表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/92

第76話

 サシャ公園はラクロス大会が行われる為、前回春先に訪れた時よりも人が多く、屋台や露天も出ており賑わいを見せている。


「ア、アンジュ!迷子にならない様にしっかりついてきてね」

「わかりました!」


 ここにプレアデスやアルド様が居ようものなら『どっちかといえば迷子になるのはジゼルの方だ』とか言われそうだわ。ハッキリと否定が出来ないのが悔しい。

 アンジュは私の麦わらポシェットの紐をキュッと掴んで迷子対策をしている。・・・良かった。アンジュが掴んでくれてさえ居ればはぐれる事はないわよね。私が。


 アマルシスとは公園を少し入った所のウンディーネ像の噴水の所で会う約束をしている。ここはアドアンで攻略対象者とデート時に待ち合わせをする所なのだ。アマルシスと、当日どこで待ち合わせをするかという話になった時に“ここしか無いよねー!!”と二人で盛り上がったものだ。


「ジゼルー!アンジュー!」


 噴水前でアマルシスがこちらに向かって手を振っている。アマルシスは左右の三つ編みの先っちょをそれぞれ根元と一緒にリボンで留めて輪っかにしている。コアラみたいで可愛い。いや本当に可愛いのよ?私のボキャブラリーが貧困すぎてコアラ以外に例え様が無かったけど。ともあれ、私はアマルシスに向かって手を振り返した。


「アマルシスー!待ったかしら?」

「アマルシスさん、おはようございます」

「ついさっき着いた所よ。アンジュ、おはよう。しかし、凄い人ね」

「そうね・・・。実際に体験して初めてこの人ごみの凄さを思い知ったわ」


 ゲームのアンジュはこんなかんかん照りの日に、大勢の人ごみの中、一人でひたすらカミーユ様を応援していたのか。本当に乙女ゲームの主人公は体力とかバイタリティに溢れてるわよね。今日はそのアンジュ(主人公)ではなくて、アマルシスが頑張らねばならない。


「アマルシス・・・屍は拾ってあげるから安心して!」

「やめて!縁起でもないから!めちゃくちゃいい顔で親指立てないでよね!さぁ、早く会場に行きましょう。我が家の使用人達に一番良い席を取ってもらっているから」

「さすがアマルシス!あ、飲み物だけ買って行こうか。熱中症になったらマズイわ」

「ジゼルもアマルシスさんもしっかりしていて頼もしいです」

「んまぁね〜!私ももうすぐ16になる事だし?レディの品格が出てきたって事かしらね。フフン」


 私は調子に乗ってよせばいいのに大袈裟に自分を過大評価した。そして、悪ノリした私は勢い余って「飲み物3人分買っていくからアマルシスとアンジュは先に行ってて」と言ってしまった。あの時の私をアホと言わずして何と言えばいいのか。


「ぇ。飲み物を買ったはいいけど・・・。どこら辺に居るのかしら」


 レディの品格に満ち溢れていた筈の私、ここにきて応援席の場所を聞きそびれていた事に気付く。

 ひぇぇ!これは、やってしまったわ。と、とにかく一番いい席といったら、一番前の席か屋根のある所か。


「どうしたの?お嬢ちゃん。迷子?」


 キョロキョロしている私を見かねたのか、一人の男性が私に声をかけてきた。私を“お嬢ちゃん”って呼んだという事は私よりも年上の頼れる大人ね!!


「は、はい実は友達と試合を見に来たのですけど・・・。ってえぇぇぇぇぇぇ!?」


 振り返ってみるとそこには・・・。ふ、フェル・・・フェル・・・フェ ル ナ ン・・・


「ドォォォォオォォッ!?」

「えっ?あれ?僕たちどこかで会ったかな?」


 いや、どこかで会ったどころの話じゃないわ!何故フェルナンドがここに!?フェルナンドつったら来年学園に入学してくる年下の攻略対象者じゃない!

 はぁぁぁぁぁぁぁ!?今、お、お嬢ちゃんって、ぉ、ぉ、お嬢ちゃんって言ったわよね?私が年下に見えたって事?いや、重要なのはとりあえずそこじゃない。フェルナンドと来年の入学式よりも前に出会うエピソードなんてあったっけ?しかもアンジュじゃなくて私が。


「い、い、い、いや、えっとその・・・。初対面ですし、だ、大丈夫です。なんとかなると思いますから。ありがとうございました~!ヘヘヘ・・・」


 いやぁ!なんかヘラヘラした回答しか出来ない。なんとなくだけどフェルナンドとはここでは関わりあっちゃダメな気がする。


「あっ!ねぇ待って!」


 これ以上何かトラブルに巻き込まれるのは御免だとそそくさと退散しようとしたのに、フェルナンドにがっしりと腕を掴まれてしまった。


「あの、貴女はもしかしてファレイユ公爵家のご令嬢のジゼル様ではないですか?」

「あ・・・はぁ、そう、ですけど・・・?」

「あぁっ!ごめんなさい。僕はフェルナンド・ロクサーヌといいます。先ほどは“お嬢ちゃん”なんて呼んでしまって大変失礼をしました」


 フェルナンドが私に名を名乗り、深々と頭を下げた。ふわふわで、まるで飴細工の様な綺麗なカッパー色をした頭のてっぺんが見える。


「いえっ!とんでもないです!っていうか、あの、何故私の事を知っているのでしょうか?」


 最大の疑問である。フェルナンドは頭を上げてアンバー色の瞳で私をじっと見つめた。


「ジゼル様の事はカミーユ兄さんからお話は色々伺っています」

「え?カミーユ兄さん?」

「あ、カミーユ兄さんの母親と、僕の母親が姉妹なので従兄弟同士なんです」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?イトコ!?」


 これは公式設定には出ていない情報である。そ、そうなの!?でもそういえば、キャラクター紹介を見て、フェルナンドの瞳の色がカミーユ様と同じだなっと思ったわ。単なる被りと思っていたけど、もしかしたら裏設定なんてものがあったのかもしれないわね。後でアマルシスに確認してみましょう。


「はい。カミーユ兄さん、モテるからいつも周りに女の子がいっぱい居たのに最近は女の子と遊ばなくなったからどうしたんだろうって思ってたら、「好きな子が出来たから」って」

「へ、へぇ・・・。そうなんですね」

「誰なのかって聞いたら、「ピンク色のふわふわの髪の毛の魅力的な女の子だよ」って。気になって調べたらこの国にはピンク色の髪の毛の女性はファレイユ公爵家のジゼル様しか居ないみたいだったので」


 !?そういえば産まれてこのかた私と似た様な髪の毛の色はお兄様しか見た事が無いなぁ。因みに父はローズゴールドで母はプラチナブロンドである。


「声をかけた時は麦藁帽子でわからなかったのですが、振り返った貴女の髪色を見て『この人だ』って思いました」

「いや、私は・・・」

「ええ、好きな方がいらっしゃるんですよね?カミーユ兄さんから聞きました。だから今日の試合で格好いい所沢山見せるんだって張り切ってましたよ」

「そうなんだ・・・」


 カミーユ様。・・・その勇姿は是非アマルシスに見せてあげてください!!よっしゃ、今日のカミーユ様はめちゃくちゃ格好いいだろう事をアマルシスにも伝えなくちゃ!うぉぉ。早くアマルシス達を探し出さなくちゃー!


「じゃぁもうすぐ試合が始まってしまうので私はこれで・・・」

「あぁ、そうですね。で、お友達はどこにいらっしゃるか検討はついてるんですか?」

「それが、その・・・。これから探す所で・・・」

「ふ・・・っあははっ!そういえば迷子だったんですよね!ふふ。じゃぁ、僕も一緒に探しますよ。ジゼル様このままじゃお友達と合流出来そうになさそうなので」

「うっ、フェルナンド様、まだ私の事小さなこどもだと思ってらっしゃいませんか?」

「ふふふっ!す、すみません。だってジゼル様、そっち方面には入り口ありませんよ?」


 私の向かおうとした方面を指差してツボに入った様に笑っているフェルナンド。私がアマルシス達の元に辿りつけなかったら、せっかく勇気を出してここまで来たアマルシスに心配をかけてカミーユ様の応援に集中する事が出来ないかもしれない。アンジュだって私には前回の事件の事もあるし余計に心配するだろう。下手したら二人とも応援を諦めて私を探しに来るかもしれない。うわぁぁ!そんな事になっては困る!非常に困る!でもフェルナンドと一緒に行動するのもどうかと思うけど・・・。


ピィィィィィィィィィィィィィッ!!


 その時大会開始のホイッスルが鳴った。焦った私は咄嗟に、もうこの際どうとでもなれ!とフェルナンドに案内とアマルシスとアンジュ探しをお願いする事にしたのだった。うう・・・。

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました(^^)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ