第70話
ゲストも集まった様でお茶会が始まった。国王陛下もご挨拶に見えられて今度はお母様がポーッとなっていた。どうやら私にイケメン耐性が無いのは遺伝もあるみたいね。
プレアデスはお母様のベガ様の脇に立ち、お母様と一緒に招待客の相手をしている。あれじゃぁ、場を離れる訳にはいかないわね。
「ジゼル、今日は天気が良くて良かったな」
アルド様が貴賓席から私の元へ来てくれた。見知った顔を見るとホッとする。
「あ!アルドさ・・・殿下。こんにちは。お兄様がお先に別荘にお邪魔してます」
「アイツまで来てるのか・・・。いい加減妹離れしないものか」
「フフ、お母様にも言われてました」
「アルド殿下は席を離れていて大丈夫なのですか?」
「あぁ。またすぐに戻らねばならないが、ジゼルに一言挨拶しておきたくてな。まぁ、この後も会うんだが」
「ありがとうございます」
「料理も色んなのがあるから、好きなだけ食べるといい」
「は、はい」
アルド様も私の食い意地を知る一人だった。こうなったら本当に食べまくってやる。
アルド様と別れ、バイオリンとピアノ、フルートの生演奏が聞こえ始め、場が一層華やいだ時に一部でざわめきというか、どよめきが起きた。
「何かしら?」
「はて?なんでしょう」
イアンさんと一緒に人だかりの中心に向かうと、アンジュにそっくりな、右目に眼帯をし、左腕に包帯を巻いたゴスロリファッションの女の子が皆に心配されていた。怪我してるの!?
「アンジェロ様、そのお怪我はどうなさったんですか?」
「おいたわしや・・・」
「あちらにベンチがあるから少しお休みになられては?」
アンジェロと呼ばれた少女の周りには少女の事を知っていると思われる人達が心配そうに彼女を囲んでいる。
あまりのいでたちに呆気にとられてしまっていたが、あまりにもアンジュに似ているのでまさかとは思ったけど、やっぱりあの少女がアンジェロなの!?
「ふ・・・。これは傷などでは無い。ボクが混沌の渦に飲まれ一時冥界の門をくぐった際にハデスより授かった名誉の力を封印してるのだ」
「えっ・・・!?」
「アンジェロ様・・・、一体何を仰って・・・?」
「この眼帯は邪眼を隠すためであり、そしてこの腕の包帯はおぞましき闇の力を封印する為・・・」
「「「?????」」」
おんやぁ?あれは・・・なんだか中二病を患ってらっしゃる?アンジェロと呼ばれた少女は眼帯を手の平で覆いながらアイタタタなセリフを言い放った。この世界でも中二病なんてあるの?さらにボクっ娘属性とか・・・。心配して寄ってきた人達皆、訳が分からなくて固まってるじゃん。
いや、それよりも!!やめてー!アンジュと同じ可愛い顔して変な事言わないで!!
「か、彼女は精神に異常をきたしているのですかね?」
さすがのイアンさんも、その表情は理解不能な生物を見たかの様に引き攣っており、いつもの様に笑い飛ばす事は出来ないみたいである。
まぁ、無理もないわね。あれは凡人には理解しがたい症状だもの。
「そうね、ある意味病気ね・・・。眼帯と包帯の下は恐らく無傷ですよ」
「詐病・・・ですか?何の為にその様な奇行を!?」
「えぇと・・・、詐病というのも違うかと。あれは中二病という病名で若い時に発症し、治療方法は時の経過しか無いという特殊な病気なので暖かく見守ってあげるのがいいです。数年後に中二病が完治した際に、この様な言動をした事を思い出して悶え苦しむ後遺症に悩まされるという恐ろしい病なのてす」
「チュウニ病・・・?は、初めて聞く病気ですが、お嬢様は何故その病気に詳しいのですか?」
「い、いえ、私もそんなには詳しくないですけど。発症した方を見るのは初めてですし・・・」
「しかし、あの方。アンジュ様に似ていませんか?」
「ヒィィィ!それは言わないで!アンジュがあんなのと似てる訳がないじゃないですか!(いや、可愛いけども)」
私は、先程の一連の流れからアンジュがアンジェロと再会する事を絶対に阻止しなくてはと思った。アンジュがアンジェロに会って、変に影響を受けたら大変だわ。
「・・・アンジュ?今ボクの半身の名を呼ぶ声が聞こえたね・・・。君かい?ジゼル」
「へっ!?な、何故私の名を・・・?」
アンジェロが人混みを掻き分け、私の名を口にしてこちらに向かって来た。
「なんだ、お知り合いでしたか」
「ひっ!知り合いな訳ないじゃないですか!」
アンジェロは私の前まで来ると、辺りをキョロキョロと見回した。
「おかしいな・・・。我が片翼が見当たらない・・・。何故我が片翼ではなく、君がここに居るんだい?」
「あ、あの・・・。我が片翼、とはアンジュの事でしょうか?」
「正しく。ボクと彼女は母なる宇宙の中で共に育ち、産まれ落ちたその時から二人で対の翼。神々の手によって、一つの魂が二つに分けられてしまった・・・」
えぇと、つまりお母さんのお腹の中で一緒に育って、産まれた時も一緒に居たけど、神々=親の都合でバラバラになってしまったって意訳でいいのかしら。
「本来ならば漆黒のプリンスの傍らには我が片翼が寄り添っている筈・・・。まさか君は地獄からの使者なのか!我が片翼をどこにやったのだ!?」
「ちょっ!地獄からの使者て・・・」
この場にプリンスは2人。プレアデスとアルド様。漆黒のプリンスに当て嵌まる人物は、黒髪・黒い瞳のプレアデスしか居ない。
つまり、アンジェロはプレアデスの側にアンジュが居ない事を不審に思っている・・・と。
ちょっと待って。何でアンジェロはアンジュがこのお茶会に来ると思ったのだろうか?
「おいおい、何だか騒がしいな。どうした?あれっ?ジゼル・・・とまさか、アンジュか?」
「はっ!漆黒のプリンス!い、いや。なんでもない」
プレアデスが騒動を聞きつけ、こちらにやってきた。プレアデスの姿を見たアンジェロはキョドり始め、さっきまでの勢いがなくなった。
「あの、殿下。こちらはアンジュの双子の姉のアンジェロです。アンジュとは別人です」
「な、なんだと!?お、おい!アルドは知っていたか?」
「い、いや。アンジュに姉妹が居たとは知らなかったぞ」
「ひっ!輝光のプリンス!!」
プレアデスに続き、アルド様もやってきた。輝光のプリンス・・・ね。漆黒のプリンス・プレアデスとは対極にいる設定か・・・。悪くないけども!!
「とりあえず、向こうの席で話すとしようか。皆様、場を濁してしまってすみません。大変失礼を致しました。こちらは問題ございませんので、引き続きご歓談ください」
プレアデスがスマートに場を取りなし、私とイアンさん、アンジェロを含めて目立たぬ席へと促した。プレアデスは冷静だなぁ。私なんて想定外の事態にハラハラしてしまったよ。
途中、イアンさんが料理を数皿取ってきてくれたので、私は料理を食べながらアンジェロの話を聞く事にした。
「えぇと、とりあえずお前の名は?」
プレアデスがアンジェロに向かって尋ねた。
「・・・アンジェロ・サーストン」
「なんだと!サーストンってまさか!」
サーストン・・・?あれ?アンジェロの姓ってサーストンだったっけ?私は料理を頬張りながら会話には参加せずに成り行きを静観していた。プレアデスがなんか凄い驚いてるけど、どうしたんだろう。
「お、おいお前の親の名は?」
「・・・カシオ・サーストン」
「カシオ・・・。そうか、お前が・・・。ここに居るのはカシオの代わりだな?」
「プレアデス、俺達にもわかる様に説明しろ」
アルド様が焦れた様にプレアデスの説明を急かした。
「カシオは俺の爺さんの弟だ。年は75になるか。大層な変わり者で生涯独身を貫き今はプラネタリアの外れの街で従者をたった一人だけ連れて庶民の様に暮らしている」
「王族なのに、そんな待遇でいいのか?」
「勿論周りはカシオに城に残る事を勧めたが、本人がそれが良いと言っているのだから仕方ないだろう。で、王家に迷惑がかからぬ様城を出てからは姓をサーストンと名乗っている」
「ちょっと、待ってくれ。75歳のじいさんの娘がこの娘だというのか?生涯独身というのは?」
「カシオはさっきも言った通り、独身だ。数年前に山に捨てられていた少女と養子縁組をしたと聞いた事がある。だから紛れも無くカシオの娘だ」
え?え?アンジュだけでは無く、アンジェロも養女!?山に捨てられたって・・・。
一体全体どうなっているのだろう。プレアデスがアルド様に説明している時もアンジェロは落ちつかなそうにソワソワモジモジしていた。
どうやら長丁場になりそうだし、今の内に料理のおかわりをしに行って来よう。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました(^^)




