第40話
お昼ご飯を済ませた昼休み後半。私達は教室で今朝の事を話していた。教室の机にイタズラをされていた件は笑い飛ばして終わったが、紛れもなく私を狙う者がすぐ近くまで来ている事は確実だった。
「しかし、相手は相当プレアデスの事が好きなんだな。プレアデス、もうその女と結婚してやれ」
足を組んで椅子に座っているアルド様が心底面倒くさそうに言い放った。
「ば、馬鹿言え!そんな危ねぇ女が王子の嫁とか悪夢以外の何ものでもないだろが!!それに・・・俺には心に決めた女が居るんだ!」
プレアデスが私の方をジッと見ながらアルド様の言葉に反論した。心に決めたうんぬんはさておき、確かにそんな女性が王族になったら国民だってたまったもんじゃないわよね。
「ジゼル、怖い思いをしているのですね。私とても心配です・・・。出来る事なら代わってあげたいです!」
「アンジュ、いいのよ。アンジュがこんな目に合うくらいなら、相手の嫌がらせなんていくらでも受けて立つわよ」
「ジゼル・・・」
アンジュは本当に心から天使だわ。だって、こんなにも怖がっていて震えているのに、代わりたいと言ってくれるんだもの。私はアンジュの手をギュッと握った。
「ぁっ・・・っ!」
へっ?アンジュが小さな声を上げてビクッと身体を震わせた。いきなり手を握ってしまったのがまずかったかしら。ほのかにアンジュの頬がピンク色に染まっている・・・まさか!これはセクハラだったかしら?うわー!それはマズイわ!!
「ご、ごめんね?驚かせてしまったわね」
「いえっ・・・!」
慌てて手を離そうとしたら、アンジュがキュッと握り返してくれたので、そのまま握ったままでいた。どうやらセーフだったらしい。いくらアンジュが可愛いからって、同性とはいえ、みだりに婦女子に触れるのは良くないわよね!
「ジゼル様、教員室でエジスン先生がお呼びですわ」
「・・・?何かしら。あぁ!机の件かも!ちょっと行ってくるわね!」
級友のカトレット嬢が、私に伝言を伝えてくれた。
エジスン先生は私達のクラスの担任の先生である。今朝方ナイフで穴の空いた机を、空き教室から拝借した机と勝手に交換したのだけど、それがバレたのかしら。やっぱり一言言っておいた方が良かったわよね。うわー、まさか弁償とか?それともイジメとかを疑っていたり?だとしたら、学園の生徒は関係ない事をちゃんと説明しなくてはいけないわね。
教員室に向かう途中にふいに後ろから肩をポンと叩かれた。だ、・・・誰!?
「やぁ、ジゼルちゃん。どこ行くの?」
「あ・・・。カミーユ様。今から教員室に向かう所です」
「あ、そうなの?俺もこれから教員室に行くとこだから、一緒に行こっ♪」
「はい、是非」
あー!ビックリしたぁ!最近敏感になり過ぎかもしれないわね。
教員室は1階の端の学園長室の隣にあり、数名の生徒が授業内容の質問に来ていたり、担任から呼び出されていたりで生徒の姿もちらほら見られた。
「ジゼルさんの事・・・?呼んでないですよ?」
教員室に着き、担任の所まで行ったのだが、私は呼ばれていないらしい。えー?どういう事?訳がわからず、教室を出ると、カミーユ様が廊下に立っていた。
「もう用事終わった?」
「ええ・・・終わったというか・・・」
私は教室まで帰る間にカミーユ様に事情を話した。
「ええっ!?そんな事があったの?じゃぁ、さっきのは・・・」
カミーユ様は、目を見開いて驚いた後にすぐ何かを考えている顔になった。
「さっきの、とは?」
「あのね、さっき君に声をかけた時なんだけど。前を歩いている君に声をかけようとしたら、空き教室から君に向かって腕が伸びていたからさ。慌てて声をかけたらさっと引っ込んだんだよね。顔までは見えなかったけど、あれは男の手だったと思う」
「まさか・・・、学園内部に侵入しているの?」
あわわ、こうしちゃいられないわ!教室に戻って皆に伝えねば!
教室に戻り、カトレット嬢にどういう事かを聞いたところ、名前も知らない男子生徒に私に担任が呼んでると伝えてくれと言われたらしい。
ガタッ
「ちょ、プレアデス!?」
カミーユ様と私が先程の事を説明すると、プレアデスが土下座をしたのだ!
「皆、巻き込んでしまって済まない!」
「いやいや、いいから顔上げて?」
「俺は暫く国に戻る。だからっ!・・・その間ジゼルを頼む!」
プレアデス・・・。
「もちろんだ。ジゼルは私が守る。貴様はこの始末きっちりつけるまで帰ってくるなよ」
「わ、私も出来る限りジゼルから離れませんっ!」
「ジゼル嬢、俺は弱っちいけど、ジゼル嬢の為ならこの身を差し出す覚悟だよ!」
「ジゼルちゃん、俺、部活の仲間にも声かけておくから安心してよ」
アルド様、アンジュ、スティード、カミーユ様!
「貴様なんか居なくてもジゼルは俺達がちゃんと守るから安心して行ってこい」
「・・・アルド・・・。抜けがけすんじゃねぇぞ!(ボソッ)ありがとな」
「プレアデス・・・」
「ジゼル、ちょっとミレーヌの家ごとシメてくるから待っててくれよ!」
「うん。無茶しないで気をつけてね・・・」
プレアデスは私をそっと抱き締めた後、教室を出ていった。
「あのぉ〜、もうとっくに昼休み終わって、授業始まってるんですけど〜・・・(泣)」
いけない、また授業を中断してしまったわ。先生の泣きが入った所で私達は速やかに解散し、カミーユ様は慌てて教室を走って出て行った。二年生の教室は階も違うし、授業の半分も聞ければ良い方だ。私に付き合ってもらったばかりに、悪い事をしてしまったわね。
当面、アルド様にアンジュと私の送り迎えをしてもらう事になった。
帰りの馬車の中で、アルド様がより安全の為に城へ来ないかという提案をしてくれたが、屋敷の使用人達が気になるので辞退した。
「では、自警団に暫くジゼルの屋敷の周りを警備させよう」
「ありがとうございます」
「そういや、プレアデスのやつ床に突っ伏してたけどあれは謝罪の意味なのか?」
「あ、あれはですね、土下座と言いまして最上級の謝罪のポーズですよ」
「そうなのか?プラネタリアではああするのか。ジゼルは物知りだな」
プレアデスー、土下座、意味なかったよー。ここでは通用しないよー。土下座なんて、私とプレアデスしか知らないと思うけど。少しばかり間違った認識を与えてしまったみたいだけど、仕方ないわよね。
屋敷に戻り、ボニーとユミルにも経緯を話し屋敷の戸締まりと警護の強化をする様に伝えた。
さて、私は守られてばかりじゃ居られないわ。唐辛子と胡椒を制服のポケットに仕込んで・・・、後万が一拉致られた場合を想定してホイッスルを持って・・・。刃物・・・は危ないわね。使いこなせる自信がないわ。
しかし、ここまで来たら私丸坊主だけじゃ済まないんじゃないかな〜。
「ジゼル様、紅茶を入れてきました」
ボニーとユミルが紅茶セットを持って私の部屋を訪ねてきてくれました。
二人の心遣いがありがたい。学園ではずっと張り詰めていたので、ようやくホッとした時を過ごす事が出来た。
二人とお茶を楽しんでいると、闇を切り裂く様に、突然屋敷のガラスが割れる音が聞こえて来た。
「きゃぁぁぁぁっ!ジゼル様!窓際から離れてくださいませ!」
「お嬢様、こちらへ!!」
学園にだって侵入出来る位の相手だ。我が家が両親とお兄様が居なくて手薄だと言う事も調査済みなのだろう。
ガシャーン パリーン
次から次へと割られるガラス。外を確認する術も無く、私達はお互いを抱きしめる様にして震えていた。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました┏○))ペコッ




