第44話
この状況でぐっすり寝られた自分が信じられないのは置いといて・・・。よく見たらアニキと呼ばれているボスみたいな男はモンタージュの絵そっくりの、これといった特徴があんまり無い男だったのに気付いた。
「そろそろ時間ですかね、アニキ」
「あぁ。ずらかる準備は怠るなよ!!」
「はいっ!!」
手下達がわさわさと慌しく荷物をまとめているご様子。
なんでしょうね、この小者臭は。
「アニキ!!来やしたぜ!」
「そうか、じゃぁなお嬢さん。お嬢の気が済むまで相手してやんな」
私の頬をグイッと掴んだ男は、そう吐き捨てるとさっさと部屋を出て行った。急に静かになったわね・・・。
はぁ・・・。お腹空いた・・・。もう昨日からずっとそればかり気にしている。おにぎり・・・おにぎりが食べたい・・・。とにかく米が食べたい・・・。か、帰ったらとりあえずTVで見たあれをやってみようかしら・・・。小麦粉を水と混ぜてちねるやつ・・・。使用人達とちねれば早いわよね・・・。
グゥォウウゥゥゥキュルルルル
うわっ!お腹の音でかっ!!スティードが果物を食べさせてくれなかったら私本当に死んだんじゃ・・・?ってくらい空腹の波が押し寄せてきた。
・・・暇ね。何この放置プレイは・・・。あれから体感で30分は経っている。
ガチャッ
おぉ!ようやくおでましですか?双方話がついたのかしら。さぁ、どうする?どうするの!?
「プッ。これはこれはジゼル様。先日はどうも。ふふふ。とても無様な格好ですわね」
ドアを開けて入ってきたのは、やっぱりミレーヌ嬢であった。いや、ミレーヌ嬢じゃなかったら誰なんだってくらい最初からミレーヌ嬢しか当てはまる人物が居なかったのだけど。
安定のミレーヌ嬢。最早安心した。よかった。他の人に恨まれてなくて。ミレーヌ嬢は髪の毛を夜会巻きにし、露出の多い黒いスパンコールドレスを纏っている。昼間からそんな格好は目立たないか?・・・あんなセンスの良いお宅に済んでいるのに・・・。
「・・・あんたねぇ!この状況わかってんの!?国際問題にまで発展しそうなのよ?」
「この状況わかってるのか、はこちらのセリフですわ」
「さっさと丸坊主とかにすればいいでしょう?」
「私を差し置いてプレアデス様の恋人になるなんて、丸坊主にするくらいでは私の気が済みませんわ。私の前でベタベタベタベタと・・・。オマケに首筋にキスマークまでつけて。あーーーー!!今思い出しても腹が立ちますわ」
ギッとミレーヌ嬢がこちらを睨みつけてきた。キスマーク?あっ!!あの時の・・・っ!うゔ。プレアデスのせいで恨みが倍増してるじゃないのー!
「そうね・・・。殺さなければいいんだものね・・・。その愛らしいお顔、ちょーっと傷付けさせて貰おうかしらね」
この人・・・狂ってる!一瞬でゾクッという恐怖の感覚が私を支配した。
ミレーヌ嬢はお高そうなバッグからナイフを取り出して私に近付いてきた。
そして、私の髪の毛を一掴みグイッと引っ張りザクッと切り落とした。
「フフッ。いいわねぇ、その恐怖に怯える顔」
ミレーヌ嬢は満足気に笑い、ナイフを私の頬にピタッと当てた。・・・もう、ダメだ。私はギュッと目を瞑った。
「ギャッ!」「うわぁぁぁぁ!」「なっ!お前はっ・・・!!」
部屋の外から男の人達の悲鳴が聞こえてきた。
「えっ!?何事!?」
ミレーヌ嬢の気がそちらに逸れたので、少しナイフが肌に食い込んだだけで済んだ。しかし、本当に部屋の外では何が起こってるのかしら・・・。
ガチャガチャッ!バンッ!!
乱暴に開けられたドア。そしてそこには・・・。
「よぉ。ミレーヌ嬢。俺の恋人がすげぇ世話になったなぁ?」
「ひっ!プレアデス様!?何故ここが・・・?」
ミレーヌ嬢の手からナイフが滑り、カシャーーンと音を立てて床に落ちた。
プレアデス・・・。うぉぉ、助けに来てくれた安心感よりもまず、その返り血を浴びた出で立ちにビビる私。そ、その血のついた木製のバットは?特攻服みたいな衣装は?そういえば、ダンスパーティーの時も怪盗風の衣装来ていたけど、もしかしてコスプレ好きなの!?よく似合っているけども!!
いや、ツッコミどころ満載だけど、そんな事考えてる場合じゃないわよね。
「ミレーヌ・レンシア。婦女暴行の現行犯逮捕だ。お前の親父がやっていた領地の税金の不正な増税による差額分の横領も判明して既に逮捕並びに爵位剥奪済だ」
「そ、そんな・・・!お父様が・・・っ!」
その場に崩れ落ちるミレーヌ嬢。つか、横領って!あ、あんなセンスのいいお屋敷に住んでいるのに!(2回目)
「フレッド!コイツを縛れ!」
「はっ!」
プレアデスの傍らに居たフレッドと呼ばれる騎士様が放心しているミレーヌ嬢を捕縛して部屋の外へと連れて出て行った。
「ジゼルッ!!遅くなって済まなかった!」
プレアデスがミレーヌ嬢が落としたナイフで私を縛っているロープを切ってくれた。ようやく身体が自由になったわ・・・。
「ジゼル!!ごめんな!髪と頬に傷がついちまった!」
ギュウッと私を力強く抱きしめたプレアデス。そんな・・・だって、良く見たらプレアデスだって酷い怪我をしているじゃない・・・。返り血だと思っていたが、プレアデスの頭からは未だにポタポタと血が滴っている。
「大変。プレアデス、怪我しているじゃない・・・。早く手当てをしないと」
「んなもん、何にも感じねぇよ!お前の方が何倍も何百倍も痛いだろ?」
「ふふ・・・大げさね。・・・プレアデス・・・あり・・・がと」
緊張が解けたせいか、私はそこで気を失ってしまった。
「ジゼル!?ジゼル!!おいっ!」
グゥゥゥゥゥウキュルルルル
「やべぇ・・・。こいつ腹減りすぎて気絶しやがった・・・プッ!アハハハハッ!可愛すぎるじゃねぇか!」
こんな女は二人と居ない。心底俺はこいつに惚れているんだなと再確認したプレアデスは、その愛しき女性をしっかりと抱きかかえ、そっと腕の中で眠るジゼルのおでこにキスを落として建物を後にした。こうしてオーランシュ家の令嬢拉致事件はミレーヌ嬢の逮捕により解決となったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆
気絶して目覚めるパターンが恒例にならないといいなと思いながらプレアデスのお父様のお城の一室にて用意していただいた料理を片っ端から平らげていく私。
「んな、慌てて食わなくても誰も取りゃしねぇよ」
窓際に寄りかかり、腕を組んで立っている頭に包帯を巻いたプレアデス。大人数を相手にほぼ一人で戦った際に、頭突きして切れたのではないかと聞いて、どんだけ喧嘩慣れしてんのよ、と思った。
私達の元を離れた後、プレアデスは傭兵達にミレーヌ嬢を監視させ、自分はミレーヌ嬢の父親の不正疑惑についての調査を進めていた。
調査の目処が立ち、ミレーヌ嬢の父親の身柄を拘束し爵位剥奪もろもろの処理を済ませた所にミレーヌ嬢の動きがあったので後をつけてきた・・・との事が顛末である。
一時はプラネタリアの貴族がシードゥスの公爵家の令嬢を狙った為、同盟国の信頼にヒビが入るのではないかと心配されたが、今回爵位を剥奪された元バッセーロ伯爵家の領地バッセーロをシードゥスに献上するという形でプラネタリアがけじめをつけた為、衝突も無く収まったとの事で一安心だ。
バッセーロはシードゥスと土地が繋がっているので、単純にわが国の面積が増えたという事である。
私の家を襲った賊と、私を拉致した輩達(逃げたと思いきやプレアデス達にボコられて捕縛されていた)は元バッセーロ伯爵とミレーヌ嬢の逮捕の知らせを受けて全面降伏し、今回の拉致事件はミレーヌ嬢の命令で動いていたと白状した。
「・・・なんで特攻服なの?」
私はようやくお腹も満たされたので、疑問に思っていた事をプレアデスに聞いてみた。
「いや、カチコミっつったら特攻服だろ基本」
・・・プレアデス、あなたやっぱり前世で元ヤンだったんじゃないの?と言いかけたが、それは怖くて聞けなかったので限りなく黒に近いグレーのままである。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました┏○))ペコッ
12/23脱字修正&少し文章の付け足しをしました!すみませんでした!




