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第47話

 翌日、久々に家族揃っての朝食だった。お母様もなんとか復活したみたいで何よりだ。復活したのはいいが、もう少し淑女らしくなる様にと刺繍やピアノ、ヴァイオリン、マナーについての本を読むなどなど、どっさりと宿題を出されてしまった。

 さすがに両親が居る時は学園の送り迎えをするとは言い出せなかったお兄様を尻目に私はいそいそと学園に向かったのであった。

 最早、家に居る時よりも学園に居た方が平和だというのだから堪らない。


「ジゼル!!もう出てきても大丈夫ですか?今日来れない様でしたらお見舞いに行く所でしたわ」

「アンジュ、それにアルド様にスティード。心配と迷惑をかけてごめんなさい」

「本当に良かったぁ・・・。ジゼル嬢が無事で何よりだよ」

「しかし、怪我までしてオマケにその髪・・・。けしからんな」

「似合ってませんか?」

「に、似合ってないとは言ってないだろう!」


 私が学園から連れ去られた後、アルド様はすぐに私の両親の元へと早馬を走らせ、国王に連絡の後自警団とアルド様の騎士団を国境近くまで派遣して待機してくださっていたとの事だ。そして、プレアデスの方から私を保護したとの連絡を受けて即座に帰還→国王と私の両親へ連絡と、スムーズな流れで動いてくれていた。


「アルド様、何から何まで、本当にありがとうございました!何かお礼をしたいのですが・・・」

「礼には及ばない。当たり前の事をしたまでだ」


 いや、一個人の為に、騎士団まで派遣するのって当たり前では無い気がします。物凄くありがたいのですが。そうだ、お母様に言いつけられた刺繍なんてどうかしら?ハンカチか何かに刺繍をしたものをプレゼントしたらいいかも。それにお菓子もつけて・・・。うん、それが良いわね!お菓子ならプレアデスやアンジュ、スティード、カミーユ様にもあげられるもの。


「よーっす!先日は本当に迷惑をかけてすまなかった」


 プレアデスが教室に入るなり、皆に頭を下げた。


「二度とジゼルを巻き込むなよ!」

「おう。お前には借りが出来ちまったな。・・・助かったよ」

「じゃぁ、ジゼルの事は諦めてくれ」

「ちょっ!それとこれとは話が別だろ!?」

「ふん、まぁいい。貴様のそのみすぼらしいなりに免じてそれは勘弁してやる」


 アルド様はプレアデスの頭に巻かれた包帯とアチコチの擦り傷、切り傷を見て吐き捨てた。


「ジゼルの髪、短くてもふわふわで可愛いです」


 そう言ってフワリと笑うアンジュのなんて可愛らしい事。


「アンジュの髪の毛も、サラサラで凄く綺麗よね」


 何気にサラッと触ったら、アンジュはうっすら頬を赤らめながら


「ありがとうございます」


 と言った。ヤバい。可愛い。私道を踏み外しそう。


「俺、今日ジゼル嬢が来るかもって思ってジゼル嬢の好きなピーナッツバターのコッペパンと、生クリームとフルーツを挟んだクロワッサンを持ってきたんだ。お昼に食べよう」

「まぁ!とても嬉しいわ、スティード!」


 スティードって本当に良く気の付く殿方よね。旦那様にしたら絶対間違い無しだわ。なんとなくだけど、若干胃袋を掴まれている気がする・・・。

 あれから、毎日我が家でもスティードの家の食パンやベーグルなどが出る様になったけど、やっぱり皆と一緒に食べるのが一番美味しい気がする。


 そして、痛々しい怪我だらけのプレアデス。なんだかんだ言ってもアルド様と楽しそうに話しているのを見ると、本当に良かったなって思う。私の為に、あんな無茶な事を・・・。でも、必ず助けに来てくれると信じてたよ。


「ん?何だ?そんなに熱い眼差しで俺を見て。あっ!遂に俺に惚れたか?」


 無意識に私はプレアデスを凝視していたらしく、そんな事を言われて初めて気が付いた。


「ば、馬鹿ね!傷が痛そうだなって見ていただけよ。そもそも見ていただけで惚れたとか、勘違いもいいとこよ!」

「・・・ふーん?勘違いか。ハハハ!」

「な、何笑ってるのよ!」

「だって、俺はお前の事しょっちゅうガン見してるからな」

「しょっ!?ガン・・・・・・!?」


 もう、プレアデスはすぐそういう事を言う。・・・でも確かに最初の頃よりは、私はプレアデスに対して何か思う所があるのかもしれない。

 この気持ちは・・・・・・。



「ジーゼールーちゃん♪」


 放課後、私の教室を訪ねてきたカミーユ様。あれ?どうしたんだろ。


「カミーユ様、どうしました?」

「あのさ、夏休みにちょっとしたラクロスの大会があるんだけどさ、皆で応援に来てくれないかな?」

「ラクロスの大会ですか?」

「そう。ここらの近隣国が集まる大会なんだけど、出店とかも出るしお祭りみたいで楽しいと思うから、良ければと思って」


 ・・・あぁ!カミーユ様ルートでは避けて通れないカミーユ様のラクロスの大会イベントだわ。アンジュを誘って応援に行かなくては!


「えぇ!是非に。アンジュも誘って応援に行きますわ」

「本当!?ありがとう!部員達も喜ぶよ。まぁ、俺が一番嬉しいんだけどね」


 そう言ってウィンクをするカミーユ様は、まるでアイドルみたいにキラキラしていた。たまたまそのカミーユ様を目撃した女生徒数名がが気を失うくらいに。凄い威力。


 今年の夏休みは海に、ラクロスの大会にと沢山楽しい事が待っているわ。だから今は・・・。学園が終わったらさっさと帰らないと・・・。お父様のご機嫌を損ねたら夏休みの外出も出来なくなるもんね。

 私は皆に挨拶をしてダッシュで家に帰った。



 家に着くと、両親とお兄様についていった使用人達も戻っているので騒がしいというわけではないが、活気づいている気がする。

 ボニーやユミルも久しぶりに先輩たちに会って、少し居づらそうだが、それはそれで嬉しそうでもあるので良い事だと思う。


「ジゼル、帰ってきたの?お帰り♪」


 お兄様が部屋からトランプとチェスセットを持ってやってきました、


「ただいま、お兄様」

「ねぇ、ジゼル。今日は何して遊・・・」

「お兄様、ジゼルはお母様からもっと女の子らしく令嬢らしく振る舞う様にと言いつけられているのですから、遊んでいる時間など無いのですよ」

「えっ!前回もそんなに遊べなかったのにぃ〜!わぁぁぁぁぁぁん!!」

「プーッ!クスクスクス!妹に遊んでもらえないからとマジ泣きする23歳(笑)」

「もー!イアンのバカ!!グスン」


 お兄様、長期の領地の視察でどこかに常識とか置いてきてしまったのかしら・・・。これじゃぁ、ただの我儘なこどもじゃない。仕方ないわね・・・。


「私はお兄様とは遊べないですけど、一緒に刺繍やマナーのお勉強をするというのなら、歓迎しますわ」

「本当っ!?する、するよ!」

「では、紅茶でも飲みながらやりましょう。私は先に着替えてきますから、後で私の部屋に来てくださいね」

「わかった!僕のとっておきの紅茶持っていくからね!」


 お兄様と一緒に刺繍&ティータイムを過ごし、自分が如何に不器用なのかがわかった。


「ジゼル、大丈夫?指が・・・ひぃっ!」

「大丈夫です!包帯巻いておけば刺しても痛くないので」


 私の左手の親指と人差し指と中指は刺繍針で刺しまくってボロボロになっていた。ボニーに手当をしてもらい、ひたすら、チクチクチクチク。

 目の前のお兄様は既に黄色いマーガレットの刺繍を仕上げている。普通に上手かった。あれ、兄妹でこのスペックの差は一体・・・?


「わぁ、出来てきたね。それは・・・えぇとリンゴかな?」

「・・・・・・薔薇です」

「えっ、あっ!ほ、本当だ!」


 アルド様には赤い薔薇が似合うと思ったので、薔薇のモチーフにしたのだけど、確かにリンゴにしか見えないかも。はなびらが難しい。


「失礼ですが、お嬢様。私が布に印をつけますのでその通りにやってみては如何ですかね」


 そう言ってイアンさんは白いハンカチに本の見本通りに印をつけてくれた。先程の失敗は、本の通りにやってたつもりでも刺繍がズレていたのが原因らしくイアンさんの印通りにやったら、なんとか様になった。


「あ、ありがとうございます!イアンさん」

「ふふ、どう致しまして」


 なんかイアンさんがからかったりせずに私に何かをしてくれるのは珍しい。そんな気持ちが顔に出ていたのか、


「・・・私だってたまには執事らしい事しますよ」


 と言った。いや、たまにじゃダメだろ。一風変わった執事のイアンさんは仕事は出来る。出来るのだが、性格に少々難あり。

 黙っていれば普通に紳士なので、アドアンのスタメンに引けを取らないと思う。攻略するのが難しそうな人ほど燃えるかも。

 ・・・・・・・・・。


「あーーーーー!!」

「じ、ジゼル!?どうしたの?急に」


 そうよ、主人公がアンジュなら隠しキャラが私のお兄様やイアンさんでもおかしくないじゃない!!なんで今まで気が付かなかったのかしら。

 私は皆を部屋から追い出して、一人で熟考する事にしたのだった。

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました┏○ ペコリ

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