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第78話

 公園の救護室は数人が利用している様子だが、カーテンで仕切られているので誰が入っているかはわからない様になっている。

 私は椅子に座らされ、擦りむいた膝を手当てしてもらっていた。

 カミーユ様とアマルシスは付き添いの人が座る用の椅子に腰をかけて私の治療を見守ってくれている。いや、治療ったって少し擦りむいただけだから消毒してガーゼをあてがわれておしまいなんだけどね。


「傷口は清潔に保ってくださいね」

「はい、お世話様でした。二人もつき合わせちゃってごめんなさい」


 私は救護室からカミーユ様の控室に向かう道すがら、二人に迷惑をかけた事を謝罪した。


「あぁ〜!軽い怪我で良かったぁ」

「ごめんね、まさかジゼルちゃんに怪我をさせてしまうなんて・・・」

「いえ、カミーユ様のせいじゃないですから。ってか、私が勝手に転んでしまったのですから。それより次の試合に向けて身体を休めなくてはならない貴重な時間を無駄にしてしまってすみませんでした」

「無駄な時間なんかじゃないよ。少しでも長く好きな娘の傍に居たいと思うのは間違ってる?」

「か、カミーユ様!えっと・・・」


 私は咄嗟にアマルシスの方を見た。アマルシスは困った様な悲しそうな笑顔を見せた。アマルシス・・・。うぅ、私が勝手にアマルシスの気持ちを代弁する訳にもいかないし、ましてや、私がカミーユ様に不自然に辛辣な態度をとったりしてこれからの試合に影響してしまうのは避けたいし・・・。この状況は一体どうしたらいいのだろうか。


「わ、私先に応援席に戻ってますね。ジゼル、これ宜しく」

「アマルシスッ!!待って!」


 私一人じゃ・・・、アマルシスは私にバッグを託すと走って行ってしまった。


「あのっ!カミーユ様。これ、皆さんで召し上がってください!アマルシスが心を込めて作ったので大事に味わって食べてくださいね!つきそい本当にありがとうございました!!」

「えっ!あっ?ジゼルちゃん?」


 私はアマルシスから受け取ったバッグをカミーユ様に渡して、すぐにアマルシスを追いかけた。

 アマルシスは思いのほか足が遅かったので、すぐに追いつく事が出来た。


「アマルシスッ!」

「ジゼル!?あなたなんでカミーユ様を置いてきちゃったの!?」

「アマルシス・・・。ごめん。私が何を言ってもあなたを傷付けてしまうかもしれない。でも、私はカミーユ様よりもアマルシスの方が大事・・・」

「ジゼル・・・。私の方こそ逃げ出してしまってごめんなさい・・・。カミーユ様のあなたに対する行動や優しい眼差しを見て、「あぁ、私にカミーユ様の心に入るスペースは無いんだ」って思ったら泣きそうになっちゃって。泣き顔を見せる訳にはいかなかったからっ・・・」

「アマルシス・・・」


 “そんな事無いよ”って言ってあげればアマルシスの気持ちは楽になるのだろうか。しかしカミーユ様に好かれている私がアマルシスにそんな言葉を言ったとしても同情・無責任と捉えられてしまうかもしれないし、私がアマルシスにかけられる言葉はカミーユ様に対して失礼になるかもしれない。カミーユ様がアマルシスを好きになればいいのにっていう私の気持ちはカミーユ様の気持ちを無視したものであって、自分勝手でとてもおこがましいものだから。しかし、それでも私は心からアマルシスの恋が報われるといいと願わずにはいられなかった。


『うじうじいつまでも俺様以外のヤローの事で悩んでんじゃねぇよ!お前が好きなのは俺様だろ?』


 プレアデス・・・。うん。プレアデスなら絶対にそう言うわね。プレアデスの笑顔を思い浮かべたらモヤモヤしていた頭が晴れた様に感じた。


「アマルシス!私はプレアデスが好き!!あなたは?」

「えっ?ジゼル急に何・・・?」

「いいから!アマルシスの好きな人は誰?」

「わ・・・私は、カミーユ様が好き・・・カミーユ様が好き!」

「うん。“カミーユ様の心の中の私”は私じゃない。だから、偽者の私なんかに負けないで。遠慮なんかしちゃダメ」

「ジゼル・・・」

「ね、大会が終了したら、応援幕渡しに行こう?」

「・・・・・・うん!」

「今度はアマルシス一人で行くのよ?」

「・・・・・・う、うん!」

「それじゃー、最後まで気合を入れて応援するわよ!」

「うん!ジゼル、・・・ありがとう」

「お礼を言われる事なんてしてないわよ」


 アマルシスはこの時、一大決心をしていた。自分の気持ちを綴った応援幕をカミーユに渡して全てをそこに託す事にした。自分の心のままに行動する事が大事なのだと気付かせてくれた大切な親友の為にも自分の心に正直でありたい。結果振られたとしてもその方がスッキリ納得出来るであろうと。



 私はアマルシスと二人で応援席へと戻った。そこにはアンジュと一緒に待っているはずのフェルナンドの姿が無かった。


「お待たせ、アンジュ」

「お帰りなさい、ジゼル、アマルシスさん。・・・なんかスッキリした顔してますね」

「えっ、そう見える?」

「はい、緊張が取れたみたいです」

「ふふ、だとしたらジゼルのおかげだわ」

「だから私は何もしてないって」


 確かに、先ほどとは違ってアマルシスは肩の力が抜けた様に見える。


「フェルナンド様はどこ行ったの?」

「あ、二人が遅いので探しに行ってくると言って先ほど席を立たれたんですけど、すれ違いませんでしたか?」

「アマルシス、見かけた?」

「いいえ。一度もすれ違っていないと思うわ」

「行き違いになっちゃったのかしらね。待っていれば戻ってくるかも」


 もー!アンジュの傍に居てくれるって言ってたのにー!アンジュを一人にするなんて。しかし、なぜ私達を探しに行ったのだろうか。今日初めて会った相手に対して過剰に心配しすぎじゃない?こんな事言ったらアレだけど、ちょっと怖い。


 アドアンにおけるフェルナンドは一つ年下の後輩で、本来ならば初対面はフェルナンドが入学してからである。弟キャラといえば弟キャラではあるが、一見親切で優しそうな見た目に反して、したたかにアンジュ(主人公)を翻弄する振る舞いも見せる腹黒・・・ゲフン。もとい小悪魔キャラなのである。そして、主人公に対する執着は若干ヤンデレというとんでもないてんこ盛りに盛り付けられたキャラ設定なのだ。


 フェルナンド・・・油断は出来ない子よね。でも、主人公を好きな気持ちは一途・・・。ヤンデレ加減さえコントロール出来ればなんとか・・・。でも流石にそんな高等テクニックをアンジュに求めるのは無理があるわよね。やはり、アンジュの相手はアルド様しか・・・。


「あぁ、二人とも帰ってきてたんですね」

「うひゃぁ!!」

「うひゃあ?」

「わぁー・・・、考え事をしていたので驚きました」

「それは、すみません。申し訳ない事をしました」

「いえ、こちらこそ。探しに行ってくれていたみたいでわざわざすみませんでした」

「ここに来る途中の貴女を思い出して、また迷子になっていたら大変だと思いまして。最初から貴女達と一緒に行けば良かったですね!」


 う、うぉぉ・・・。ビックリした・・・ビックリしたー!!!ふいにフェルナンドに声をかけられて驚いた私。・・・ていうか、えっ?だからフェルナンドがついてきたらアンジュがひとりぼっちになってしまうでしょうが!


「あぁ、アマルシスとフェルナンド様の二人で行ってもらえば良かったですね!」

「・・・・・・そうですね。でもアマルシスさんは方向音痴ではなさそうなので僕は必要ないかもしれないですけど」

「うっ。まぁ、そうですけど。でもそれでしたら、アマルシスが居ればフェルナンド様についてきてもらわなくても大丈夫でしたよね。現にこうして戻ってきてるんですし!」

「いえ、それでは僕が安心出来ませんから!」 

 

 な、なんなの?物凄い食い下がって来るんですけどっ!つい、ムキになって反論してしまったわ。会話の途中ちょっと怖い表情したし。 


「・・・ジゼルさんは僕が迷惑ですか?」


 フェルナンドがキュルンっと瞳を潤ませて可愛らしい表情をした。くっ、卑怯だわっ!フェルナンド。男の子でその表情が出来るなんて。


「い、いえ、そんな、事は、ない、ですけ」

「良かったです!!」

 

 どもる私。そして私の返事に食い気味に歓喜の表情を浮かべたフェルナンド。うぅ、可愛いけども!ヤバい。この子はヤバい。下手な態度を取ってしまったら泣かせてしまうかもしれないと、ひいてはヤンデレの“ヤン”の部分を引き出してしまうかもしれない、という危機感を感じてキツい態度で接する事が出来ない。これがフェルナンドマジックなのか!

 

 ま、まぁ、今日さえ乗り切れば来年まで会う事も無いでしょうからとりあえずは無難な態度で乗り切ろう。

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました((〇┓ペコリ


次回更新日は3月24日の日曜日になります。

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