第43話
アルド様と登下校し始めてから3日が経った。
ようやく、この間アルド様が仕留めた賊がミレーヌ嬢に頼まれてやったと白状したらしいので、この件はここから解決に向かっていくだろう。
ただ、この賊は先日アレク様に描いてもらったモンタージュの男とは違うとの事なので、学園内に潜入していた男の方はまだ未解決である。
既に逃亡してくれていればいいのだけど。賊とモンタージュの男の関係などこれから掘り下げていくらしいので、時間の問題かもしれないが、一番恐いのは『どうせ捕まるのなら爪痕を残さねば』と開き直ってこちらに危害を加えてくる可能性がある事だ。
この学園内にまだ居る?
その憶測は疑心暗鬼になるには充分な理由であった。
肩をポンと叩かれればビクッてなるし、トイレには必ずアンジュ+1(アルド様かスティード)に付き添って貰わないと怖いし、常に気を張りっぱなしで夜も上手く眠れなくなっていた。
「ジゼル、少しだけでも食べないと倒れてしまいますよ」
アンジュが心配そうに私にお弁当を勧めてくるが、とても食欲がわかなかった。
「ありがとうアンジュ。でもお腹が空かないのよ」
「そう、ですか・・・」
アンジュは私が断るとそれ以上は無理強いはしなかった。
「ジゼル嬢、せめて果物だけでも食べなよ。ホラ、あーん」
「んあー・・・むぐむぐ」
業を煮やしたスティードが私に無理矢理にでも果物を食べさせてくれるおかげでなんとか持っているのかもしれない。
申し訳ないとは思うのだが、今は食べ物に対してどうにも食指が動かないのだ。
あー・・・。こんなのアドアンのシナリオには無かったよね。追加シナリオでも配信されたのかしら。『予期せぬエラーが発生しました』とかっていきなり強制終了したりしないよね?ドキドキ。
「あの、落としましたよ」
廊下を歩いているとふいに後ろから声をかけられた。
振り向くと、髪の長い大人しそうな女子が私のハンカチを拾ってくれたのだった。
「あ、ありがとうございます」
ハンカチを受け取ろうとした瞬間、その女子にグイッと腕を引っ張られた。
「きゃっ!?」
物凄い速さで刃物を首につきつけられて身動きを封じられてしまった私。何コレ。デジャヴ?前世の死亡原因正にこれ。刃物に刺されてではなく、首を圧迫されて窒息死だったみたいだけど。
なんか変な輩に襲われやすい星の元に生まれる宿命なのかしら・・・って、そんな悠長な事を考えてる場合じゃないわね。
それにしてもこの女子、やけに力があるわね・・・。
「動くな。動いたら切る。このまま大人しくついてきてもらう」
わーぉ。野太い声・・・。あれ、まさか女装してたの?身動き取れないので確認には至っていないけど、もしかしたら女装したモンタージュの男なんじゃ・・・?
「ジゼル!あ・・・。ジ、ジゼルを離して下さい!」
あ、アンジュ!危険よ!普段気が弱いのにここぞという時はやたら勇ましいのは何故なの?
「黙れ!!どけっ!こいつさえ大人しく俺についてくれば何もしねぇよ」
「きゃっ!」
男がアンジュを突き飛ばした。
「アンジュに乱暴しないで!私あなたについていきますから」
「へっ。話が早い。お前ら、俺の周りに誰も近寄らせるんじゃねぇぞ!」
男がそう言うと、空き教室から屈強そうな男が5人出てきて私と男をガードする様に囲んだ。
「ジゼル!貴様ジゼルをどこに連れて行く気だ?」
「おーーーーっっと。近付いたらうっかり手をすべらせて切っちまうかもしれねぇなぁ」
「くっ・・・・・・」
アルド様もそれ以上は何も出来ない様で、押し黙った。
私はスティードが突き飛ばされて尻餅をついたアンジュを手を引いて立ち上がらせたのを見届けた後、男と一緒に学園の外へと向かったのだった。
「悪いな、お嬢ちゃん。俺たちはアンタにちっとも恨みなんて無いんだけど、頼まれた事はちゃーんとやり通さなくちゃいけないからなぁ」
馬車に乗り込むと男は私の両腕を後ろ手に縛り、目隠しをした。まさか殺される事は無いとは思うけど、何をされるかはわからないので恐怖で身体が竦む。
「アニキィ、コイツ引き渡したら俺らどうなっちまうんですかねぇ?」
「なぁに、貰うもん貰ったらさっさとずらかればいいんだよ」
「しかし、手こずらせてくれたなぁ。常に誰かと一緒に居やがるから予定が狂っちまったぜ。屋敷襲撃したロンのアニキが捕まっちまうし・・・」
「おいっ!ベラベラとうるせーんだよ!余計な事まで喋るんじゃねぇよ!」
「ひっ!す、すんません!」
ロンのアニキ・・・。そう。屋敷を襲った賊もコイツらと繋がりがあるのね。
それにしてもどこまで行くのかしら?馬車は一向に止まる気配がない。ミレーヌ嬢の所なら半日近くかかるんだけど。でも行き先を教えたくないから私に目隠ししたのよね。と言う事は、ミレーヌ嬢の所じゃないって事?
もう、どれ位経ったのだろうか。馬車は止まることなく走り続けている。こんな時に何だけど、トイレに行きたくなってきてしまった。もはや私の膀胱がいつまで持つか・・・。厳しい戦いになってしまった。でも、背に腹は替えられないわ。
「あ、あの。トイレに行きたいんですけど・・・」
「ダメだ、と言いたい所だが漏らされてはかなわないからな。よし、一旦馬車止めろ」
「あ、ありがとうございます。あの・・・、手を開放してもらわないと・・・その・・・」
「俺達が手伝ってやるよぉ。へへへ・・・」
「いやっ!そんな事されたら舌噛みちぎって死んでやるわ!」
冗談じゃない!いくら人質でもトイレ位は誰も見ていない所でがいい。ただでさえ、茂みで用をたさなくてはいけない恥ずかしい状況なのに!
「おー、こえぇ」
ギャハハハと下品な笑い声が馬車内に響いている。くっ、なんたる屈辱・・・!
「まー、もーちょっとで着くから少しだけ我慢してろ」
もうちょっと・・・ね。ゴクリ。が、我慢出来るかしら。
その時、外からフワッと潮の匂いがした。と言う事は海のある国、プラネタリアに入ったと考えてもいいのかもしれない。しかし、それが分かったところで誰にどうやって助けを乞えばいいのだろうか。この、スマホも電話も通信手段が手紙か早馬しかない世界で。
程なくして馬車が止まり、私は目隠しを外された。辺りは暗く、すっかり夜になっていた。周りを見回しても夜の闇に飲まれた風景は暗くて良くわからなかった。
馬車から降りた私達は、ゾロゾロとさびれた建物の中に入った。腕の紐も解かれ、私はダッシュでトイレに直行した。間に合って良かった・・・本当に良かった・・・。
「おい、勝手な真似はするんじゃねぇぞ!」
「わかってます!」
本当にデリカシーの無い人達!この人達絶対モテないわ。はぁ、本当にここはどこなのかしら。
「今お嬢に遣いをやりましたので、交渉は明日になりそうですね」
「わかった。そういう訳だ。お嬢さん。悪いけどこの柱に縛らせてもらうぜ」
「・・・・・・・・・」
「まぁ、そんなに睨むなよ。恨むなら不甲斐ない王子様を恨みなよ?」
柱に括り付けられた私はそういや、朝からなんも食ってねぇな・・・。とか拉致られた自覚が無いまま眠れぬ夜を過ごしたのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おい、お嬢さん。起きな。ったく、こんな状況で良く眠れるなぁ」
はっ!私・・・、しっかり寝てたじゃない!最近ずっと緊張で眠れていなかったからなぁ。攫われちゃったらもう自分じゃどうする事も出来ないものね。窓から差し込む光で既に夜が明けている事を認識させた。
しかし、自分のこの図太さが怖いわ。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました┏○))ペコッ
11/27誤字を修正しました!すみませんでした!




