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第72話

 アンジェロと美味しそうなスイーツを選んで先程とは違うテーブルについた。

 二人で違うスイーツを取って分け合いっこをするのだ。名付けて、“ガッツリ食べて仲良くなろう”作戦だ。


「ねぇ、アンジェロ。眼帯してる方の目、悪くなっちゃいそうだから取らない?」

「こ、これはっ!邪眼を封じ込めている故、外すと世界が大変な事に・・・」

「大丈夫!私は救世主(ソテイラ)なんでしょ?私が居れば大丈夫よ」


 設定に乗っかりつつ、眼帯を外す様に促した。だってせっかくアンジュと同じ可愛い顔しているんだもの。眼帯で隠してちゃ勿体無いわ。


「う・・・うぅ。しかし・・・」

「大丈夫!何があっても私が守ってあげるから」

「っ・・・!!」


 アンジェロは顔を真っ赤にして暫く俯くと、素直に眼帯を外した。


「やっぱり!無い方が可愛いわ!思った通りよ」

「まぁ、可愛らしい」

「まるで、天使の様ですわ」

「一気に場が華やぎましたわね」

「うぅ・・・、恥ずかしい・・・」


 これには近くのテーブルに座っていた貴婦人達も私と一緒に感嘆の声をあげた。

 

「そ、救世主・・・。やっぱり恥ずかしいから・・・」

「大丈夫よ、アンジェロ。周りを見てごらんなさい。こんなにも皆があなたを可憐な花だと仰ってるのよ。あなたはもう、堕天使なんかじゃないわ」

「はぅっ!(救世主の笑顔が眩しいっ)」


 アンジェロは周りを見回し、周りの優しい目が自分に向けられているのだと理解すると、それ以上狼狽する事はなく大人しくスイーツを食べ始めた。


「あぁ、ほら。お口についているわ、アンジェロ」


 私はアンジェロの口の周りのクリームをハンカチで拭った。


「あ・・・ありっがと・・・(わぁぁ。なんだろう、凄くドキドキする)」


 ふふ。妹が二人に増えたみたい。色々こじらせた厄介な()だと思っていたが、こうして接してみると人見知りで、虚勢を張っていただけなのかな、と感じた。


 一通り二人でスイーツを堪能した後、私はアンジェロと次に会う約束を交わして別れた。そしてイアンさんとお母様の元へ様子を見に向かった。

 お母様はプレアデスのお母様のベガ様と、アルド様のお母様のシャルロッテ様と3人でテーブルを囲んで談笑をしていた。


 うわぁ。3人揃うと迫力があるなぁ。清楚で可愛らしいシャルロッテ様、色っぽくて(あで)やかなベガ様。私のお母様も若干吊目気味で気が強そうな(実際強いが)顔つきだが凛とした大和撫子タイプである。三者三様、同じ美人でもそれぞれ異なったタイプである。

 元々お母様とシャルロッテ様は同世代だし、同じ年のこどもが居る点で仲がいい。そして、シャルロッテ様はアルド様が幼少期からプレアデスと遊んでいた点から、ベガ様とも仲が良いと思われる。そこにお母様が加わって3人揃うと一体全体どんな会話になるのだろうか。少し興味があるので声が聞こえる程度に離れた場所で3人の会話に聞き耳を立てた。

 

 ・・・もしかして配偶者に対しての愚痴だったりして。


「ジゼルさんがプレアデスと婚約してくれたら私達も安心なんですけどね」

「まぁ!うちのジゼルがプレアデス殿下のお相手だなんて、おこがましいですわ」


 ・・・ん?私の話?


「じゃぁ、アルドと婚約はどうかしら?ジゼルちゃんみたいな可愛い子なら大歓迎よ」

「あら、うちだって大歓迎よ!」

「ベガ・・・。プレアデス殿下なら選び放題じゃないの。うちはジゼルちゃんじゃないと・・・」

「シャルロッテったら。プレアデスもジゼルさんじゃないと・・・」


 わー!わー!なんの話?なんの話!?なんか私の話題で揉めそうな雰囲気になってない?


「まぁ、お二人とも。うちのジゼルは外に出すには恥ずかしいぐらいの娘でして、王子様のお相手なんてとても務まりませんわ。本日こちらにいらしてるお嬢様方からお選びになった方が懸命かと・・・」


 おーかーあーさーまー!!!異論はありませぬが、とことん娘をdis(ディス)るのはやめてください。


「ですが、プレアデスはジゼルさん以外と結婚する気はないって言ってるんですの」

「あら、アルドだって昔からジゼルちゃんしか見てませんのよ。アルドの方が先にジゼルちゃんを見初めたのに・・・」

「まぁぁ!こうなったらジゼルさんに決めてもらいましょうよ!ねぇジゼルさん?」


 うぉぉぉぉ!ベガ様、少し離れた所から静観していた私に気づいておられたか!その奥でお母様の「あんたは余計な事を言うんじゃないわよ?」ってオーラが物凄い。


「まぁ、ジゼルちゃん!今日も可愛らしいわね」

「ありがとうございます、シャルロッテ様」

「ジゼルさん、こちらに来てお座りなさいな」


 うわぉ。なんかママ同士バチバチしてる・・・?お母様の向かい、シャルロッテ様とベガ様の間という世界一座りたくない席へと誘われた。いや、これ私が正直な気持ちを伝えた所で絶対に険悪な雰囲気になるでしょ。


「失礼ですが、お嬢様は少し人に酔われてお疲れの様子ですので、どこか人の居ない場所にて休ませて頂きたいのですが」


 スッと私の前にイアンさんが立って、私より先にベガ様に返事をしてくれた。


「まぁ!それは大変!ヒース!客間に案内してあげてちょうだい」

「畏まりました。ジゼル様、こちらへ」

「す、すいません。失礼致します」

「ゆっくり休んでちょうだい。ね、アイリーンさん?」

「え、えぇ。少し休ませてもらいなさい。イアン、ジゼルを宜しくね」

「はい、畏まりました。それでは失礼致しします」


 ヒースと呼ばれた執事さんの後をついていく私とイアンさん。もしかしてイアンさん、私の為に嘘をついてくれたのかな?


「こちらでございます。ベッド等ご自由にお使いください。私は隣の部屋に居りますのでもし、何かございましたら、なんなりとお申し付けくださいね」

「はい、ありがとうございます」

「では、失礼致します」


 案内された部屋は日差しのよく入る部屋で、とても居心地の良さそうな部屋である。


 私は中央のテーブルの椅子に腰を掛けた。


「あの、イアンさん。気を遣って頂いてありがとうございます。助かりました」

「は?何の事でしょうか?」

「え?お母様達の所から遠ざけて頂いたから・・・」

「別にお嬢様を助けたつもりはありません。私が疲れてしまっただけです」


 イアンさんはそう言うと、ヒースさんが用意してくれた冷たい紅茶をグラスに二人分注いだ。

 1つを私の前に置いて、もう1つを自分で飲んだ。


 この人の場合は真意がわからないのよね。優しさなのか、本当に自分が休みたいだけだったのか。


「さて、お茶会が終わるまで後少し時間がありますが、いかがなさいますか?本当にベッドでお昼寝をなされますか?」


 ふかふかそうなベッドを見て、私は欲求に勝てずにベッドに潜り込んだ。ふわぁぁぁ!やんわりと身体を包み込む程よいマットレス!スプリングもギシギシいわないし、素晴らしいわ!


「それでは、暫しお休みなさいませ。私も少し休ませて頂きます」


 イアンさんは椅子に腰をかけたまま目を閉じた。なんか、こんなに無防備なイアンさんは初めて見るかも。今日はイアンさんの意外な一面が色々見れてとても新鮮だ。

 普段、お兄様のお世話で手を焼いているだろうから、今だけはゆっくり休んでほしいなぁ。


 私はイアンさんに起こされるまでぐっすりと眠ってしまっていた。

 

 私は寝ぼけつつも、たどたどしい足取りで歩き、お父様とイアンさんに支えられながら馬車に乗せられた。帰ったらお母様にお小言を言われそうだけど、今は何も考えられない位眠かった。


 夜にはプレアデスがアルド様の別荘まで来てくれる。それまでこのままゆっくり幸せな夢を見させて・・・。

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました((〇┓ペコリ

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