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第74話

プレアデスの前世の事を知ったお茶会の日の夜の事。お互い前世で出会っていたらなんて事に想いを馳せた。


 あの後、普通に何食わぬ顔してアルド様のお屋敷に玄関から帰ったけど特に誰に何を言われる訳でもなかったので、少し拍子抜けした。ボニーとユミルは感づいていたみたいだけど。

 

 その翌日は観光やら何やらでお兄様に引っ張り回され、ゆっくりもしていられないまま私達は、我が家に帰ってきたのであった。かなりヘビーな日程だったわ。

 あの夜以降、プレアデスとは二人きりにはなれなかったが、心が通じあっているのだと思うだけで心が満たされた気分で胸がいっぱいだった。


 さて、戻ってきたとはいえ、夏休み中にやる事は沢山あるので、結局ゆっくりもしていられない。

 今日はアマルシスとカミーユ様の試合の応援の為、応援幕作りとお茶会の報告をしにアマルシスの屋敷に来ているのだ。


「いらっしゃい、ジゼル!なんか久しぶりな気がするわ」

「あはは!なんだかんだで2週間ぶりよね。はい、これお茶請けに」

「まぁ!ありがとう。休憩の時に頂きましょう。さ、どうぞ入って」

「お邪魔しまーす」


 アマルシスの部屋に入り、テーブルに持参してきた応援幕の生地を広げた。素材の準備は私でデザイン・設計はアマルシスの担当だ。


「手触りのいい生地ね。刺繍もしやすそう」

「カミーユ様と言ったら赤、かなっと思って」

「そうね、文字は艶やかに金とか黄色が映えそうね」


 わいわいと盛り上がりながら、アマルシスがデザインした文字をフェルトで切り抜き、布に縫いつけていく。細かい刺繍担当は、アマルシスである。

 これでもハンカチに刺繍をした経験があり、少しは嗜みがあると主張したのだが、その時の私の手の包帯の事を知っていたアマルシスに却下されてしまった。

 

 アマルシスは刺繍も上手く、私が文字の縫い付けにモタモタしている間にすいすいと仕上げていった。


「アマルシス、もしかしてコスプレ衣装や小物作りとかもやってた?」

「えぇ。アドアンの衣装とかも実際に作ってアシスタントさんに着せたりして絵の参考にしたりしたわ」

「うわぁぁぁ!忙しそうなのに良く出来たわね?」

「まぁ、一日が足りないと思っていたけど、結局好きな事だったから出来たのよね」

「アマルシスは、前世のが良かった?」

「ううん。私は前世も良かったけど今の生活も好きよ。ジゼルは?」

「私・・・。私の前世は今と正反対で、地味で冴えないし恋愛も不器用で、あっ、今もそこは変わらないんだけど。でも、そっか。そういう事か」

「なにー?自分一人で納得しちゃって?」


 アマルシスが手を止めて、私に返答をせまってきた。


「いや、大した事じゃないんだけど。どんなに他人の生き方を羨んでも、自分の人生を面白くするのもつまらなくするのも自分次第って事よね。前世と比べてどっちがいいかなんて考えるまでもなく。今の人生をどれだけ面白く過ごせるかを考える方が重要よねって思って」

「まぁねー、こう言ってはなんだけど前世の方が良かったって思っても前世には戻れないし、それならこの世界で出来る事を模索してくしかないわよねー」

「アマルシスはさ、アドアンの世界に来て恋愛したいって思わなかった?」

「えっ!!!!!い、いや、わ、わたしは、そんなっ!め、めっそうもない」


 いやいや、なにこのあからさまな動揺。そりゃ、自分の生み出したキャラ達にそんな想いを抱くかどうかはアレなんだけど、誰がどう見たってアドアンのキャラは魅力的なキャラばかりだからアマルシスが恋心を抱いたっておかしくない筈だ。

 ちょっと前の私なら、私を含めたアンジュとそのライバル以外のキャラが攻略対象に恋心を抱く事なんて不具合でしかないと思っていた。

 アマルシスはずっと、“この世界はパラレルワールド説”を唱えていて私が攻略対象者(プレアデス)と恋愛をする事も応援してくれていた。

 もし、もしアマルシスにもそういう相手が居るのならば私だって応援したい。それに私はなんとなくではあるが思い当たる節がある。


「アマルシス。あのさ、この応援幕の裏にこっそりとアマルシスの気持ちを刺繍してみたらどうかしら」

「や、やだっ!それってアンジュがするイベントじゃない!そ、それに何で私がカミーユ様にっ・・・」


ガチャンッ


「ぎゃぁぁぁ!紅茶がーーー!」

「わっ、わっ!ごめんなさい」


 アマルシスが紅茶のカップを倒したのでテーブルの上に紅茶が零れてしまったのだが、私が咄嗟に応援幕の布を持ち上げたので、布に紅茶がかかる事は無かった。

 

 ふふ、この反応は・・・アマルシスがカミーユ様を好きだと結論づけるには材料が少ないのでカマをかけてみたのだけど、どうやらドンピシャみたいね。アマルシスはカミーユ様に恋をしている。

 私がアマルシスと裏庭の薔薇の広場でアンジュについて相談したあの日、カミーユ様を間近で見たアマルシスの反応は、恋に落ちた乙女の様だった事を思い出した。

 もう一つ思い出したのが、アドアンのカミーユ様のラクロスの大会の応援イベントでは、応援幕の裏にこっそり自分の想いを刺繍するかどうかの選択肢が出るという事である。

  もちろん私達はこの世界で現実に生きているので選択肢など出るわけも無く、自らの行動でどうするかを決めていかねばならないのだけど。


 テーブルに零れた紅茶を拭き取り、アマルシスの家のメイドさんに再度テーブルクロスをセットしてもらった。メイドさんが退出して落ち着いた所でアマルシスは俯いて、か細く小さな震える声で呟いた。


「・・・・・・ジゼルは気付いていたの?」

「うーん、気付いていたというよりも、なんとなくそう思ってただけで、今のアマルシスの反応で確信したって感じね」

「わっ私の反応・・・!?・・・うん。そうね。ジゼルと話している時にカミーユ様に会ってから、カミーユ様を思い出すと胸がキュゥッってするの」

「アマルシス・・・」

「でも、カミーユ様はジゼルの事が好きだし、本来ならばアンジュと恋に落ちるキャラだし、私なんてアドアンの主要キャラでもないしっ。いいのっ」

「アマルシス・・・そんな・・・」

「いいのっ。自分が考えたキャラに恋するなんておかしいもの」

「良くない!ちっとも良くないわ!」


バンッ


 私は興奮してテーブルを両手で叩いて立ち上がった。


「ジ、ジゼル!?」


 アマルシスが、ビクッって反応をしてこちらを見上げている。自分でもこの行動はビックリだが、アマルシスが呆然としている内にこのまま一気に畳み掛けるわよ!


「自分が考えたキャラに恋するのってアマルシス的には微妙かもしれないけど、パラレルワールドだって言ったのはアマルシスじゃない!」

「ジゼル・・・」

「カミーユ様だって今は私の事が好きみたいだけど、私がプレアデスを好きな以上フラグだって折れるはずよ。つか、折れる様にとちゃんと断ってきたわ。キッカケさえあれば完全に折れると思う」

「キッカケ・・・?」

「そうよ!カミーユ様の相手は私でも、そしてまさかのアンジュでも無く、カミーユ様の気持ちは宙ぶらりんのまま。つまり、カミーユ様を攻略する人が不在な状態なのよ」

「・・・まぁ、そういう事になるの、かな?」

「アドアンで、ハッピーエンドを迎えたキャラ以外のキャラは?一生独り身なの?そんな訳ないじゃない。誰かにとられる前に、行動しなくちゃ!私達はカミーユ様を攻略する方法を知っているのよ?」

「う・・・。そんなに上手く行くかしら・・・?もし、もし上手くいったとしてそれは果たして恋愛といえるのかしら?」


 おっふ。確かに、ゲームを攻略しているのと実際に恋愛するのは違うかもしれないけど、それを言ったらアドアンのキャラと恋愛している私にだって同じ事が言えるわよね。まぁ、プレアデスは他のキャラと違って中身は“冬樹”という日本人だけど。


「アマルシス、私だってあなたの恋を応援したいわ。頑張ってみましょうよ!」

「ジゼル・・・ありがとう。私頑張ってみるわ!」

「うん。せっかくこの世界に転生したんだもの、アマルシスも自分の思うとおりに、後悔しないように!そんで何十年か後にこうしてお茶でも飲みながら『我が人生に一片の悔いなし!!』って語り合いましょうよ」

「プッ!何それ、世紀末覇者か何か?フフッ!影響され過ぎよ!アハハ」


 思い切って決意をしてからのアマルシスの行動は早かった。小さく小さく、でも一針一針とても丁寧に心を込めてその胸の内を応援幕の裏に施した。


 この時からアマルシスが私をときたま“拳王”と呼ぶ様になってしまってつらみ。

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました(^^)


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