第42話
翌日、朝から王様と王妃様にご挨拶をしに謁見の間まで来た私とアルド様。
「王様と王妃様に置かれましてはご機嫌麗しく存じます。この度は・・・」
「おぉ、ジゼル。久しいの。よいよい、そんな堅苦しくならなくても。昔みたいにおじ様、おば様で」
「いえ・・・。本当にご迷惑をおかけしてすみません」
アルド様のお父様は私のお父様の一番上のお兄さんである。つまり、お二人は私の伯父と伯母にあたるわけだが、相手が親戚という以前に国王と王妃なのだから、敬わなければならない。
こうして二人並んだ所を見ると、アルド様はどっちかというと、王様に似ていると思う。
「此度は災難だったな。怖い思いをしただろう」
「ジゼル、大変でしたね。両親が帰るまで心穏やかにしてゆっくりしていってね」
「はい、ありがとうございます。使用人達までも面倒見てくださってとても感謝しています」
「アイゼンの使用人達を路頭に迷わす訳には行かぬ。アイツの留守中はワシが面倒を見るのが筋ってものだろう」
アイゼンと言うのはファレイユ公爵=私のお父様の名前だ。
王様のアマデウス様は慈愛に満ちていて、国民から愛されており、支持層が厚い事も納得である。
王妃様のシャルロッテ様にしても、アンジュをそのまま大人にした様な可憐でお優しい方だ。小さい頃良くアルド様と一緒に遊んでもらったのを覚えている。
「父上、もういいでしょうか。ジゼルは昨夜の事で憔悴しているのですから今はゆっくり休ませたいのですが・・・」
「おぉ、それは配慮不足ですまなかった。しかし全くアルドは昔からジゼルの事になると他のものには目もくれなくなるからな」
「フフフ。本当ですわ。ジゼルに良き縁談が来たら無理やり破談にしそうで母は心配ですよ。あ、そうね。アルドがお嫁さんに貰ったらいいんだわ!」
「母上!!も、もういいですね!行くぞ、ジゼル」
「は、はぁ・・・。ではこれで失礼致します」
ペコリとお二人にお辞儀をしてアルド様に手を引かれて謁見の間を後にした。私が嫁うんぬんはさておき、ご両親を前にするとアルド様も普通の16歳の少年なんだなって思ったらこんな時に不謹慎だがクスリと笑みがこぼれてしまった。
「・・・なんだ?」
顔を真っ赤にしてムスッとしているアルド様。
「いえ、アルド様でもご両親には弱いんだなって。ふふ」
「・・・フッ。ジゼルが笑顔になるのなら、笑い者になるのも苦ではないな」
「あ、馬鹿にしている訳ではないですからね!」
「わかっている」
アルド様があんまり素敵なお顔で笑うから、思わずドキッとしてしまった。なんか最近イケメンに囲まれ過ぎてマヒしていたけど、やっぱり攻略対象者は全員格好いいものは格好いいし、ドキッとしたり、キュンとしたりする。
卒業まで心臓持つかしら・・・。
あっ!先程さておいた“私が嫁にうんぬん”って、王様も王妃様もアルド様が私を好きだと認識してるって事よね?これは・・・由々しき自体だわ。
アンジュを嫁候補として認めて頂かなくては・・・。むむむ、かなり骨が折れそうだわ・・・。
◆◇◆◇◆◇◆◇
屋敷襲撃事件から土日を挟んで月の日に登校すると、アンジュとスティードがこちらに向かって走ってきた。
「ジゼル嬢!無事だったんだね!はーーーーっ、良かったぁ。心配したよ」
「ジゼル、お義父様から聞きました!ジゼルのお屋敷の方々はお怪我してないですか?」
やっぱり、公爵家が襲撃された事は巷では格好の噂の的になっているらしい。
「ありがとう、二人とも。アルド様が来てくださったから私も使用人達も皆無事よ」
「まぁ、それは心強いですね。しかし、学園でも油断は出来ませんね」
「うん・・・。あ、カトレット嬢おはよう!ねぇ、ちょっとこないだの事で聞きたいのだけど、いいかしら」
「おはようございます、ジゼル様。勿論ですわ!このままでは私達も怖いですもの」
「ありがとう!あなたの協力が必要不可欠なの!」
という事で、放課後カトレット嬢を伴い、美術室に居るエリク様の元を訪ねた。
「ヴィーナスの頼みとあればお安い御用さ」
「宜しくお願いします」
「では、まず顔の輪郭と髪型から・・・」
エリク様は慣れた手つきで画用紙にエンピツでサラサラッとカトレット嬢が言う特徴の顔のパーツを描き始めた。
もうおわかりかと思うが、先日カトレット嬢に虚偽の連絡を伝えた男子生徒のモンタージュを作成するのだ!
「髪の色は茶色で、キノコみたいな髪型でしたわ」
「ふむふむ、こう・・・か?」
「ええ!そんな感じですわ!」
「眉毛は細めで真横に伸びていたかと・・・目は・・・鼻は・・・口は・・・」
「こんなかんじかな」
「ええと・・・、あっ、そんな感じでしたわ!身体つきは華奢な方で、背の高さはカミーユ様位だったかしら・・・ごめんなさい。その辺はうろ覚えで・・・」
「いいのよ、カトレット様。とても助かったわ。ご協力とても感謝しますわ」
「では、私はこれで失礼しますね。何かありましたらまた、声をかけてくださいませ」
カトレット嬢を見送って、出来上がった絵を見てみると線の細い感じの殿方だった。すれ違っても特に目立った特徴がある訳ではないので気付かないかもしれないわね。
「エリク様もありがとうございました。無理言ってすみません」
「ヴィーナスが困っているのだからね。無下には出来ないさ」
「でも、本当にエリク様は絵がお上手ですね。ここに飾ってあるのはほとんどエリク様の作品ですよね?」
「そうだよ。ただ、最近は描きたいものが描けていなくて。だ創作意欲が沸かないんだ。それで、ジゼルとアンジュに協力をと思ったのだけどね」
ヴィーナスとかミューズって呼び方は恥ずかしいなぁ。でもエリク様が言うと違和感が無い不思議。
「あっ、そうだ。今少しだけ時間あるかい?ラフ画でも描かせてくれたらありがたいんだけど」
「えぇ、構いませんわ。お礼になりますかね?」
「もちろんだとも。今のこの夕日に染まった君のイメージが僕の描きたい気持ちが蘇ってくるようだよ」
・・・いやそれさ、アンジュに言うセリフですよ。あぁ、またイベントが発生してしまった。
アンジュの栗色の髪の色が夕日に染まり、“夕陽に染まった君の髪の色は大地の色を思わせる”ってセリフ言うのだけど、私のピンクの髪ではそのセリフおかしくなるでしょうよ。どうすんの?
「夕陽に染まった君の髪の色は、ルビーの様に光り輝いて僕の中にある淡い恋心を思わせる・・・」
かぁーっ!そう来ましたか!オリジナルのセリフを若干変えて変化球投げてくるんですね!ケースバイケースは予想だにしなかったわ。
それきり黙ってしまったエリク様。私をじっと見つめては画用紙にシャッとエンピツを走らせていく。30分くらいたって、夕日が沈みきる頃、ようやくエリク様の手が止まった。
「うん。やっぱり君は凄いな。短時間だけどここまで集中出来るとは思っていなかったよ」
エリク様に見せてもらった私の絵は、ほんの30分で描いたとは思えない程リアルだった。というか、実物を遥かに凌駕していた。
「す、凄いです!これ、エンピツで描いたとは思えないです!!」
「そうかな?」
「はい、モデルは私なのにとても素敵です」
「僕の目にはこう映っているんだよ」
うわぁ!エリク様の目節穴ー!これはメガネを薦めるべきかしら。
「もう、夜になってしまったね。残念だけど君のナイトもずっと待っている様だから、今日の所は早く行った方がいい」
「え?あっ!アルド様!」
そうだ。お城暮らしだから、朝夕はアルド様と一緒に登下校なのだ。ずっと廊下で待っていてくださったのかしら?だとしたら長時間お待たせしてしまったわね。
「それでは、エリク様今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ、有意義な時間をありがとう。また、モデルになってくれるかい?」
「ええ、今度はアンジュと是非に!」
私がそう答えるとエリク様は穏やかな笑みを浮かべた。
エリク様に別れの挨拶を済ませた私は、廊下で待っているアルド様に謝って、馬車の中でエリク様の描いた絵を見せながらお城へと帰ったのであった。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました┏○))ペコッ
いつも感謝しています。
1月6日、アレ様→アレク様と修正しました!読みづらい間違いをしてしまっててすみませんでした!
4月16日、そもそもがアレク様ではなく、エリク様でした。すみませんでした!




