第56話
私はプレアデスの袖口を引っ張って教室から出た。
「ちょっ!おいっ!なんなんだよ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「おーい。ジゼルさーん?一体俺はどこへ連行されるんですかねー・・・?」
「・・・・・・・・・・・・」
プレアデスが疑問を投げかけてくるが、私は口も開かずにズンズンと廊下をひたすら歩き続け、そのまま裏庭のバラ園までやってきた。薔薇を愛でたり友人同士で語らったりしている人が居り、プレアデスはなんだかんだいっても王子なので到着後に一斉に注目の的となったが、気持ちが昂ぶっていた私はそこに人が居ようが居まいが関係なかった。
「なぁ。こんなとこまで引っ張ってきてなんなんだよ?人が居るし・・・」
プレアデスは辺りの人の視線が気になる様で辺りをキョロキョロしている。
「・・・・・・・・・・・・」
「なぁ、黙ってちゃわっかんね・・・ってオイ!」
「・・・なんで、一人で決めちゃうの?」
「・・・・・・え?」
「プレアデスは私の気持ちなんて考えてないのね」
「はぁ?お前の気持ちなんてわかる訳がねぇだろ」
「私だって、同じよ!アナタの考えてる事なんてわからないわよ!だから・・・一人で考えて一人で決断しないでよ!」
私はプレアデスの両腕の裾を掴んでプレアデスの目をじっと見て心の内を伝えた。
「それは・・・、その、自分で言った事は守らねぇとだし・・・もう俺は・・・お前に近付く権利ねぇし・・・」
私の勢いに押されてか、プレアデスは私から視線を逸らすと、さっきまでの勢いが無くなり言いよどんだ。
「だからって、いきなり無視されたり避けられたりするのは嫌!・・・まぁ、宣言してから避けられるのも嫌だけど」
「ジゼル・・・」
「私がどれだけ傷ついたかわかる?わかんないでしょ?どれだけ悩んだかわかる?わっかんないでしょ!?」
私の感情の昂ぶりはピークに達してしまい、プレアデスの袖口を掴んだまま上下にぶんぶん振りながら叫んでしまった。当のプレアデスはあっけにとられて私にされるがままだった。
「へ・・・?お前、傷ついたの?」
「傷ついたに決まってるじゃないの!」
「なんで?」
「なんで?って。だってプレアデスは私にとって大切な・・・」
ちょっと待って!!私ってば勢いに任せて何を言おうとしているの!?
「・・・大切な?」
プレアデスは袖口を掴んでいた私の両腕を逆にグッと掴み、私の顔を覗き込んで私の台詞の先を促した。うぅ。これじゃぁさっきと形勢逆転じゃないの。プレアデスの視線と掴まれた腕が熱い。
「た、大切な・・・命の、恩人だから・・・」
私は咄嗟に尤もらしい理由を述べた。間違ってはいないわよね。うん。
「ふぅん?それだけか?」
「え?それだけ・・・って?」
なんなのよ、さっきまでうろたえていたプレアデスはどこにいったのよー!今、私の目の前に居るのはいつもと同じ自信満々な感じのプレアデスだった。
「別に俺はお前を助けた事を恩に着せたりしねぇよ。その件については忘れてもらって構わない。話はそれだけか?って事だよ」
スッと私の腕を離し、私から離れた。あ・・・このままじゃ行ってしまう。でも、何て言って引き止めていいのかがわからない。
「・・・じゃぁ俺行くわ」
私に背を向けて歩き出したプレアデス。私はまた、元カレの時と同じ様に去っていく背中を黙って見送るの?
『俺達はデスティニーで結ばれてるからな』
『俺はお前じゃないとダメなんだって』
『華麗なる怪盗は、海賊からジゼルの心を盗めたかな?』
『3年後の卒業式の日にお前にもう一度告白してやる!』
『俺はお前とエンディングってやつを迎えてみせるぜ!』
「う・・・嘘つきっ!!」
「えっ?」
「アナタは嘘つきよ!私に愛の言葉を散々囁いておいて、それを破るのよ!アナタが勝手に誓ったたった1つだけのルール違反でそれら全ての言葉が無かったことになるってあんまりよ・・・」
「お、おい、ジゼル・・・」
「アナタの私に対する愛はそんなもんだったの?私はアナタの運命の人じゃ無かったって事ね?そんな簡単に諦められる様な中途半端な愛なら要らないわ!こっちから願い下げよ!」
私はプレアデスの背中を追いかけ、その背に抱きついた。そして思いの丈をプレアデスにぶつけた。
「お前・・・っ!」
「あっ!」
クルッと向きを変えたプレアデスがその大きな身体で私を抱き囲った。私は何度この腕の中に入れてもらったのだろう。何度この体温を感じたのだろう。そして。
何度このお互いの胸のドキドキを重ねたのだろう。
「は、離してよ!もう私の事諦めるんでしょ?」
「お前にそこまで言われて諦められる訳がねぇだろーが!」
「さっきの言葉聞いてた?私はアナタを見限ったのよ!」
「あぁ。聞いてた。俺に対する告白にしか聞こえなかった」
「バ・・・バッカじゃないの!とんだ自惚れ屋さんね!」
「必死にしがみついてきたのはそっちじゃねぇか。俺の事何とも思ってなかったらそんな事しねぇよな?」
「う・・・・・・」
「お前は俺が“お前を好きだと言わない”って約束を破った事よりも、俺が今までお前にぶつけてきた愛の言葉が無かった事になる方が辛い、って言ったんだよな?」
ぎゃぁ。なんか色々言ったけど、改めて要約されると確かにそんな感じの事言ってるわ!私は恥ずかしさでプレアデスの背中をギュッと掴んだ。
「・・・こっから先は俺の屋敷で、な。ここはギャラリーが多い」
そういや私達じゃなくて他の人も居たんだっけとハッと我にかえった。
ひぃぃぃぃ!人前でなんて事をしたのでしょう!今更ながらまた感情が昂るまま行動してしまった事に気付く。恥ずかしすぎる!今顔を上げることなど到底出来ない。出来ない、がどうする事も出来なくて、プレアデスにしがみついたまま硬直した。
「よっ、と。皆さんお騒がせしました!出来ればここだけの秘密にしててくれねぇかな」
プレアデスは私をお姫様抱っこし、その場に居た人達に向けて謝罪をした。
「は、はい!誰にも言いません!」
「お、おめでとうございます、殿下」
「おう!ありがとな!」
「凄い場面に遭遇しちゃいましたわねぇ〜」
「本当ですわ。なんて素敵なんでしょう」
「公式発表まで私達だけの秘密ですわね!」
いやいや、ありがとな!って。ひぃぃぃぃ。小さな拍手が起こり祝福モードなんですけど。
プレアデスは皆に手を振り、私を抱いたままその場から悠々と帰路へとついた。
信じられない事に馬車での移動もそのまま私はプレアデスの腕に抱かれたままだった。
プレアデスの部屋に入り、そのままドサッとベッドに降ろされた。
プレアデスは私の隣に座って私の肩に手を乗せてグイッと自分の方に引き寄せた。うわぁ。恥ずかしいんですけど!こんな座り方産まれて初めてなんですけどぉぉぉ!!密着度が凄い。
「悪ぃ。つい家に連れてきちまったけどさ」
えぇ、そうね。人は“つい”って出来事が多いわよね。私も“つい”為されるがまま抵抗もせずについてきてしまった訳ですけども。
“つい”プレアデスを引き留めた。ううん、それは“つい”なんかでは無かった事は自分が良く分かっているはず。
この人と離れたくない。このタイミングを逃すと、私に背を向けている、一度決めた事は絶対に守り通そうとする人は私の人生には二度と交わらないだろう。そう思ったら蓋をしようとしていた気持ちが溢れてしまったのだ。それはつまりある感情を意味していた。
「プレアデス、どうやら私。貴方の事が好きみたい」
横に居るプレアデスの顔を見上げながら私は正直に気持ちを伝えた。プレアデスは一瞬目を見開いた後、私を大切そうに優しく抱き締めた。
“だってプレアデスは私にとって大切な・・・”
その先に繋げたかった言葉は自分がよくわかっている。あの時は“つい”誤魔化してしまったけど。
“私の好きな人だから”
私は何よりも、この人の笑顔を隣で見ていたかったのだ。
ねぇ、神様。私をこの世界に導いてくださった真意はわかりませんが、私は今後何も欲しがりません。
だから。この人だけは私から奪わないでください。私は心からそう祈った。
ここまで読んで下さいましてありがとうございました(^^)
本日で仕事納めの方も居るのではないでしょうか?かくいう私も今年最後の業務をしております。
こうして仕事の休憩中にアップするのも今年最後です。
明日から9連休なので連載小説のストックを増やしたいなぁと思っています。
今年はまだまだ更新しますので残りわずかの本年、最後まで宜しくお願い致します!




