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第79話

 全ての試合が終わり、カミーユ様たちのチームは惜しくも準優勝という成績で大会は終了した。

 私とアンジュはカミーユ様の所に行ったアマルシスを公園のベンチで待っているところだ。


「アマルシスさん、上手くいくといいですね」

「うん・・・」


 アンジュが穏やかな表情でアマルシスの成功を祈る気持ちを口にした。いや、本来ならば貴方が頑張るシーンなんだけどね。

 私とプレアデスの事もそうだけど、ライバル?キャラと攻略対象者との恋の成功を祈る主人公ってなんだかシュールよね。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 選手も帰り、ファンの女の子達もカミーユが人払いをした為、控室にはアマルシスとカミーユの二人の姿しかなかった。


「あの、すみません。お時間を頂いてしまって」


 アマルシスは当初、アドアンのカミーユ攻略のシナリオに沿ってアンジュ|《主人公》の台詞を言おうかと迷ったが、自分自身の気持ちを素直に伝える事にした。


「別に平気だよ。ところで話ってなんだい?」

「あの、これ、わ、私とジゼルが心を込めて作ったので受け取ってください!!(言えた・・・っ!)」


 アマルシスは応援幕をカミーユの前に差し出し、返事を待った。

 カミーユは一度その応援幕を手にし、刺繍をしげしげと眺めた。そして、裏返した幕の裏に『いつも応援しています』と小さく綴られたメッセージを見つけた。

 ジゼルと共同で作られたものらしいが、こうしてアマルシスが一人で自分を呼び出したあたり、この気持ちはアマルシスのものだろうと容易に推測出来た。


「これ、試合中とても目立っていてやる気が出たよ。ありがとう。でも、これは受け取れない」

「そう、ですか。えと、わざわざお時間を割いて頂いてありがとうございました!そ、それでは失礼しま」

「これが無いと俺の応援出来ないでしょ?」

「へ・・・?」

「『いつも』って事はまた応援に来てくれるんでしょ?」


 応援幕を受け取ってもらえず、自分の恋は終わったのだと思い、応援幕を返してもらって潔くアマルシスが退室しようとした時に、カミーユから伝えられた返事は思いがけないものだった。


「わ、私・・・」

「レモンの蜂蜜漬けも美味しかったよ。ご馳走様」


 へ・・・?これは一体どういう事なのだろうか。アマルシスは困惑した。自分は振られたのではないのか?あぁ、自分はジゼルを呼び出す為の口実なのか、と無理矢理に納得しかけた時にさらに思いもよらなかった言葉をかけられた。


「俺はジゼルちゃんが好きだったんだよね。でさ、振られても諦めきれなくて。でも、俺は俺の為にここまでしてくれる女の子を放っておける程最低なやつじゃないから」


 アマルシスは自分が、先程考えた『ジゼルのオマケ』的な考えは違っていたのだと反省した。


「正直に言うと、普段大人しそうな君が俺を応援してくれてこんな素敵な応援幕や美味しい差し入れをしてくれて心から嬉しかったよ。改めてありがとう。そしてー」

「あ・・・っ!」


チュッ


「これからも、宜しくね」

「◎✕△♨☆・・・っ!?」


 カミーユは感謝の言葉を述べた後に、アマルシスのおでこに優しいキスをした。アマルシスはとても驚き、発した言葉は言葉にはならず、意味不明なものになってしまった。

 しかし、応援幕を返される下りこそ違ってはいたが、先程の「正直に言うと〜」からおでこにキスの流れは、アドアンのシナリオに沿っていた。つまり、応援幕や差し入れを渡した後のアンジュに対するそれである事をアマルシスは理解していた。それに先程のカミーユ様の言葉は「ジゼルの事を好き“だった”」と過去形になっていたではないか。ならば、もしかして私は・・・。


 無事にカミーユ様ルートに乗れたのかもしれない!!


 アマルシスは、その可能性が大きい事と、おでこへのキスの余韻で胸がいっぱいになってしまい、何か返事をしなくてはとようやく絞り出せた言葉が、


「はい、喜んで・・・」


 と、なんだか居酒屋の店員みたいだったので、後々恥ずかしさで悶絶する事となるのであった。

 

「良かった。じゃぁ、今日はありがとう。気をつけて帰ってね」

「は、はい。こちらこそありがとうございました!」


 カミーユ様と別れ、アマルシスはジゼルとアンジュの待つ応援席へと向かった。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「あっ、帰ってきたわ!」


 私はアマルシスがこちらに向かってくる姿を確認した。私達がアマルシスを待っていた時間は10分から20分の間位だっただろうか。それはとても長く感じられた。

 ここから見る分にはアマルシスの表情は悲しい顔では無いので少し安心をした。それどころかポケーッとしてふらふらしている様にも思える。


「アマルシス!お帰り。大丈夫?なんかふらふらしているけど」

「ジゼル・・・、ただいま・・・」

「アマルシス?えっ?ちょっ?聞いてる?」

「聞いてるわよ・・・聞いて・・・。そうよ!聞いてよ!」

「うわっ」


 ぐでんぐでんだったアマルシスは突如覚醒し、私の両腕を掴んだ。うぉぉ、ビックリしたぁ。アマルシスはその勢いのまま私とアンジュにカミーユ様と話した内容を教えてくれた。

 凄い!アマルシスは無事にカミーユ様ルートに入ったのね!カミーユ様の台詞が途中からアドアンのシナリオに沿っている事に気づいたがそこは、アンジュの前なので私もアマルシスも触れなかった。


「っおめでとぉぉぉぉ!!」

「おめでとうございます!」

「ありがとう、二人とも。二人が応援してくれたから勇気が出せたのよ。本当にありがとう」

「また、後日3人で集まってお祝いしましょうよ」

「でも、まだ付き合うまでには至ってはないけど・・・」

「それは私も同じよ!私とプレアデスは付き合っていないもの」

「それは・・・」


 ちょっと違う、ガッツリと両想いのあなた達とは状況が違うと思ったが、こうして心から喜んでくれている友の顔を曇らすまいとアマルシスは言葉を飲み込んだのであった。


 こうして私達は、カミーユ様のチームの準優勝とアマルシスの恋の成就への第一歩という成果を胸に刻んで帰路へついた。



「ただいまぁ〜」

「おかえりなさいませ、ジゼル様」

「おかえりなさいませ、お嬢様」


 いつも通りのいつもの我が家。ボニーとユミルに出迎えながら私はホッと肩を撫で下ろした。どうにかアマルシスも上手くいきそうだし、後は本当にアンジュの恋だけよね。・・・あれ?私何か忘れている様な・・・?


「あ、ジゼル様。プラネタリアのアンジェロ様からお手紙が届いていますよ」

「あぁ、ありがとう」


 へぇ。アンジェロから手紙かぁ。アンジェロ元気にしてるかな?・・・って、アンジェロ?アンジェローーーー!!?うわぁぁぁぁぁ!!そうだ!アンジェロだ!!今日アマルシスとアンジュと会ったのにすっかりアンジェロの事を話すのを忘れてたわ! 

 ご、ごめん。アンジェロ。そ、そうだ!明日!明日アンジュの家に行って伝えよう!そうしよう!うん!


 アンジュの恋の前にアンジュとアンジェロの再会が最優先だわ。

 私はペーパーナイフで手紙の封を開けて手紙を取り出した。そこに書いてあった事は・・・。


『親愛なるソテイラへ』


 う・・・やっぱりこの設定は活きているのね・・・。


『ソテイラとの運命的な出会いから半月ほどが経ち、ソテイラからの意思の疎通が待ちきれずに、こんなアナログな手段での連絡を取ってしまった。我が仮の身体は、すこぶる調子が良く、いつ我が片翼との再開の日が来たとしても万全な状態でその日を迎えられるであろう。ソテイラの準備が整うまで今暫くこの翼が疼くのを耐えて待っている事にする。しかし、我が身体は仮の身体故にいつまで持つかは分からないからなるべく早めにお願いしたい』


 う、これはどう見ても催促の手紙よね。つまり、いつでもいいから早く会わせろ、と。しかし、アナログな手段とか仮の身体とか前も言っていたけれどなんの事かしらね。アンジェロは何処の次元の何者設定なのか・・・。今度気が向いたら聞いてみようかしら。・・・気が向いたら、だけど。


 とにかく、早くしないとアンジェロの仮の身体が持たなそう(謎)だから早めにアンジュに話をつけておかなくては。

 

 私の夏休みはまだまだ終わりそうにないのだった。

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました((〇┓ペコリ

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