第41話
屋敷のガラスを割られ、恐怖におののく私達3人。
他の使用人達は無事かしら?両親もお兄様も居ない今、屋敷の主として確認しなくてはいけないのに、足が竦んで動けない。
どうしよう、怖い。ここでジッとしていても自分だって無事でいられるかどうかもわからない。
「ほ、他の使用人達が気になるから、見てこようかしら?」
「ジゼル様、それは危険です!」
「わ、私が見てきますからお嬢様はここで隠れていてください!」
「ちょっと待って、ユミル!誰か来る!」
誰かがこの部屋に向かって走って来る音が聞こえて来た。時間も時間なので、灯りがついている部屋は限られている。
やだ・・・やだやだ!どうしたらいいの?窓から逃げ出す?いや、相手からは窓際は良く見えるだろうから絶対にダメ。
私達は咄嗟に衣装部屋の方へと移動した。この衣装部屋は私の部屋からしか入れない為、少しは時間稼ぎになるだろう。
バンッ
勢い良く私の部屋のドアが開けられた音が聞こえて来た。と同時に心臓が跳ね上がった。ボニーとユミルも顔面蒼白で震えている。それでも果敢に私を守ろうと二人で私を抱き囲っている。
ここに居てはどちらにしろ、見つかるのも時間の問題だろう。相手の狙いは私。私一人で使用人達が助かるのなら・・・。
私は二人の腕をするりと抜けると、スッと立ち上がった。覚悟を決めたら、何てことはない。先程まで恐怖で動かなかった足がしっかりと床を踏みしめている。
「お、お嬢様!?」
「いけません!ジゼル様!」
「二人とも、ここに隠れていてちょうだい。私が様子を見てくるわ」
「だっ駄目です!」「おやめください!」
「この中で一番足取りがしっかりしているのは私だもの。全滅は避けたいし、私に何かあれば速やかに色んな方面への連絡を出来るのはあなた達しか居ないのよ。だからお願い。わかってちょうだい」
「「お嬢様・・・!!」」
よし。行こう。少しでも犠牲が最小限で済むように!
私は取り敢えず、壁に立てかけてあった高い所にあるものを取る棒、矢筈を手に取って自室へと繋がるドアを開けた。
まさかこちらから打って出るとは思っても居なかったのか、こちらに背を向けてクローゼットの中とかを確認していた人物はビクッと身体を震わせた。
しめた!後ろを向いている今がチャンスよ!私は矢筈を振り上げ、何者かに向かって振り降ろした。
しかし、矢筈をパシッと掴まれグイッと引っ張られてしまい、バランスを崩した私はそのまま前にベシャッと倒れてしまった。
マズイ!矢筈を奪われ、床に伏している私。逃げなくてはいけないのに最早戦意を喪失してしまった。先程まであんなに奮起したというのに、たった一度の失敗であっさりと意気消沈してしまうなんて情けない・・・。私はきゅっと唇を噛み締めた。
「ここに居たのか、ジゼル!」
声の主は私を抱き起こすと、ギュッと、私を抱き締めた。
「良かった。ジゼル!もう大丈夫だからな!」
「アル・・・ド様?」
「自警団の警備の強化をしたものの、心配になって来てみたらガラスが割れる音がしたから慌ててここに向かったのだが、無事で良かった・・・。お前の無事を確かめるまでは生きた心地がしなかった・・・」
抱き締められた時、一瞬、プレアデスかと思ったが、プレアデスは国に帰っているんだもの来るはずが無いわよね。私何故プレアデスだと思ったのかしら。
でも、こうしてアルド様が来てくれた事でどんなに心強いか。
「アルド様っ・・・!屋敷の皆を助けて・・・!」
「わかった。わかったから。とりあえずお前はこのまま城に連れて行く」
ホッとしたのも束の間、アルド様の後ろでナイフを構えた黒ずくめの男が今にもアルド様を襲おうとしているではないか。
「あ、アルド様っ!後ろ!!」
「チッ!誰に刃を向けているか!!」
私をトンッと押して賊から遠ざけてすぐ、矢筈で相手の攻撃をうまく避けて相手との距離を取るアルド様。
矢筈を巧みに使い、相手を翻弄して一気に間合いを詰めて相手を殴り倒した。つ・・・強い・・・!!拳一発で相手をダウンさせるなんて!・・・そして格好いいっ!!
やばい、やばい、やばい!あー、もうこれがイベントだったらスチル絶対入るのにー!!
いや、こんな事を考えている場合ではない!私は衣裳部屋に居るボニーとユミルを呼んだ。
「ボニー、ユミル!もう出てきても大丈夫よ!アルド様が来てくれたわ」
「ジゼル様!ご無事で何よりです!アルド殿下、お嬢様を助けて頂き、ありがとう存じます」」
「お嬢様ぁ~!良かったですぅぅぅ!」
「話は後だ!今すぐ城に向かうぞ!他の使用人にも声をかけろ。あぁ、だが気をつけろよ」
「は、はい!ボニーさん、行きましょう!」
「え、えぇ・・・。あっ・・・!」
ボニーが歩こうとした途端、ガクッとその場に崩れ落ちてしまった。どうやら腰が抜けたらしい。
「大丈夫か?おい、レオンはいるか!?」
「はっ!お呼びでしょうか?殿下!」
「この侍女腰が抜けて歩けないようでな。お前フォローしてやれ」
「はっ!」
「きゃっ!わ、わたっ、私っ!すすす、すみません!」
レオンさんがボニーをいともたやすくヒョイッと抱き上げた。
「走りますんでしっかりと捉まっていてください。喋ると舌を噛みますよ」
「は・・・い・・・」
レオンさんはアルド様率いる騎士団の隊長さんだ。褐色の肌に左頬の傷跡にガッチリとした体躯。明るい緑の髪の色をしたナイスガイである。さすが、アドアンである。要所要所で美形が出て来てツボを抑えにくる。ボニーは既に違う意味での腰砕け状態だ。うらやま・・・ゲフン。
ボニーはレオン様にお姫様抱っこをされ、ユミルと共に使用人達に声をかけに行った。
あぁ・・・。抱っこって、あぁ言うのが抱っこよね・・・。こないだのスノーフレーク見に行った時のアルド様の抱っこはいったい・・・。
「ジゼル、俺達も行くぞ!」
「はいっ!」
遅れて私達もダウンした輩を騎士団の人に任せて私の部屋を出ようとした・・・けど。
「あーーーー!!アルド様ちょっと待っていてください!」
「ど、どうした!?」
「アレだけは、アレだけは死守しなければ!」
私は部屋に引き返し、鍵付きの引き出しを開けて例の手帳を取り出した。これこそが私がサポートキャラたる所以。私は手帳をギュッと胸に抱き、アルド様と一緒に屋敷を出たのだった。
私とボニー、ユミル。そして使用人達20名。暫くお城で生活をする事となった。使用人達は当面、お城の使用人達と一緒に働く事になった。皆それぞれ職場がグレードアップしてしまって大変そうで申し訳ない。
でも、皆これを機会にお城での技術とか、やり方を学び、スキルアップするんだと言ってくれているのがありがたい。
そして、私は別の事を懸念していた。今回私の屋敷を襲った輩がミレーヌ嬢の命令で動いたと分かれば、隣国との衝突が避けられないかもしれない事、屋敷襲撃の報告を受けた両親とお兄様が視察を切り上げて帰ってくる事、そして何よりプレアデスの事・・・。物凄く大事になっているので、何か責任を問われるかもしれない。そしたら学園には戻ってこないのではないか。いや、プレアデスはこちらに、戻ってくる体で自国に戻っていったのだから、きっと戻ってくるわよね!
「ジゼル様、顔色が良くないです。少しでもお休みください」
「えぇ・・・」
案内された客室のベッドに横になる私。お城に居れば安全である。しかし、安心すれば色んな事を考える余裕が出来る。これからどうなってしまうのだろう。その事ばかりが頭の中をぐるぐると浮かんでいた。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました┏○))ペコッ




