第5話
アルド様が私を訪ねてきたらしく、私は急いでサロンに向かった。
サロンの扉を開けると、アルド様がソファーに腰を掛けていた。
ソファーに座って足を組んでいるアルド様はなんて素敵なのでしょう!!ふわぁぁ!!眼福!!
「お待たせしてすみません、アルド様」
「・・・いや。いい」
「・・・・・・?」
あら?何か不機嫌じゃない?え?私何かした?あ、いやらしい目で見てたのに気付かれてしまったのかしら!!
「ジゼル。正直に言ってほしい」
アルド様が、立ち上がって私の方へ向かってきました。
「え?何でしょう・・・?」
ひぇぇ!やっぱり何か怒ってる!!アルド様の剣幕にビビってしまい、思わず後ずさりしてしまう。
「ジゼル!」
ダンッ
「ひぇっ!!」
思わず目を瞑ってしまい、次に目を開けた時にはアルド様のお顔が目の前にあった。アルド様の濃いサファイアの色した瞳に私が映っている・・・ていうか、これ壁ドンじゃない!?
「ひゃぁぁぁ!アルド様近いです!」
「ジゼル、俺はお前に何かしたか?」
「・・・・・・は?」
「何だかお前に避けられているような気がしたんだが」
「えっ?そんな!滅相もないです!!」
あっ!もしかして、気を利かせてアンジュと二人きりにしたのが裏目に出てしまったのかしら?ヤバイヤバァイ!
「・・・本当か?」
私は無言でコクコクと頷いた。耐性が・・・イケメン耐性が皆無な私にはそろそろ限界が・・・。
「・・・良かった。お前に嫌われてしまったのかと思って心配したぞ。・・・今日はスティードとずっと一緒に居た様だし」
「あ、いやスティードにパンを頂いたのでお返しをと思って」
え。アルド様もしかして、友達をスティードに取られたと思ってヤキモチ妬いてたんですかね。それでわざわざ訪ねてくるなんて、しっかりしている様でまだまだこどもなのね!ププーッ。
「安心してください。私達はずっと一緒ですから」
私とアンジュとアルド様。三人はこれからもずっとずっと仲良しで居るだろう。例え、アンジュとアルド様が見事に結ばれたとしても、だ。
「・・・そうか。わかった。すまないな、突然押し掛けてこんな乱暴な事してしまって」
「そんな、ありがとうございます!」
「なんで、礼?」
「心配、してくれたんですよね?」
「あっ、あぁ。お前に変な虫がついたら困るからな!」
「もぉ〜!アルド様は過保護過ぎますよっ」
「〜〜〜・・・。はぁ。・・・お前は色々と自覚が無さ過ぎる」
「自覚・・・?何の・・・?」
「もういいっ!今日は帰る。明日朝迎えに来るからな!」
「え、あ、はい。わかりました」
なんなの?アルド様は顔を真っ赤にして、怒って帰っていった。なんか私変な事言った?いや、言ってないよね。やっぱり目つきがいやらしかったかしら!?だって、あんな至近距離でイケメンが!!
はぁ。・・・思春期の男の子は気難しいのね。アンジュが居ない時のジゼルと攻略対象の絡みはゲームにもほぼ出て来ないからこれでいいのかわからない。
杏で過ごした26年間、殿方との出会いはあるにはあった。しかし、消極的で奥手な性格もあってか、うまくは行かず乙女ゲームにのめり込んだ。私は三次元より二次元を選んだのだ。二次元なら任せとけ!なんだけどなぁ。まさか、二次元キャラを三次元として接する日が来ようとは。
しかも杏はアルド様と10歳も違うのよね。ちょっと凹むわー。
えぇと、明日は朝、アルド様と登校、お昼は皆でスティードのパンをご馳走になる・・・。なんか忙しいわね。
うーん。アンジュをもっともっと魅力的に見せるにはどうしたらいいのかしら。 えぇと、アルド様の義理の従兄妹で、天使の様な外見と性格でお料理が上手くてー・・・えっと、・・・後は?外見と性格はチートレベルだけど、学力とか体力とか歌とかダンスとかそういうのはプレイヤーのパラメーター上げ次第なのよね。つまり、学園に入学したばかりの今のアンジュにはまだ、性格が控えめなせいで、これといったインパクトが無い!
この時期、ゲームのジゼルは何をした?えぇと、髪を目立たない色に染めてたわよね。あれは、自分の見た目の奇抜さが目立ってしまうからよね。ピンクの綿菓子みたいな腰まであるふわふわ頭にオッドアイとか。そんな派手なのが可憐で儚い控えめで上品なイメージのアンジュの周りをうろついていたらそりゃぁ、まず嫌でも派手な方が目につくわ。
なんてこったい!!
私は慌てて部屋を出て、ボニーに髪を染める染料を頼んだ。
「お嬢様?染料・・・ですか?え?髪の毛をお染めに?勿体無いです!せっかくこんな綺麗な色をしているのに」
「いいのよ!なるべく目立たない色にしたいの。ボニー。これはイメチェンと言ってね、お洒落なのよ」
「まぁ!イメ・・・チ、エン?ですか?わかりました。目立たなくても艶のある綺麗な髪色にしましょうね。すぐにご用意致しますね!」
ボニー、毎度毎度なんか言いくるめててごめんね。今度美味しいお菓子でも差し入れするわ。
湯を沸かしてもらって、ボニーともう一人のメイド、ユミルに髪を染めてもらっている最中だ。
「お嬢様の髪の毛は、とても触り心地が宜しいですね」
「ありがとうユミル。私はふわふわよりもサラサラに産まれたかったわ」
「ジゼル様、濃い紺の染料を使用しますので出来上がりは濃い紫になるかと。元々の髪色がピンクなので・・・」
「えぇ、それでいいわ。楽しみ♪」
「ジゼル様。差し出がましいとは思いますが、先程殿下がお見えになったので、殿下と何かあったのではと思いました」
「あぁ、それとこれとは何も関係がないから安心して。殿下は私がお誘いを断って先に帰ってしまったから心配していらしただけよ。ありがとうボニー」
「いえ、何も無かったのなら、良かったです」
あー、私がサロンに入った時アルド様不機嫌だったもんなぁ。あの様相を見たらそりゃ心配にもなるよね。
「では、このまま暫くお待ちくださいませ。ユミル、ジゼル様にお茶を」
「はい。すぐにお持ち致しますね」
「二人とも余計な仕事をしてもらっちゃってありがとう」
「「いえ、滅相もないです!!ジゼル様の身の回りのお世話で無駄なお仕事なんて1つもありませんから!」」
凄い!双子みたいに息ピッタリ!ふふ、ジゼルは心優しいメイド達が居るから両親とお兄様が長期不在でも寂しくないわ。
暫くボニーとユミルにも席についてもらい皆でお茶を愉しんだ。
「そろそろ時間ですね。余り時間を置くと髪の毛がギシギシに傷んでしまいます」
ボニーに促されて私はバスルームへと移動した。髪の毛を良くすすいで、蜜油という花から採れた蜜で作られたオイルを髪に揉みこんだ。これは艶々の髪にする為のものだ。花の良い香りがして、なんだか心も落ち着く。ほわぁぁぁ。いい湯だなぁ〜。
タオルで良く水気を取り、再びボニーとユミルが私の髪を少量すくっては扇で仰いで乾かしている。自然乾燥でいいといつも言っているのだが、二人は聞いてはくれない。
「お嬢様、こんな感じに仕上がりました」
「わぁ、これはこれで素敵な色ね!」
思っていたよりもピンク寄りの明るい薄紫だが、ピンクよりは目立たない。
「明日は三つ編みに結ってね!」
「三つ編み・・・、いや、せめて編み込みのアップにさせてください」
「じゃぁ、それで!」
後は伊達眼鏡・・・。もう、この時の私は何が目立って、何が目立たないとかがわからなくなっていた。
ボニーとユミルはきっと、“やりすぎ”だと思っていた事だろう。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました☆
週に1回更新できればと思っていましたが、今のところ1日1回更新出来ているので頑張って続けたいと思います。