第54話
月の日の朝って何故にこうもけだるいのでしょうか。学園についてもボゥっとして働かない私の頭。気を抜いたらうつらうつらと船を漕いでしまいそうだ。
「おはようございます、ジゼル」
「あ、おはようアンジュ」
反対にアンジュは朝からキチンとしており、やはり品格の有無にに出自などは全く関係ないのだな、と思った。アンジュはきっと、どんな境遇であっても、ボロを着てても心は錦なのよね。対して私は豚が真珠を纏っているという・・・ぐ。自分で卑下して落ち込んできたわ・・・。
それにしても、本当にアンジュは綺麗。肌もきめ細やかでシミ・ソバカス一切無くて頬はほんのり薔薇色で・・・。あら?薔薇色というか真っ赤っかだわ!
「大変!アンジュ!あなた熱があるんじゃない?」
私はアンジュのおでこに自分のおでこをくっつけてアンジュの熱を測った。
「あれ?熱は無いみたいね・・・」
「あ・・・の。ジゼル・・・ッ」
「ん?なぁに?保健室行く?」
「いえっ・・・!その・・・っ」
「あー!ジゼルがアンジュにセクハラしてる!」
プレアデスが斜め後ろから私に向かってそう言った。
「へ?なんでよ!私はアンジュの熱を測っただけよ」
「お前がジーッとアンジュの事を遠慮も無く見つめてたから恥ずかしくなったんだろーが」
「えっ!そうなの?アンジュ!」
「え・・・、えぇ。その、少し恥ずかしくて・・・」
ひぃぃ!アンジュが赤くなったのは私の失礼な目線のせいだったのね。無意識とはいえ悪いことをしてしまったわ。
「なー、ジゼル。俺も熱あるかも。おでこで測ってくれよ」
「見た感じ全く熱なんてなさそうだけど」
「俺にならセクハラにならないからさー♪」
「・・・セクハラが何かは知らぬが、今のお前の言動がソレにあたるのではないか?」
アルド様が冷ややかな目でプレアデスを見て言い放った。
あ、そうか。セクハラって言葉をアルド様達は知らないんだ。でも、流石アルド様。鋭いとこついてるわ。これが空気の読める男なのね。
それにしてもプレアデス・・・。少しはアルド様を見習いなさいよね。私がジロッと睨むと、プレアデスはわざとらしく大げさに肩を竦めた。
・・・あの事件から一週間以上経った今でもプレアデスの頭には包帯が巻かれている。私の頬の傷はもう治りかけているのに。痛々しいその姿に慣れる事は無い。私を助ける為に怪我をも厭わなかったプレアデス。早く治ります様にと、願わずにはいられなかった。
昼休みに私は皆を中庭に誘い、それぞれお礼の品を渡した。ラッピングは上手く出来たと思う。刺繍もなんとか見れるとは思う。アップルパイはジョセフのお墨付きだから問題ないわね。
渡した後ってとても緊張する。
「出来はイマイチかもだけど、皆の為に心を込めて作ったの。本当に心配と迷惑をかけてごめんなさい。ありがとう」
「そんな!ジゼルが気にする事ありませんよ!」
「アンジュの言うとおりだ。お前はこの阿呆のトラブルに巻き込まれただけだ」
「ひでぇ、言い様だな。・・・でもその通りなのに俺まで貰っていいのか?」
「あの時、プレアデスが来てくれなかったら私どうなっていたかわからないもの。それにスティードやカミーユ様にも色々助けて頂いたから・・・」
「そんなの当たり前だよ!ジゼル嬢の為ならなんでもするよ!その、俺は皆さんと違って大した事は出来ないけど」
「ジゼルちゃんに何かあったら皆がこんなに心配するって事、忘れないでね」
私はこんなにも皆に大切にされていたのね。それを攻略対象者だからみだりに近付かないとか一線を引いたりして。安易に考えていた自分が恥ずかしくなった。
「まぁ!可愛い!ジゼル!とっても嬉しいです。私、大切にしますね!」
「ほっ、喜んで貰えたなら私も嬉しいわ。それぞれの印象をモチーフにしたのよ」
「そうか。俺はジゼルから見たら薔薇なのか。ん?プレアデスのは見たことが無い花だな」
「あ、桜って言って・・・うーん。遥か東国の花です」
「ジゼルは東国に詳しいのだな」
「は、はい。興味があって調べましたから!」
アルド様が不思議そうにプレアデスのハンカチの刺繍を眺めている。前に桜の髪飾りとブローチを作った時にボニーとユミルもそのデザインを今のアルド様と同じ様な目で見ていた事を思い出した。この国には、桜は無いのだ。殆ど前世と同じ物がここにはあるので、何があって何が無いのかを見極めるのがとても難しい。確実に無いのは米と小豆と桜だ。
いつか、東国に行ってみたいものだわ。その時はプレアデスも誘って・・・。はっ!べ、別に大した意味は無いわよ?あ、アマルシスだって誘うし!!
「アップルパイも美味しいよ!」
「わぁ!スティードの口に合ったのなら嬉しいわ!」
小麦粉のスペシャリストが美味しいと言ってくれたなら安心だわ。
とりあえずはちゃんとお礼出来たみたいで一安心だ。
皆で和気あいあいと昼休みを過ごしたのであった。
放課後、私はプレアデスに呼び止められた。
「ジゼル、あのさ。オフクロからお茶会の招待状行ったろ?」
「えぇ。両親と一緒にご招待頂いたわ」
「その、だ、誰がお前をエスコートするんだ?俺は主催側だし、アルドは別枠での招待だし」
プレアデスはなんだかそわそわした感じである。
「え?お母様がお兄様のお付の執事のイアンさんに頼んだみたいだけどね」
「誰だ!そいつは!お前まさかそいつに気があるんじゃねぇだろうな?」
「やめてよ!そうやってなんでもかんでも恋愛に結びつけるのは!」
「うっ。お前が俺以外のやつにエスコートされんの嫌だからよ・・・」
プレアデスはそう言うと顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。この人は本当にストレートに気持ちをぶつけてくる。臆する事なく自分の気持ちを人に伝えられるのは正直羨ましい。だが、こう逐一ヤキモチを妬かれるのは、痛くもない腹を探られている様で堪らない。
「はぁ。あのね。心配しなくてもイアンさんとはそんなんじゃないし、お母様がが決めた相手だし。そもそも私からエスコートを頼む様な人なんて居ないわよ」
くそぅ。なんか虚しくなっちゃったじゃないの。
するとプレアデスはパァッと笑顔になり、喜んだ。なんか複雑。
「本当か!?本当だな?」
「本当よ!くっ・・・!好きな人が居なくてゴメンナサイね!」
「いやいや!お前が頼めば殆どのやつは喜んでエスコートするぜ?はぁ、安心した。今夜は眠れそうだぜ」
「は?寝てないの?」
「いや、寝たよ、寝た!」
「嘘だぁ?」
「くっ!ニヤニヤすんじゃねぇ!俺だって好きな奴が他の男を誘ってるかもしんねぇって思ったら気にするぞ!・・・あ」
「・・・言ったわね」
「やべっ!嘘ウソ!いや、嘘じゃねぇ!あぁ・・・クソッ」
プレアデスは見るからに動揺している。
『俺たちはジゼルを好きな男同士、抜け駆けしない、卒業式までお前に“好き”と言わないと決めた』
卒業まで私を「好き」と言わないとアルド様とスティードと協定を結んでいた。
「わりぃ。俺ちょっと・・・」
「えっ?プレアデス?」
プレアデスは顔を青くして踵を返して走り去ってしまった。
プレアデスがあんな顔をするなんて・・・。大丈夫かしら?私はプレアデスの後を追おうとしたが、そっとしておく事にした。だって、追ってどうするの?サポキャラの私に何が出来る?私からの慰めなんて、彼をもっと惨めにするだけではないだろうか?プレアデスの気持ちを受け止めるだけの自信も余裕も、私には無かった。
私は暫くプレアデスが去った方向を向いてその場に立ち尽くしていた。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました┏○ ペコリ
もっと早い時間に投稿したかったのですが、サイトが重くてこんな時間になってしまいました。すみませんでした!




