第67話
カミーユ様襲来から数分後、我に返ったアマルシスに先ほどアマルシスが言いかけた事が何だったのかを聞いてみたが、カミーユ様のインパクトが大きすぎて忘れてしまったとの事だった。アマルシスの反応はちょっと行き過ぎかもしれないが、アドアンキャラと対面した女子の反応としては、多分これが正解なんじゃないかと思った。だとしたらアンジュのイケメンに対しての耐性はかなりのものだと思われる。
それが、先ほど私がカミーユ様に抱きつかれた時と同じ事だというならば、アマルシスの言う通り、“ジゼルルート”もしくは“他の人のルート”に入ったからだと考えれば魅力的な殿方に見向きもしないのも納得出来てしまう。
ただ、他の人のルートに入ったわけではない事は昨日『やっぱり私は(殿方ではなく)ジゼルの傍に居たいです』って言った事からわかる・・・って事は・・・。
「アマルシス・・・。こっから軌道修正って可能かしら?」
「・・・もう無理じゃない?」
「ですよねー」
「ただ、気になるのはジゼルルートが友情エンドなのか恋愛(百合)エンドなのかが謎よね」
「いや、ちょっと!さすがに恋愛ルートは無いでしょ?」
「わからないわよ?なんせアルド様の初恋イベをジゼルで上書きしちゃってるんだもの」
「うっ・・・。それは、そうだけどぉ」
私は今更ながらアドアンのルールを乱してしまっていたという事実に改めて対峙した。いやでも、放っておける?すぐそこにいじめがあるのに。アンジュが、あの天使の様に可愛いアンジュがいじめられて嫌な思いをしているというのに。アルド様を呼びに行く時間があるならば、一刻も早く助けたかったのだ。幼い私は私なりに正義を貫いたのだ。いや、アルド様のせい(手柄)にしたのはちょっとアレだけど・・・。
「あっ!思い出した!さっき言いかけた事。もしジゼルルートが確定しているならフラグをジゼルが折ってあげなくちゃ」
「フラグを・・・折る?で、でもどうやって?」
「・・・そこまではわからないけど、例えば、『これが異性だったら恋愛イベだよねー』みたいな雰囲気になったら好感度を下げる振る舞いをすればいいんじゃない?」
「えっ!わざと嫌われるって事?」
「ごめん、それしか思いつかないわ。あ、でもまだそうと決まった訳じゃないんだから今まで通り普通にしてればいいんじゃない?それよりも今気になるのはハルジオンさんの事だと思うわ」
アマルシスが目を瞑って何か考えた後に、持っていたスケッチブックにサラサラと何かを描いた。数分の後に、『はい』と私にスケッチブックを向けたので私はスケッチブックに目を向けた。そこには2人の男性が描いてあり、一人が長髪の男性でもう一人はハルジオンさんそのものだった。どちらも雰囲気は似ているがハルジオンさんの方がちょっと影のある感じで描かれていた。
「私が考えていたハルジオンさんのキャラ案なんだけど、どっちだった?」
「こっち。この右の人・・・。最初はまんま、この表情で影のある感じだったけど、プレアデスの屋敷に就職決定した後は左の人みたいな穏やかな顔つきになったわ」
私はスケッチブックのハルジオンさんともう一人のハルジオンさん(没Ver.)を見比べて答えた。
「そう。こっちかぁ。ふふ、面白いわね。私が外見を決あぐねていたキャラが存在するなんて」
アマルシスは面白そうにクスクスと笑った。
「本当に、この世界は何なのかしらね」
私が独り言の様にため息まじりにボソッと呟くと、アマルシスはにっこりと笑いながら答えた。
「わからない事は多いけど、私は嫌いじゃないわ。だって、最高じゃない?やりたい事は思い切り出来るし、なんてったってアドアンキャラも居る。ジゼルっていう親友も出来たし毎日楽しいわ」
「アマルシス・・・!」
親友って思ってくれているんだ!良かった。アマルシスに出会えて。私も心からそう思っているわ。アドアンの話が出来るからではなく、人として私はアマルシスを信頼しているし、大好きだ。
アドアンの世界に転生したのだと気付いたあの日、この世界で生きていかなくてはと覚悟を決めたけど、やはりどこか不安はあった。誰も知らない日本の記憶がどこかもどかしい時もあった。
でも、こうして日本の事を話し合える。そんな存在にどれだけ救われているか。
それが尊敬してた甘苺カシス先生だって言うんだから!!
「ね、ねぇ。アマルシス。あの、幻のBL本がどうしても見たいのだけど・・・前世では高くて買えなくて・・・」
「えっ!?」
「図々しくてごめん!ネットで検索したら値段の桁がヤバイ事になってて。『僕の先生シリーズ』のVol.1!!」
「ひっ!そ、それは・・・っ。私の初めてのBL本っ!」
『僕の先生シリーズ』は全部でVol.5まで発行されていたカシス先生のオリジナルBL本の事で、とある男子校の生徒と教師の恋愛物だ。中でも先に述べたVol.1はカシス先生の初のBL本という事と、部数が少ない為にプレミアがついていてドエライ金額に跳ね上がっていたのである。
「わ、わかったわ。正直私もあのシリーズは自分でも気に入っていて・・・そうね。この世界用に少しアレンジして・・・」
「と言う事は!?」
「「この世界にBLを普及させる!!」」
私達はお互いに向き合って、野望を口にした。
「プッ!アハハハハハ!私もベタ塗りや消しゴムかけなら出来るわよ」
「助かるわ!この世界にはパソコンもトーンも無いから己の技量が問われるのよね。自分がどこまでやれるか・・・。フフッ燃えるわね!」
アマルシスがメラメラと闘志を燃やしている。何でも1からのこの世界にやり甲斐を見出している様だ。まぁ、ぶっちゃけこの世界にはネットもテレビも無いし、時間のかかる娯楽があんまり無いので趣味に費やせる時間は多いのだ。
「お、おい。お前らBL、BLって・・・何を・・・?」
「うわ、プレアデス!!何故ここにっ!?」
「ふわっ!プ、プレッ、プレッ・・・」
私達は話に夢中になり過ぎて、声をかけられるまでプレアデスが近くに来ていた事に気付いていなかったのだ。
「いや、BLは一旦置いておいて、プレアデス!こちらはアマルシス。私の親友で元日本人よ」
「マジか!?俺らの他にも前世が日本人のヤツが居たのかよ!」
「ど、どうも。アマルシス・レクターです」
「俺はプレアデスだ。どういう訳かこの世界の王子に生まれ変わっちまった。お前も前世とのギャップに苦労したろ?」
「は、はぁ。それなりには」
「こら!プレアデス!グイグイいかないの!アマルシスが怖がるじゃない」
「おっ!わ、わりぃ。こっちじゃあんまり日本の話出来ねぇからさ。時々誰かと話してねぇと忘れちまう気がしてな」
そうか。私にはアマルシスという存在が居るけど、プレアデスには私以外、日本の事を話せる相手が居なかったんだ。
当のアマルシスはというと、狼狽えていたのは最初だけで特に怖がることも無く、今はひたすらプレアデスをガン見している。プレアデスを至近距離で見るのは初めてなのだろう。自分発案のキャラが目の前で動いているんだものね。これはアマルシスだけにしかわからない気持ちだ。こういう時は邪魔しない様にしておこう。
「そうね。じゃぁ、時々3人で日本の話しましょうよ」
「おぉ!いいな、それ」
「えっ、私お邪魔じゃないですか?・・・その・・・」
「えっ?あっ!!大丈夫!ね、プレアデス」
「ん?あぁ、気にすんな!俺らはいつでも二人きりになれるからな」
「いやぁぁ!恥ずかしげもなくそんな事言わないでー!」
「なんだよ、本当の事じゃねぇか。あ、照れてんのか?」
「照れるに決まってんでしょ!なんでアンタは平気なのよ?」
「ふっ。アハハハッ!二人は本当に仲が良いですね」
「あ、敬語は要らねぇよ。同じ同郷のよしみだ!気軽に行こうぜ!」
「わかったわ!プレアデス!これから宜しくね」
「おぅ!」
私達の関係を知っているアマルシスが、私達に遠慮したのだが、私達はアマルシスに割く時間はそれとはまた別物なのだと説明した。アマルシスは、そんな私達のやり取りをニコニコと笑顔で見ていた。
プレアデスは私と一緒に帰ろうと私を探しに来た様で、私とプレアデスはアマルシスに別れを告げて帰路についた。
・・・まさかプレアデスにBL話を聞かれるとはね。一旦置いたBL話が再び戻される事がなくて良かったと心の底から安心した。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました┏○ ペコリ
最近更新が遅くなってしまっててすみません。なるべく早めに更新出来る様に心掛け、これからも頑張りますので宜しくお願い致しますm(_ _)m




