第71話
イアンさんを伴い、お皿に山盛りに盛った料理を手に先程のテーブルに戻ってきた。
「皆さんもお食事をとられてはどうでしょう?ね、アンジェロも・・・」
なんとなく自分だけ食事しているのも気が引けるので、皆もどうかと提案してみた。
「ぼ、ボクは大丈夫だ・・・。この仮の身体は燃費がいいのでね・・・」
グゥゥゥゥゥゥゥ
今しがた燃費がいいと言ったアンジェロのほうからお腹の鳴る音が聞こえてきた。このお腹の鳴り方はとても親近感が湧くわね。
「い、いや、無理しないで何か口にしたらどうかしら?私が取ってきた物で良ければ」
私はアンジェロの前に大盛りの料理が乗った皿を置いた。
「くっ・・・。・・・いただきます」
悔しそうではあるが、素直に料理を口にした。ちゃんと“いただきます”を言えるのはいい事だ。根は素直な子なのだろう。
美味しそうに料理を頬張る彼女を見て、やっぱりアンジュに似ているなと思った。
「あなたはどうしてアンジュがここに来ると思ったの?」
とりあえず、アンジェロから少し詳しい話を聞いてみようと問いかけた。
「・・・ボク物心ついた時から一人だった。ヴァルスティン家・・・ボクの生家は双子の姉妹は災いの元とされていて、だからアンジュは教会に捨てられた」
そうだ!アンジェロの姓はヴァルスティンだった!とりあえずここまではアマルシスに聞いた通りね。アンジェロは暗い顔をしてポツリポツリと語りだした。
「ボクがアンジュと双子の姉妹なのだと直接聞いたのはボクがプラネタリアの山に捨てられるちょっと前・・・。ボクの両親は強欲な人達で、アンジュがサーチブルク公爵家の養女となった事を聞きつけた両親は王族とも繋がりが出来ると、恥ずかしげもなくサーチブルク家を訪ねた」
や、野心の高い両親なのね。こんな可愛い姉妹と血が繋がっているのが不思議なくらい・・・。
ふと見るとアンジェロの顔が青ざめている。心無しか震えている様にも見える。
「ね、ねぇ。無理に話さなくても大丈夫よ!ごめんなさいね、今日は楽しいお茶会だもの、美味しいお茶飲んでゆったりしましょう?」
「ジゼル・・・。君は我が片翼だけでなく、ボクにも優しくしてくれるのか?」
「勿論よ!アンジェロはアンジュのお姉ちゃんだし、私がアンジュに会わせてあげるわ」
「・・・ボク、アンジュの姉だって言ったっけ?我が片翼とは言ったけど、どちらが姉かは言っていない筈だ。さっきもそう言ってボクの事を漆黒の王子達に紹介していたけど、何故だ?」
「え?あ、そうだったかしら?・・・あなたはアンジュより落ち着いて見えるからあなたが姉だと思ってたわー!やーね、思い込みって怖いわね!でも当たってたみたいで何より!!あはははっ・・・」
ちょ〜っと苦しかったかな?プレアデスとアルド様とイアンさんの目が『おいおい。本当かよ?』って疑惑の目を私にぶつけてくる。うぅ。怪しまれている。
「・・・そ、そうか!ボクの方が落ち着いているのか!ふ、ふふっ」
信じた!アンジェロは頬を染めて嬉しそうに微笑んだ。あ・・・、この恥ずかしそうな控えめな笑い方・・・。笑うとよりアンジュに似ていると感じた。
しかし、この先迂闊に喋ると事情を知っている事がバレてヤバイ事になりそうだから、慎重に喋らなくては。事前にアマルシスから基本情報を聞いたせいか、私はずっと前からの知り合いみたいな感じで接してしまっていたわ。
私は何も知らない。アンジェロとは初対面。そう自分に言い聞かせた。
「ジゼルみたいな人が我が片翼の傍に居てくれたなら安心だ。さっきは地獄からの使者とか言ってごめん。ジゼルは設定通り我が片翼の・・・ううん。ボク達の救世主なんだね」
「そ、ソテイラ・・・?って何?」
私は一同の様子を窺ったが、誰一人として会話に加わってこなかった。っていうか、なんか設定通りとか言わなかった?
「決めたよ、ボク、夏休みが終わったらパパにお願いしてジゼル達と同じ学園に行く事にしたよ!」
「へ?」
「そうか、そりゃいい事だ。何かあったらジゼルがお前の事面倒を見てくれるだろうよ」
「へ?へ?」
「・・・そうだな。関わるなら最後まで、だぞ。ジゼル」
「へ?へ?へ?」
いやー、あれよあれよと言う間になんか私アンジェロの世話役を体よく押し付けられたっぽいんだけど。
普段真っ向から意見が対立している癖に、プレアデスの言葉にまさかアルド様が賛同するなんて思わなかったわ!
イアンさんは何食わぬ顔をして紅茶を啜っている。うぅ、ここに居る男どもは誰一人として頼りにならない。
私は、中二病を患ってはいるがアンジュに瓜ふたつのアンジェロ。二人が同じ制服で並んで笑っている姿を想像してみた。
・・・うわぁぁぁぁ!それって最強じゃないの!カワイイの二乗よ?
「わかった!私が面倒見てあげるわよ!でも、アンジェロ!私と同じ学園に通うならばその眼帯と包帯は禁止だからねっ!」
「えっ!!こ、これはボクが混沌の渦に・・・」
「いいから!」
「は、はい!」
あれ?アンジェロって私のライバルになるんじゃないの?なんて事が脳裏に浮かんだが、それに関しては何の心配も要らない様で少し安心した。
でも、先程両親の事を話していた時のアンジェロのあの青ざめた顔が心に引っ掛かっている。
アンジェロ・サーストン。サーストンは仮の姓で、多分本名はプレアデスと同じ姓のシュテルンだろう。アンジェロ・ヴァルスティンからアンジェロ・サーストン(シュテルン)になるまでの間に何があったというのだろう。
何故、残された方のアンジェロまで捨てられなければならなかったのだろう。それを聞くには、彼女との信頼関係をもっとじっくりと結ばなければならないと感じた。
「じゃぁ、アンジェロ。そろそろプリンス達を解放しないと周りのレディ達の視線が痛いから、私達はスイーツでも見てこない?」
「い、いいのか?」
「勿論よ。さ、行きましょ。プレアデス殿下、アルド殿下、ご機嫌よう」
先程から貴婦人達がチラチラとこちらを見て何やらコソコソ話をしているのを感じていた。主催側のプレアデスはもとより、アルド様まで独占している状態なんだもの、当然と言えば当然よね。
はぁ。わざわざ話し合いの場を設けてもらったが、皆で私にアンジェロを押し付けて終わりだなんて何の解決にもなっていないわよね。さらには貴婦人達にヒソヒソされて。
私は少々ムカついてはいたが、そんな気持ちを抑えて二人に完璧な笑みと完璧なお辞儀をしてイアンさんとアンジェロを連れてデザートが置いてあるテーブルへさっさと向かった。さー、美味しいデザートを食べて、美味しい紅茶を飲んでお茶会を満喫しなくちゃね。
あぁ、私ってば久々にプレアデスに会ったっていうのに、なんでこう可愛くない態度をとってしまうんだろ。滞在中になんとか二人きりになれると良いんだけど。
「な、なぁ。ジゼルなんか怒ってたよなぁ?」
「あぁ・・・。無言の圧を感じたな。今夜海にでも誘って機嫌を治してもらうとするか」
「あっ!てめぇ!俺も行くからな!あぁ、そうだった。アイツの兄貴も居るんだろ?ハッハッハ!そうやすやすとは抜けがけ出来そうにねぇなぁ!アルド」
「何だと!?それはお互い様だろ!」
「あのぉ、プレアデス殿下に、アルド殿下。少しだけお話いいですか?」
「「勿論ですよ」」
置いてきた二人のテーブルをチラッと振り返って見た所、数人の貴婦人達に声をかけられていた。さっきまで剣呑な雰囲気だったが、仲が悪くてもさすがプリンス。瞬時に完璧な笑顔で対応していた。
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