第52話
イアンさんが続編の新キャラで、本来ならば私の家では無くアンジュの家に仕える筈だった。
にわかに信じがたい話だが、もしかしたら今後我が家を離れアンジュの家に仕える可能性だって無きにしもあらずよね。
「ねぇ、シズカ。他に新キャラの話とか没になったキャラの話とか聞かせてくれないかしら?」
「えぇ、いいわよ。新キャラはイアンと、教会で良く見かける男性ハルジオン。この人にはどこか影があってね。教会に通っているのは懺悔の為・・・この人の苦しみを癒やしたいと思い始めるアンジュ・・・ってとこかしらね」
「まぁ素敵!教会って事はその方が存在していれば、既にアンジュと会っているかもしれないわね!もしかしたらその方のルートに入っているかも」
「ただ、イアンの設定も違っているから存在したとしても別の場所にいるかもしれないわよね」
「はっ、そうよね・・・」
シズカはクッキーをチビチビと囓っている。ふふ、小動物みたいで可愛いわ。その可愛らしい顔とは裏腹にあんな大胆な絵を描くなんて・・・。あんな・・・、あんな・・・!!
「ねぇ、カシス先生!!こちらの世界でも創作活動しませんか!?今私手始めに我が家のメイドにBLを布教してるんですけど!」
「えっ!何故カシス先生?そして何故敬語?杏・・・?」
「あっ、私にとってカシス先生は神様だったからつい・・・」
「ふふ、ありがとう。嬉しいわ、杏。実はね私もまだまだ描き足りなかったのよ!」
「シズカ!私アシスタントでも何でもやるわよ!」
「本当!?これから忙しくなるわね!」
こうして私達の同人活動がスタートしたのであった。後にシズカことアマルシスが前世同様カリスマ的作家となる事はまた別の話である。
「あぁ、こんな時間。楽しい時間はあっという間ね。私そろそろお暇するわね」
「えぇ、玄関までお見送りするわ」
シズカが私と話をして、楽しいと思ってくれたのなら本望だ。私も久々に有意義な時間を過ごせた気がする。
「では、また」
「あぁ、今度はお城に行ってみましょう!その、聖地巡り!」
「ふわぁっ!いいの?楽しみにしてるわ」
「えぇ、その時はアンジュも誘って三人で」
「じゃぁ、またねジゼル」
最後はボニーやユミルの手前、ジゼルと呼んだシズカ。私もこれからはアマルシス呼びをしないと。ドジな私の事だもの、シズカ呼びが癖になるとボロが出る自信があるもの。
「ジゼル、お友達は帰ったの?」
「あ、お兄様、とイアンさん」
イアンさんが新キャラと認識してから初めてマジマジとイアンさんを見た。今までそんなに意識して見た事が無かったけど、キリリとした眉毛とキツめの眼差し、スッと通った鼻に丁度いいバランスの口。さすがカシス先生だわ。大人の魅力たっぷりといえばたっぷりよね。見た目はいいのよ。ただ、性格が・・・。
「おや、どうしました?お嬢様。私の顔に何か面白いものでもついてますかね?」
「い、いえ!何でもありません」
「ジゼルはただボーッとイアンの方向いていただけで別にイアンなんて見ちゃいないよねぇ?プーッ!自信過剰ぉ〜」
「はて、ボーッとしていてもお嬢様がジルドラ様の方を見ないという事は、ジルドラ様はまっったく眼中に無いという事ですね!プーックスクス」
「ギャフン!」
なんだかんだでこのコンビはいつもこんな感じだから、これが普通というか。つか、この人が真面目に恋愛とかするのとか考えられないわ。特に気にする事は無いわね。
私が部屋に戻ろうとお兄様とイアンさんの隣をすれ違った時に、イアンさんが私の耳元にボソッと呟いた。
「あぁ、お嬢様。スカートの裾がほつれていて、お尻が見えていますよ」
と。
うわぁぁぁぁぁぁぁ!い、いつ?いつほつれたのかしら?私は慌ててお尻を押さえてダッシュで部屋に戻った。
「ボニー、ユミル!スカートがほつれていた事知ってた?」
私は後から私を追ってきた二人に問いかけた。
「いえ、知っているも何もほつれてなどいませんよ」
「そうですよ、お嬢様。流石にお尻が見えるほどほつれていたら気づきますって」
二人が嘘を言っているふうには見えない。
「えっ?」
「誰にそんな事を言われたんですか?」
私に訊きつつも、心当たりがある様な顔をしているボニー。
「イアンさん」
「あぁ、からかわれたんですね。きっと」
やっぱり、と言う様な顔をしたユミル。
えぇぇぇ!?私本気で人前でパンツ見せびらかしてたのかと思って焦ったのにぃ。クォォォ!あの、身体は大人でも中身はこども♪な逆迷探偵め!
あ、でもダッシュで部屋に戻ったせいかお兄様の相手をしなくて済んだわ。まさか、私を逃がしてくれた?いや、まさかね。それはいくらなんでもこじつけすぎよね。
それにしてももう一人のハルジオンさん・・・。アマルシスによると、どんなキャラにするかはまだ考え中だったそうだ。存在するかどうかもわからないけど、教会に懺悔に来るくらいの人だからとても繊細な人なのだろう。
いたずら好きのイアンさんと、繊細なハルジオンさん。両極端な二人が追加されたアドアンはさぞや素敵な仕上がりになっていただろうと思うと、プレイ出来ないのが残念すぎる。
この世界はアドアンをなぞった世界なのだろうか。それともアマルシスが言う様にパラレルワールドなのだろうか。どちらも確定するには納得のいく答えは出ない。いつか、その答えが出るのだろうか。 その時私はどうしているのだろうか。
さてと、一応この情報を手帳に書いておこうかしらね。役に立つかどうかはわからないけど。
「ジゼル、ちょっといいかしら?」
「はっ、はい、お母様!」
きゃぁーぁ!何の御用でしょうか!?最近はちゃんと大人しくしてるわよ?私が返事をすると、お母様が部屋に入ってきた。
「あなた宛てにお茶会の招待状が届いたのだけど」
お茶会・・・。もはやこないだの拉致事件で嫌な響きでしかないわ。
「こないだ家に来たあの子、プレアデス殿下のお母様から来てるわよ。私までご招待してくださっているので私も一緒に参加するわよ」
「ひっ!!」
「いい?ジゼル。隣国の王家の王妃様からのお茶会のご招待ですからね、失敗は許されないわよ?」
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・という効果音が聞こえてきそうな母のプレッシャーがもの凄い。
ひぃぃ・・・。プレアデスのお母様からってだけでも気が重いのに、お母様と一緒に参加とかマジ勘弁なんですけど・・・。
「は、はい。それなりのマナーは大丈夫だと思いますけど・・・」
「あなたはそそっかしい所がありますからね、私に恥をかかせないでちょうだいよ?」
「はいっ!」
うっかり、「イエス、マム!」と返事しそうになったわ。あぁー、でも気が進まないなぁぁ。
「あ。あなたのエスコート役はイアンにお願いしたから、後で打ち合わせしておきなさいよ」
「ふぁっ!?それは、お兄様でいいじゃない!」
「ダメよ。ジルドラは兄妹だもの。それに、ジルドラがジゼルをエスコートしたら、一家全員参加になってしまうじゃない。ちゃんとしたお茶会だし、あなたは嫁入り前の娘なのだから、兄弟ではなくちゃんとエスコート役の人を立てなくちゃ」
「えぇぇぇ!そういうもんですか?」
「そういうものよ」
ぇぇえー。よりによってイアンさんとかさー。もっと他に居るんじゃないのー?えぇと・・・アルド様は王子だから無理。プレアデスは当家の王子だから無理。スティードは格式張った所に連れて行って無理させたくないでしょー。他の方にしても私がエスコート役に指名するのはおこがましいし・・・。みだりにこちらから接触するのは避けたいし・・・。
うん、居なかった!!・・・居なかった。ぐすん。
私は自分の学園生活において、親しい異性が皆アンジュの攻略対象者しか居ない事に改めて気づいたのだった。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました┏○ ペコリ
更新が2日程空いてしまってすみませんでした!




