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第59話

 アルド様やスティード、カミーユ様にアンジュ。それぞれに私とプレアデスが両想いになった事を打ち明けたその夜の事。

 私は手帳を開いてみた。プレアデスのページまでめくり、情報を足してみた。アンジュが攻略対象者について私に聞いてこない以上、この手帳が必要なものかどうかはわからないが、日々追加された情報は小まめに書きたしている。追加情報といえば攻略対象者が私に告白してきた事は書き込まなかった。だって皆アンジュの目の前で堂々と私にアピールしているのだ。いくらなんでもアンジュだってそれ位は察しているだろう。

 

 それなのに、私はプレアデスの欄に“ジゼルの事が好き”という情報を書き込んだ。今まで書き込まなかった事をわざわざこうして書き込むという事は少なからず私にも『独占欲』というものがあるのだろう。

 プレアデスは他の誰でもなく、私の事が好きなのだと。

 ・・・わぁぁ!こうして文字にしてみると凄く生々しいというか、一気に実感してしまうというか。私は本当にプレアデスと両想いになったんだ。いざプレアデスの想いを受け入れ、私もプレアデスに自分の想いを伝えてみたが、この世界での生活は変わらずに続いているのでホッとしている。

 想いを受け入れたとはいえ、体外的には私達は“恋人未満”なのである。卒業式を迎えるまではまだまだ心から安心は出来ないのだ。それは私の中では変わらないままだった。


 しかし、プレアデスのページに書いた自分の名前を見ていたら、なんだかアンジュのライバルみたいだなぁ、と思った。

 ん?ライバル?ライバルといえば・・・。


 本来アドアンにはライバルシステムがあり、ライバルはプレイヤー(アンジュ)と最も仲のいい攻略対象者との恋路を邪魔してくるのだが、そういや私はそのライバルキャラを序盤で追っ払ってしまっていた。


 そのライバルとはエルミール嬢の事である。小国のプリンセスだ。私が撃退したあの日から特になんの邪魔もしてこないし私やアンジュの前に姿を現していない。私のハッタリ返しが恐くて出てこれないのだろうか。となると、これからのアンジュの恋は特に誰にも邪魔されずにスムーズに行くのではないだろうか。

 ・・・アンジュがプレアデスを攻略しようと思わなければの話だけど。プレアデスと両想いになったとはいえ、アドアンのヒロイン(主役)はアンジュなのだ。アンジュが本気でプレアデスを狙いに来たならば、私はアンジュのライバルになってしまうし、勝ち目などないかもしれない。

 そもそも私がアンジュと争うことなど考えられないのだが、そうなった時、私は・・・。

 

 う、ううん。なんか悪い方へ悪い方へ考えてしまう。私の悪い癖だ。

 せっかく好きな人と両想いになれたのだから、もっと楽しい事を考えなくちゃ。

 夏休みになったら、プレアデスと一緒にプラネタリアの海に行こうかしら。夕焼けに染まる海で、プレアデスと二人きり・・・。見つめ合う二人・・・。そして、プレアデスの顔がだんだん近づいて来て・・・。


 きゃぁぁぁぁぁぁ!!!いやぁぁぁぁぁ!!!私は妄想でキスまでのシミュレーションをして1人悶絶した。嫌だわ、まさか自分自身の妄想をする日が来るなんて。私ってば本当に過去の事を振り切れたんだ。手を繋ぐ事や、キスが恥ずかし過ぎて恐かった私は、もう居ない。それどころか、プレアデスに触れたい、触ってほしいとすら思うなんて。

 お父様、お母様。私は大人の女性になったのかもしれません。いや、精神年齢は26歳なんですけどね。

 プレアデスとなら、大人の恋が出来るかもしれない・・・と考えた所で、プレアデスも自分も恋愛経験がほぼ皆無なのに大人の恋愛が出来る訳が無いだろうと思い直した。

 私はこれからプレアデスと一緒に青春をやり直すんだ。もう、いちいち前世を思い出すのはやめよう。この世界でプレアデスと幸せになるんだ。

 私はこれから起こりうる恋愛イベントを想像しては胸を踊らせた。

 

 この時の浮かれた私は、まだ私の恋愛を脅かす存在が現れる事や、自身の周りに事件が起こる事を(つゆ)ほども思っていなかった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇


 翌日、学園に向かうとすぐに私はアマルシスのクラスへと向かった。

 アマルシスは相変わらず目立たぬ様に静かに机で読書をしていた。


「ねぇ、アマルシスを呼んでほしいのだけど」


 私はこれから教室に入ろうとしていた学生にアマルシスの呼び出しをお願いした。

 学生が私の要望通り、アマルシスに要件を伝えるとアマルシスはチラッと私の姿を確認した後、読んでいた本を机の上に置いて笑顔でこちらに向かってきた。


「おはよう、ジゼル!朝からどうしたの?」

「えっと、アマルシスに伝えたい事があって・・・」

「プレアデスとの事?」

「えっ?何で知っているの!?」


 アマルシスが知っているとは予想外だった。


「だって、美術室の窓から良く見えるのよ、あそこ(裏庭)

「へ?」

「ふふ、ひと目も(はばか)らず抱き合っていたじゃない。あぁ、ジゼルも遂に素直になったんだなって思ってたわ。いつ教えに来てくれるのかと今か今かと待っていたのよ」

「うわぁぁぁぁ!抱き合ってない!抱き合ってない!抱きしめられては居たけども・・・」

「えぇと。ジゼルがプレアデスの背中に抱きついてから抱き合ったと記憶しているけども」


 い、いやぁぁぁぁ!アマルシスは本当に私達を見ていたのだ。知り合いに見られているなんて、なんて恥ずかしいの!


「何はともあれ、良かったわね。おめでとう。晴れて恋人同士ね」

「それなんだけど・・・」


 私は事の顛末をアマルシスに説明した。


「は?付き合ってないの?何で?」

「だから、その・・・」

「色々と難儀ねぇ。アドアンだとプレアデスルートにエルミール嬢とは別に強力なライバルが出現するから頑張ってね!」

「えっ!?」

「ジゼルがプレアデスルートに進んだのなら、流石に黙ってる訳にはいかないもの。あ、チャイムが鳴ったわ。また、後でね」

「えっ!えぇぇぇ・・・」


 チャイムが鳴っては仕方がない。私はまだ見ぬライバルの事を考えながら自分の教室へ戻った。


「ジゼル、どこに行ってたんだ?」

「プレアデス・・・。えと、友達のとこ」


 まだアマルシスには皆を紹介していないので、名前は出さなかった。


「・・・友達って男?」

「お、女の子に決まってるじゃない!」

「そっか!なら別にいいや」


 プレアデスってば、まるでヤキモチみたい。男かどうかを聞いてきた時はあからさまに仏頂面であった。そんな彼に今日もドキドキしてしまう。

 プレアデスを見て、さらにライバルの事が気になってしまった。プレアデスを取り合う強力なライバル・・・。アマルシスはエルミール嬢ではないと言っていた。

 かと言って、流石にミレーヌ嬢ではないだろう。皆目検討もつかない。


「ジゼル、今日のお弁当はジゼルの好きなミートボールを入れてきましたよ」


 そう言ってアンジュはニコッと微笑んだ。まさか・・・強力なライバルとはアンジュの事なのではないだろうか?私はアンジュの顔を見つめながら、そんな事を考えてしまった。


 いやいや!いくらなんでもアンジュと私がプレアデスを取り合うなんて、そんな事があるわけないじゃないの!

 でも、アンジュが密かにプレアデスを想っていたとしたら・・・?アンジュは私から無理やり奪うなんて事はしない。自ら身を引いてしまうだろう。

 それはアドアンとしてどうなの?主人公が身を引くなんてバッドエンドじゃない。

 サポキャラの癖に攻略対象者と想いが通じあっているなんてそれこそどうなの?って感じではあるが。


 だからといって今更プレアデスを諦めることなど出来ない。後でライバルがアンジュかどうかだけでもアマルシスに聞いてみよう。出来れば対処法も・・・。

 

 期末テストが迫っているというのに私は今回も授業を考え事で(おろそ)かにしていた。

ここまで読んでくださいまして、ありがとうございましたm(__)m

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