第81話
アンジュの家を後にした私は出来る限りの速さでアンジェロに返事を出して、とうとう本日、我が家の中庭にあるガゼボにて見事姉妹の再会が果たされる事となった訳だが・・・。
椅子に座ってニコニコとしているアンジュに対して私の後ろから出てこようとしないアンジェロ。
「ほら、アンジェロ。アンジュにあなたのお顔を見せてあげて」
プラネタリアのお茶会の時のKYな振る舞いはどこへ行ってしまったのだろうか。アンジェロは私の服の裾をギュッと掴んだままプルプル震えていて、まるで捨てられた子犬みたいになっている。
「・・・・・・・・・(ヒソヒソ)」
「え?あ、はいはい。アンジュ、アンジェロは『ようやく会えたな、我が半翼よ。これで私達は一つになれる』と言っているわ」
「まぁ!私もとても嬉しいです。お姉様!」
「っ!!!・・・・・・・・・(ヒソヒソ)」
「ふむふむ。『お姉様はくすぐったいので、アンジェロと呼んでくれ』と言ってる」
「ふふ、ではアンジェロ・・・。ふふ。少し照れてしまいますね」
・・・いやいやいや!?こんな近い距離で私が通訳に入るのはおかしいだろう!?
アンジェロは後ろから私に耳打ちで伝えたい事を言ってくる。それなりに再会できて嬉しいのだろうが、まだるっこしい!
そして私ですら引いてしまうほどの、このおかしな状況でもアンジュは嫌な顔一つせずにニコニコと顔をほころばせている。
「アンジェロ・・・、ずっと私の後ろに隠れていては、美味しいアイスクリームが溶けてしまうわよ。せっかくアナタの為に用意したのに・・・」
「はわわわわっ・・・・・・!」
私はアイスでアンジェロを釣ってみたが、アンジェロはアンジュの向かいの席に置いてあるアイスクリームの器をサッと取って私の後ろで食べている。・・・ダメだこりゃ。
「ね、ねぇ。二人とも。せっかく会えたのだから何かお互いに聞きたい事とか無いの?今までの事とか」
「・・・・・・・・・(ヒソヒソ)」
「えぇと『アンジュは今、幸せか?』と」
「はい。今の暮らしはとても幸せです。それに、まるで鏡を見ている様に私と似ているアンジェロとも会えてこれ以上ない位幸せです」
「・・・・・・・・・!!!」
アンジェロは一瞬身体がビクついたが、顔を真っ赤にして泣きそうな笑顔になった。あぁ、この娘は姉として本当にアンジュの幸せを願っていたのだ。
「・・・アンジェロ。もういいでしょ?アンジュはこんなにもアナタと会えた事を心から喜んでいるじゃない。アンジュはとても優しいわよ?いじめたりなんかしないから、ちゃんと席についてお話しましょ?」
「・・・・・・・・・ぅん」
アンジェロはおずおずとアンジュの向かいの席に座った。今日のアンジェロはやはり黒のゴスロリ風のドレスを身に纏っていた。対するアンジュは真っ白なフリルの可愛らしいワンピースを着ていた。
うーん、本当に対象的な双子の姉妹よね。でも、二人揃うとやっぱり破壊力がハンパないわ!!二人ともお人形みたいに可愛くて仕方がない。ガゼボの端っこに控えているボニーやユミルも見惚れている。
可愛いは正義って言葉は本当ね・・・っ!!神様・・・!この麗しい双子の姉妹を世に送り出してくれてありがとうございます!!
・・・つってもこの子らの両親や親戚はクズだったけどね。
「そ、そうだ。アンジェロ。こないだお茶会で話してくれた事をアンジュにも話してくれないかしら?あなたの近況とかも含めて」
私が問いかけると、アンジェロは大人しくコクリと頷いた。
「・・・ボクは、ボクの家はきっと、アンジュを教会に置いてきた時からおかしくなっていたんだ。両親は双子の姉妹が産まれると災いをもたらすという一族の呪いを避ける為にアンジュを捨て、残ったボクにアンジェロという男の子の名前をつけた」
えぇ?アンジェロって男の子の名前なの?・・・あっ。もしかして女の子ならアンジェラだったり?いや、当てずっぽうだけど。つか、だからアンジェロの一人称が“ボク”なのだろうか。
「使用人達の噂話でアンジュの存在を知り、両親がアンジュに会いに行った事で噂話が真実である事を確信し、妹といつか再会できる事を夢見ていた。ボクは一人じゃない、とそれだけが心の支えだった」
アンジェロ・・・。
「両親がアンジュに会いに行ったその日・・・。帰り道で両親は崖の上から馬車ごと落ちて・・・死んだ」
「えっ!!!?」
「そんなっ・・・!」
これには流石のアンジュも驚いた様だ。いや私もそれは聞いていなかったので動揺を隠せない。今思い出してみれば、お茶会の時にこの話をしている最中にアンジェロの様子がおかしかったのはこの事を話そうとした為だったのだろう。
「そして、ボクは一族の者たちから、『お前達双子は産まれただけで既に災いだったのだ』と、更に疎まれた。そしてプラネタリアの外れの山にボクを置き去りにした」
うっ・・・。思っていたよりもヘビーな人生だったわ・・・。どうしてアンジェロまでもが養女になったのか謎は解けたけどスッキリとはしないわね。両親が妹を捨てた事、両親の死・・・そして自分までもが捨てられてしまうなんて。その時のアンジェロの気持ちを考えたら胸が締め付けられ、思わず涙が零れた。だってアンジュが伯父さまの養女になったのって、まだ7つの時よ・・・?小さな身体でとても重たい事実を一身に背負い今まで生きてきたのだ。
「空腹に耐え、狼や熊から襲われそうになったり・・・。でもこの時にボクの身体に仮の魂が宿ったんだ。その魂のおかげでボクは川の水を飲んだり魚を釣ったり火も起こせた。そして秋が来て、山の木々が紅葉で美しく色づいた季節に今のパパと出会った」
仮の魂?まさか・・・。アンジェロも転生前の記憶があったりするのかしら?だとすれば“仮の魂”や“仮の身体”とか言っていても不思議ではないけど・・・。
「パパはおじいちゃんだったけど優しいし、ボクを大切にしてくれる。それに、ボクはこうしてアンジュと会う事が決まってるって分かってたから生きてこれたんだよ。ちょっとストーリーが違ったけど」
「ちょっと!アンジェロ・・・?ストーリーって?」
「あっ・・・。これは言っちゃダメだったんだ。どうしよう・・・パパと約束したのに・・・」
私は驚きのあまり、涙が引っ込んだ。聞き間違いかと思ってつい聞き返してしまった。しかし、その後のアンジェロの焦った表情で、先ほどの言葉は聞き間違いではなかったのだと確信した。アンジェロはやっぱりアドアンを知っているんだわ!でも何も知らないアンジュの前でその事を話す訳にはいかない。それに、言ってはいけない事を言ってしまったとアンジェロは動揺してガタガタ震えていてそれどころではなくなっている。
「アンジェロ。大丈夫ですか?アンジェロには先の事が見える特別な力があるのですね。アンジェロがその力を秘密にしたいというのなら、私は誰にも話しませんから。・・・ね?ジセル」
「そ、そうね」
アンジュは席を立ち、アンジェロの横に寄り添ってアンジェロの両手を握りながらそう優しく宥めた。特別な力・・・。そう捉えたか!まぁ、思春期の時のみの不思議な力とか、双子同士ならではの神秘な力とか後からいくらでも誤魔化せるっちゃ誤魔化せるか。どっちかといえば、前世がうんぬんとか言う方がヤバイもんね。
しかし、この手を握り合っている美しきピュアな双子を前にして、よくもこんな打算的な考えが出来るもんだと、そしてそんな自分は汚れてしまっているのかもしれない、と思わず苦笑いした。
「あ、そうだわ。アンジェロ!あなたに見せたい物があったんだわ。ちょっと来てもらってもいいかしら?」
「え・・・?うん・・・?」
「アンジュ、ちょっと待っていて頂戴ね。すぐ戻るわ」
「はい、わかりました。では、私はジゼルの家のお庭を拝見させて頂いてますね」
「ボニー、ユミル。アンジュを宜しくね。くれぐれも日焼けなんてさせないようにね!」
「「承知致しました」」
私はアンジェロを連れて私の部屋に向かった。“見せたい物”は口実でこれからの話し合いをする為だ。
今回みたいにアンジェロがうっかり口を滑らしてもフォロー出来る様に。そしてそんなに怯えなくてもアンジェロと同じ前世の記憶を持つ仲間は他にも居るのだと安心させる為にも、この問題は後回しなど出来ないのだ。
乗りかかった船、拾った子犬は責任持って最後まで面倒を見る!この時の私の心境はそんな気持ちでいっぱいであった。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました(^^)




