第69話
あっという間に夏休みに突入してプレアデスのお母様主催のお茶会の日がきてしまった。うぅ、まだ心の準備が出来ていないというのに。
私はイアンさんとお揃いの淡いグリーンのドレスに胸元に桜のブローチを留めて、淡いピンクのショールを羽織った。イアンさんは私と同じグリーンのシャツに白いジャボタイをつけて紺色のジャケットを羽織った装いである。
「イアンさん、今日は宜しくお願いします」
「はい。お嬢様こそ粗相の無いようにお願いしますねっ」
「うぅ・・・」
イアンさんはやっぱこんな日も変わらず、いつものイアンさんだった。まぁイアンさんよりも私の方がやらかしそうな事は分かってる・・・分かってるけどさ、もうちょっと優しくしてくれてもいいんじゃないのかしらね。
「皆支度は出来たかしら?」
「はい、お母様」
「まぁ、二人ともお似合いよ。イアン、今日はジゼルを宜しくね」
「はい、お任せください奥様」
「母上!僕はどうでしょうか?」
「ジルドラ・・・。あなたはついてこなくてもいいのよ?」
「そんなぁっ!」
「まあまあ、いいじゃないか。ジルドラは他国の風土に触れて見聞を広めるって事で」
「あなた!あなたはジルドラに甘いんだからっ」
お父様もお母様もバッチリ決まっている。何故かお茶会に参加しないお兄様までめかしこんでいる。
「ジゼル、ジゼルは僕の衣装どう思う?」
先程お母様に冷たくあしらわれたというのに、めげずに私に自分の印象を聞いてきた。
「いいのではないでしょうか?そのラッフル襟、ザビエルみたいで素敵ですよ」
「ザビエル?ザビエルって誰?」
「えぇと、とても立派な方ですよ」
「本当?ジゼルは兄を立派だと思ってくれたんだね!」
「えぇ・・・、まぁ、はい」
「ぶっ!朝から妹に気を使わせる立派な兄!プクククッ」
なんだろ、この安定のコント感。先が思いやられる。
いよいよ出発だ。お付きの人も含めて人数が多いので馬車は2台に別れて乗り込んだ。
第1号車はお父様とお母様にお付きの人4人、第2号車は私とお兄様とイアンさんとボニーとユミル。
なんだかんだ言っても家族でお出かけするのは何年ぶりだろうか。皆それぞれ忙しくてすれ違ってたからね。
プレアデス、今日はどんな格好なのかな?プレアデスはコスプレ好きみたいだし、独特のセンスがあるから、今日のお茶会でも目立つだろうな。
でも・・・何来ても似合うんだろうな・・・。私は窓の外を眺めながら準備の為に三日前から帰省しているプレアデスに思いを馳せた。
学園に通ってる時は嫌でも毎日会っていたのに、休みに入ってから数回しか会えて居ない。たった三日会えないだけでも寂しく感じてしまう。それだけ、私の中にプレアデスが占める割合が大きくなっているのだ。
「ジゼル様、お腹は空いていませんか?」
「ううん、大丈夫・・・。今は胸が一杯で・・・」
「ジゼル!?具合悪いの?酔った?」
「大丈夫です、お兄様。お兄様が揺らさなければ・・・うぷっ」
「うわぁぁぁ!ジゼルっジゼルぅー!!」
お兄様がガクガクと私を揺さぶるので本当に酔ってしまった。うぅ、気持ち悪い。
「ジゼル様っ!大丈夫ですか?お水どうぞ」
ボニーに手渡された水を少し口に入れた。うー、目が回る様な不快さがなんともいえない。
「お嬢様、どうぞ私に寄りかかりください」
イアンさんが、私を抱き寄せて自分の身体に寄りかからせた。
「でも・・・」
「そのまま、寝てもいいですから。着いたら起こしますよ」
いざ、イアンさんに優しくしてもらったらしてもらったで、なんだか落ち着かない。だが、少し動くのも辛いのでそのままお言葉に甘える事にした。
「ジゼル!僕の所に来なよ!」
「アホですか?無理にお嬢様を動かしたら悪化してしまいますよ」
「アホっ!?お前主人に向かってアホって!」
「うるさいですよ。せめて静かに寝かせてあげるという気持ちは無いんですか?元はといえばお嬢様がこんな風になったのはジルドラ様のせいなのですよ?」
「うぎぎぎぎ・・・」
よ、ようやく黙ったわ。お兄様は昔はもっと、しっかりしていてもう少し頼れるお兄ちゃんしてたと思う。いつからこんなシスコンになったのだろうか?私は、場が静かになったのを見届けてイアンさんに寄りかかりながら、そういえば夏休みに入る前もこうしてプレアデスに寄りかかって寝たなと、プレアデスの事を思い出していた。さすがに目が覚めたら膝枕、なんて事が無い様に祈るばかりだ。
私は結局プレアデスのお城に着くまで眠っていた。起きた頃にはすっかり馬車酔いも治まっており、お父様達と共にイアンさんのエスコートでお城の中庭へと向かった。
因みにお兄様は荷物の搬入をする従者達と一緒に一足先にアルド様の別荘へと向かった。
お城のメイドさんに案内されて中庭に着くと、紅茶セットやカップの乗った沢山の円卓が設置されており招待客の多さを物語っていた。会場の端には長い机があり、料理人達が並んでいる。
どうやら、あそこで軽食やら食べ物が出るのね。先程まで乗り物に酔っていたくせに、こういうリサーチは怠らない食いしん坊な自分に対して、思わず苦笑した。
「お嬢様、あそこから料理の提供がなされるみたいですね」
そんな私を見透かしたかの様にイアンさんがご丁寧に先程私がチェックした場所を教えてくれた。そ、そんなに見た目からして私は食い意地はってそう?
「あぁ、お嬢様。髪留めが外れそうになっています。少々お待ちを」
イアンさんはそう言うと私の頭に顔を近づけ、外れかけた髪留めを直してくれた。うわ、近いなぁ。でも自然にこんな事が出来るくらい、人に世話を焼くことなど造作も無さそうだと感じた。
まぁ、普段から手の掛かりそうなお兄様に使えているくらいだもんね。
「おいっ、ジゼル!」
「きゃっ?」
ふいに肩を掴まれて、振り向かされた。その先には愛しのプレアデスが居た。
「あっ・・・。プレアデス!・・・殿下。ご機嫌麗しゅうございます」
危ない危ない。つい、いつもの調子で呼び捨てにしようとしちゃった。咄嗟に軌道修正した私、グッジョブ!
臙脂色の宮廷服に身を包んだプレアデスはそれはそれは見目麗しかった。尊い・・・!
「うぉっ・・・!(やべぇ、今日もくっそ可愛い)」
「うぉっ?」
「あ、いや。母上があっちに居るから知らせに来たんだよ」
「それは、わざわざ殿下自らお越しくださいましてありがとうございます。さ、お嬢様。奥様とご一緒にご挨拶へ伺いましょう」
「あっ!そうね。ご挨拶に行かなくては」
この時私の頭越しにプレアデスがイアンさんを睨みつけていた事は私は知る由もなかった。
「ジゼルっ!また、後でな!」
「はいっ!」
プレアデスと別れ、お父様とお母様の元に向かった。プレアデスが教えてくれた場所へと向かうと、プレアデスのお母様が数人の招待客と歓談していた。
「あの、本日はご招待頂きましてありがとうございます。私の、父と母でございます」
「お初にお目にかかります、王妃殿下。シードゥスの国王の末弟、アイゼンと申します。こちらは妻のアイリーンでございます」
「まぁ!ようこそお越しくださいました。先日はジゼルさんを始め、あなた方には大変ご迷惑をお掛けしました。直接お詫びに伺いたかったのですが・・・」
「滅相もございません。その件につきましては既に国王陛下同士の話し合いで解決された事案ですのでお気になさらず」
「そのお気持ち、痛み入りますわ。お詫びにもなりませんが、どうか今日は存分に楽しんでってくださいませね」
「は、はい!恐縮ですっ」
「(こそっ)アナタ!鼻の下が伸びてるわよ!」
「いっ!!」
ふふ。お父様ったら最初はキチンとしていたのにベガ様の妖艶な雰囲気に飲まれたのか、最後にはどもっていたわね。お母様が誰にも見えない様にお父様のももをつねっていたのを私はバッチリと見てしまった。
このパーティー色んな意味で無事につつがなく終われるか不安で一杯になった。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました(^^)




