外観の建物に入った。
更新がギリギリになってしまってすみませんでした!
ここまでお読みくださいましてありがとうございました○┓ペコ
次回の更新は4月16日(火)になります。




