第77話
再開したアマルシスが目をひん剥いて私とフェルナンドを交互に見ながら口をパクパクさせて驚いたのは言うまでもなかった。
「(小声)ちょ、ちょっと・・・!?ジゼル、あなた一体何をしてきたの?何でフェルナンドと一緒に居るのよ!?」
「(小声)いやぁ、二人と別れた後に席の場所を聞いてなかった事を思い出して、焦ってキョロキョロしてたら声をかけられて・・・」
「(小声)はぁぁぁぁ!?そこで何でフェルナンドに声をかけられるのよ?どんな偶然よ!?」
「(小声)そ、そんな事よりアマルシス!フェルナンドとカミーユ様が従兄弟だって知ってた?」
「(小声)あぁ、知ってたわよ。だからカミーユ様とフェルナンドの目の色が同じなのよ。ってこれ裏設定だけどね」
「(小声)そっかぁ。目の色が同じなのは被ってた訳じゃなかったのね」
「でも、偶然でしたね。僕の応援席の隣だったとは」
「ひぇっ!そ、そうですね!本当にありがとうございました」
ふいに話しかけられたからビクンとなってしまった。
あれからフェルナンドが、自分が応援する予定の応援席が最前列のド真ん中なので、そこから左右に順に当たってみようという提案でここに来てみたら、一発で大当たりで無事に二人と再開出来た、という顛末だ。・・・と言う事は。
「(小声)アマルシス!私がフェルナンドに声をかけられなかったとしても、結局はここで会ってたんじゃない!」
「(小声)そ、そうなるわね・・・。でも、何でかしら・・・?」
「(小声)とりあえず、それは後で考えるとして今はカミーユ様を応援しましょ!」
「ええ、そうね!応援幕そっち持って!ほら、アンジュも!」
「わ、は、はい!こう、ですか?」
「へぇ、それは手作りですか?」
フェルナンドが感心した様に応援幕を眺めた。
「そうですよ!アマルシスがほぼ全部手掛けたんです(ドヤッ)」
「なんでジゼルがドヤッてるのよ」
「アマルシスさんが提案したんですか?」
「いえ、発案はジゼルです」
ん?やけに応援幕に喰いついてくるなぁ。誰が提案したとか関係なくない?
「へぇ・・・。カミーユ兄さんも喜ぶと思いますよ。こんな素敵な応援のされ方は初めてでしょうから」
「えっ!他の人はやらないの?」
私は思わず応援席を見回した。本当だ。誰も応援幕を持ってきていない。アドアンでカミーユ様がアンジュの応援幕に気付いたのは、応援幕を持ってきたのがアンジュだけだったから?現実はゲームより奇なり、だわ。体感して初めて分かることもあるのね。そんな事より真面目に応援しなくちゃ。
グラウンドでは、カミーユ様率いる我が学園のチームが相手チームと熾烈な戦いを繰り広げている。
しかし、カミーユ様のチームの方がスピードやテクニックが一枚上手だ。
「カミーユ様、早い!」
アマルシスがキラキラとした目でフィールドで華麗且つスピーディーに相手ゴールにボールを叩きこんでいるカミーユ様を見ている。恋する瞳だわ。
カミーユ様がゴールを決める度に黄色い歓声が響き渡る。アマルシス、ライバルは多そうよ・・・。
「ほら、アマルシス!負けてないで応援しなくちゃ!」
私はアマルシスの背中をポンと押した。アマルシスはビクッとして一瞬固まったが、応援幕をギュッと握り締めて、深呼吸をした。そして。
「か、カミーユ様頑張ってぇぇぇぇぇ!!!」
アマルシスは今まで出したことがない大声で叫んだ。カミーユ様!ここよー!ここにも周りの女の子に負けないくらい真剣にカミーユ様の事を想って応援している女の子が居ますよー。
あ。カミーユ様がこちらをチラッと見たわ!やはり応援幕が目立つのかもしれないわね。カミーユ様はこちらに向かってクロスの先を向けた。
「わぁ!アマルシス!カミーユ様こっちに向かって答えてくれたわよ?」
「う、嘘、嘘!ぐ、偶然よ!」
「あぁぁ、ビデオかカメラがあれば良かったのにねぇ」
「いいの!この目にしっかりと焼き付けておくから」
あ、そっか、そうよね。アマルシスはそんな物が無くても絵で再現出来るもんね。それにそんな無い物ねだりな事を言ってもしょうがないしねぇ。つくづく私よりもアマルシスの方がこの世界に順応している事に気付かされる。あ、こっちの世界にはカメラはあるよ。ただ、カラーではないし値段もお高いのであまり普及はされていないけどね。だから、この世界で画家という職業はとても重宝されている。
「(ボソッ)ビデオ・・・?」
「え?何か言いましたか?フェルナンド様」
「あっ!いえ。カミーユ兄さんは凄いなぁ、とつい口に出しちゃいました」
「あぁ!そうですね!何であんなに派手に軽やかに動けるんでしょう〜」
「ふふ。才能ですよね。・・・・・・・・・」
隣でフェルナンドが何かを呟いたので、数回会話のキャッチボールをしたが、フェルナンドが何か難しい顔で押し黙ってしまったので私はそっとしておく事にした。私何か気に触ることでも言ってしまったのだろうか?
これ以上フェルナンドに話しかけるのも気まずい感じなので、アマルシスを挟んだ向こうのアンジュの方を見た。
アンジュは退屈していないかしら?アドアンみたいに自発的に応援に来ている訳では無いので、気にはなってはいたがアンジュは楽しそうにくるくると表情を変えて試合を見ているので安心した。
試合終了のホイッスルが鳴り、カミーユ様率いる学園チームが圧倒的な点差で勝利した。
「ほら、アマルシス!行くわよ」
「う、うん」
「アンジュはどうする?」
「私は興奮しすぎて少し疲れちゃいました。ここでお待ちしています」
「そう?知らない人が来てもついていっちゃダメだからね!」
「ふふ、気をつけます」
「あ、僕もここから離れないので何かあれば僕が守りますよ」
「あ・・・ありがとうございます」
「それじゃぁフェルナンド様、よろしくお願いしますね!」
ふふ。アンジュとフェルナンドの組み合わせも悪くないわね。前回のハルジオンさんの時は肩透かしだったもの。このタイミングでフェルナンドと出会ったのはチャンスかもしれないわ。二人に何か芽生えればいいなぁ。まぁ、アンジュの気持ち最優先だけど。
私とアマルシスはアンジュとフェルナンドを応援席に残したままカミーユ様達の元へと走った。
カミーユ様達は試合を終え、選手の控室に戻る所だった。
「カミーユ様!お疲れ様でした!」
「きゃぁぁ!カミーユ様!」
「おめでとうございます!カミーユ様」
うはぁ。カミーユ様と接触したいのは我々だけでは無かった。カミーユ様のファンの女の子達が壁の様にカミーユ様を囲っている。
「かっ、カミーユ様っ・・・うわぁっ!」
アマルシスの為と思い果敢にも人の壁に突っ込んで行ったものの、思ったよりもぎゅうぎゅうだった為に、よろけて転んでしまった。
「ジゼルっ!大丈夫?無茶しないで・・・」
「ごめんごめん。アマルシス。あいたたた・・・」
「ジゼルちゃん!?ちょっとごめんね、開けて、通して!」
「「えっ?」」
列の後ろの方だというのに、カミーユ様は私達の所まで人混みを掻き分けてやってきた。
「・・・!!転んだの?大変だ。皆俺この娘を救護室に連れて行くから!」
「うわっ?えっ!?」
カミーユ様は私をひょいっと抱き上げると、仲間に一言断ってからスタスタと歩き出した。カミーユ様・・・。攻略対象者の中では一番背が低いけど、れっきとした殿方なんだわ。私を軽々と持ち上げた腕はガッシリとしていた。
ちょっ!!感心してる場合じゃないわ!アマルシス!!アマルシスは!?後ろを振り返ると、アマルシスはちゃんとついてきていた。私ってば何をやってるんだ!
アマルシスの為とか言いながら自分の方がカミーユ様にお姫様だっこで運ばれてちゃ立つ瀬がないわ。
そう思っていたのだけど、数分後、救護室で私とアマルシスとカミーユ様がカミーユ様のファンの子達から切り離された状態だという事を把握したら、あれ?『身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ』じゃね?かろうじて立つ瀬、あったじゃんなんて思ってしまったりして。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました((〇┓ペコリ




