第45話
用意してもらった食事を全て平らげた後、綺麗な薄い桃色のドレスを頂いてしまった。遠慮したのだけど、流石にお城の中を制服でうろちょろする訳にはいかないもんね。侍女の方に着せてもらい、バッサリ切られた部分の髪の毛は上手く隠す様にアップに纏めてもらった。後で揃えて切らなきゃね。
着替えが終わると私はプレアデスに案内されて王様の執務室へと向かった。
プレアデスがドアをノックして扉を開け、私を中へとエスコートしてくれた。うぅ、緊張するなぁ。未だに伯父さまと会うのですら緊張するのに、他所の国の王様となると緊張の度合いが段違いである。
部屋に入ると、中央に立派な机があり書類が山積みになっているのが見えた。その真ん中に鎮座しているのがプレアデスのお父様、プラネタリアの国王である。隣に寄り添って立っているのがお母様かしら?
陛下はプレアデスとよく似た雰囲気で、ダンディな髭を蓄えている。これはユミルがめっちゃ喜びそうだわ!
「失礼致します。お初にお目にかかり光栄に存じます。国王陛下に置かれましてはご機嫌麗しゅう存じます。私はシードゥスのファレイユ公爵の娘のジゼルと申します。この度は大変ご迷惑をお掛け致しました」
私はドレスの両端を摘んでドレスを持ち上げ、腰を落としてお辞儀をした。
「堅苦しい挨拶はその辺で。私がプレアデスの父親のケフェウスだ。そして母親の・・・」
「ベガと申します」
おぉ!やはりお母様でしたか!ケフェウス様もベガ様もプレアデスと同じ漆黒の髪の毛だ。なんだろう、なんて妖艶な色っぽい親子なのだろう。名前も星座で揃っててなんて素敵なの!我が家なんて、私がちんちくりんだから、家族写真とか合成写真なのかと思う位だというのに・・・。
「この度は我が愚息が大変迷惑をかけてすまなかった」
「いえ、滅相もないです」
「今回は我が国も領地を失うだけで済んで良かったものの、その処遇も決して軽いものでは無いとわかっているな?プレアデスよ」
「はっ。重々承知しております」
「お前の軽率な行為によって友好国の令嬢を危険に晒し、領地まで失った。本来ならばお前にもそれなりの処遇が必要なのだが・・・」
うぅ、ピリピリしてる・・・。いたたまれない。プレアデスのせいじゃないのに。だって、ミレーヌ嬢があんなキチガイだったなんて想定外だもの。
私は思わず隣に立っているプレアデスの袖口をキュッと摘んでしまった。
「今回、元バッセーロ伯爵の横領の件を解決した事で手打ちにしてやる。留学を辞めて即刻国に帰ってこいと言いたい所だったが、・・・そちらのお嬢さんに免じてそれは諦めよう」
じゃぁ、プレアデスは今まで通り学園に通ってもいいって事?
「ありがとうございます!!」
「お、おい。俺より先に礼を言うな・・・っ」
「あっ!つい・・・」
「ハハハ。いいお嬢さんじゃないか、プレアデス」
あ、笑った・・・!あ、いや、笑われたのか。でも、やっぱりプレアデスとソックリだ。
「しかし、お前がいつまでも婚約者を作らずふらふらとしているからこんな事件が起きたのではないか?」
「そ、それは・・・、その」
「近々縁談を取り付けねばなるまいな」
「しかし、父上!!俺は・・・!」
プレアデスが私をジッと見つめている。え?え?
「・・・まぁ、良い。その件はまた今度にしよう。二人ともゆっくり休んでからシードゥスに戻るといい」
「はっ。心得ました。ジゼル、行くぞ」
「また、いつでもプレアデスといらしてくださいね。あぁ、そうね!今度お茶会にご招待してもいいかしら?」
ベガ様がニコリと微笑みながら、私をお茶会へと誘ってくださった。ふぉぉぉ!素敵ぃぃぃ!とても16歳の息子が居るとは思えない程若く見える。正に美魔女!こんな人の誘いを断ったりしたらバチが当たるわっ!
「は、はい!光栄です!ありがとうございます。では、失礼します」
私は再びペコリとお辞儀をして、執務室を後にしたのだった。
「ふふ、プレアデスったら、あの子の事が好きなのね」
「ハハハ。バレバレだったな。まぁ全く脈が無い訳ではなさそうだから、我々は見守っていようじゃないか」
「そうですね。でも、お茶会とか色々機会を設けてあげなくちゃ。私の娘になるかもしれない子だもの」
「おいおい、あまり余計な事はするなよ?」
「まっ!余計な事ではないです。息子の将来がかかっているんですからね!」
「わかったわかった・・・(やれやれ、息子の事となるとすぐこれだ)」
「早速色々とプランを考えなくちゃだわ♪」
「・・・程々にな」
王はなんだかんだで、そんな楽しげにニコニコしている王妃を心底可愛いと思っているのであった。
ゾワリ
「ひゃっ!?」
プレアデスと一緒に客室に戻る途中、背中がゾワッとしたので驚いて声をあげてしまった。
「ど、どうした!?」
「い、今なんか変な感じがして・・・。なんか面倒事とかに巻き込まれそうな予感がする・・・」
「は?これ以上変な事があってたまるかよ」
「そ、そうよね。気のせいよね」
そう納得したが、この予感が暫く後の夏休みに的中するのだが、これはまた別の話である。
部屋に戻って紅茶を1杯頂いてから、家まで送ってもらう事となった。みんな心配してるだろうな。族が捕縛された知らせを受けて、既に屋敷の使用人たちは伯父さまのお城から屋敷へと引き上げているそうだ。私が屋敷に戻る頃には両親とお兄様も帰宅しているだろうとの事で・・・。帰ったら帰ったで大変そう。
「ジゼル、今回は本当にすまなかっ・・・」
「もう、そんなに謝ったって起こった出来事が無くなるわけじゃないんだから。それに、私はアナタが悪いってこれっぽっちも思っていないわ」
私は何度めかの謝罪を、プレアデスの口元を両手でおさえて制止した。
「プレアデスはちゃんと助けてくれたじゃない、ねっ(ニコッ)」
「ジゼル・・・ッ!」
ガバッと抱き寄せられ、あっという間にプレアデスに抱き囲われた。
「プレアデ・・・」
何か、言おうとしたが、プレアデスの大きな身体が震えているのに気付いたのでそのままじっとしている事にした。
「お前が攫われたの知った時、すげぇ恐くなっちまって・・・」
「プレアデス・・・」
「今でも思い出すと恐くなってこのザマだ」
「うん・・・」
「もう、こんな思いは二度とごめんだ・・・だから、ジゼル。ずっと俺の傍に居てくれ・・・」
「!!」
なんて、弱々しい声。いつもは何でか自信に満ちあふれた振る舞いをしているというのに、今日のプレアデスはいつになく弱気だ。
「馬鹿ね、プレアデス。アナタらしくないわ。アナタが助けに来てくれなかったら私はもっと酷い事されていたわ。これだけで済んだのは紛れもなくアナタのおかげよ。アナタが居てくれて、良かった」
「ジゼル・・・」
「これからも、ずっと私を守ってくれるんでしょ?そんな弱気な人に私を守れるとは思えないわ」
「ジゼル・・・え?それって・・・。ずっと俺の傍に居るって事だよな!?」
あれ?プレアデスを励まそうとすればするほど、なんだか私がプレアデスに傍に居てって言ってるみたいになる。うわぁっ!!私、なんて事を!
「(プッ。顔真っ赤・・・っ)ジゼル・・・」
プレアデスが私の顎をクイッと上げた。プレアデスの顔が近付いてくる。う・・・。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!ダメよ、ダメッ!!」
ドンッとプレアデスを突き飛ばしてしまった。いや、だって、なんか!キ・・・、キ、キスしようとしなかった!?
「うわ、なんだよ!」
「だ、だって今キ、キスしようとしたじゃない!」
「あぁ。したぜ?」
「ひっ!そ、卒業式まで待つって言ったじゃない!」
「いや、普段から何のアピールもしてないやつがいきなり卒業式に告ってくる方がおかしいだろ。ちゃんと卒業式に正式に俺の物にするんだからいいじゃねぇか」
え?そういう問題なの?いや、確かにそれはそうだけども。昨日までただの級友だった人に告白されても、ごめんなさいになるわよね。いや、でも!なんでアンタのものになる前提なのよ!
私はプレアデスがいつもの調子に戻ったのはいいが、先程までの弱々しかったプレアデスの方がまだ殊勝であったな、と励ました事を少し後悔したのであった。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました┏○))ペコッ




