第36話
2曲目のアップテンポのワルツの時に目だけ穴が空いていおり、鼻から上半分だけ金の装飾が施された白い仮面を付け、黒いシルクハットと怪盗仕様の黒い燕尾服を着た(礼服の燕尾服に非ず。コスプレっぽいもの)プレアデスに強引にホールの中央まで引っ張ってこられて仕方無く踊りだした私。
「ちょっと!アンタ何を考えているのよ!?」
くるくる回りながら、プレアデスを問い質した。
「言ったろ?俺はお前じゃねぇと駄目だって」
クイッと回転する私を受け止め、腰をグッと寄せて私ごとターンを決めるプレアデス。仮面の唯一開いている目の部分の穴から見える漆黒の瞳がじっ、と私を見つめた。
「だ、だからって、こんな!スティードに恥をかかせて!!」
ホールの片隅に残された彼は今頃、皆から好奇の目を向けられているに違いない。
「3曲目はスティードに返すから大丈夫だろ?ダンスパーティーを盛り上げる為の演出だと思えばいい。つぅか、お前ちゃんと俺に付いてこれるか?」
プレアデスが挑発的に今度は私の身体を片手だけ繋いだまま、トンと離す。
「貴方こそ、ちゃんと私をリード出来るかしら?」
クルッと回って再びプレアデスとホールを組んだ。クッ、冗談じゃないわ。受けて立つわよ!私は昨日から続いている“完璧なダンスをするぞー!”というスポ根ものみたいなテンションが続いており、思考回路が正常ではなかったので、プレアデスの挑発にのり、周りが気にならなくなるくらい夢中になって踊った。
「ジゼル様と踊ってらっしゃるのはどなたかしら?」
「あれ、スティードじゃないのか」
「仮面で顔を隠してらっしゃるけど、素敵ねぇ」
「身長差は気になるけど、息がピッタリあっているな」
曲が終わり、互いにお辞儀をしてプレアデスのエスコートでスティードの元へ。
「スティード、悪かったな!さ、ジゼルをお返しするぜ。じゃなっ!」
「やっぱり、プレアデス殿下でしたか」
プレアデスはスティードの前で仮面を外し、謝罪を述べてマントを翻しながらホールから出ていった。
「ごめんなさい。スティード。私も急に連れて行かれてどうしたらいいかと・・・」
「ジゼル嬢。プレアデス殿下とのダンスはとても息が合っていて・・・良くお似合いだったよ」
「スティー・・・」
「ラストダンスは、プレアデス殿下よりも上手く踊ってみせるよ」
「えぇ!私も頑張るわ」
スティードが珍しく闘争本能を剥き出しにしている。いや、そういえばそうだった。彼は貴族ばかりの学園に通う数少ない庶民なので、努力家であり負けず嫌いなのだ。愛する主人公と共に歩む為に、相応しい男になる為に努力を惜しまない。主人公はそんな彼にますます惹かれていく・・・筈なんだけど。
チラッとアンジュの方を見ると、ホールを去るプレアデスを睨んでいるアルド様と、こちらを見てニッコリ微笑んでいるアンジュの様子が見えた。
「さぁ、ジゼル嬢。ラストダンス、俺についてきてください」
スティードはそう言うと、私の手の甲にチュッとキスをした。
「スッ!スティード!?」
彼は普段こういう事をするタイプでは無いのに。あ!きっとスティードも私みたいにテンションがおかしくなっているのね!
曲はまた、しっとりとしたスローなワルツに戻りラストダンスが始まった。スティードは最初のダンスの時も上手かったけど、リードに少し遠慮があった。今はそんな事は無く、しっかりと私をリードしてくれている。
「ジゼル嬢、今だけは俺だけを見て・・・」
うぉぉっ!!そ、その熱い眼差しは私に向けるものではありません!恐れ多いわ!ドキドキ。
「凄い・・・最初の時よりも艶っぽいですわ」
「見ているこちらがドキドキしますわねぇ」
「一度は怪盗に姫を奪われたけど、取り戻した時の海賊のもう離さないぞ!っていう愛の演出が心憎いですわね・・・」
ダンスが終わり、沢山の拍手の音がホールに響いた。
「ありがとう、ジゼル嬢・・・。なんだか夢みたいだ」
「こちらこそ、ありがとうスティード。とても楽しかったわね」
「お疲れ様、ジゼル。とても素晴らしいダンスでした」
アンジュがアルド様と一緒に歩いてきた。天使・・・。見てるだけで癒やされるわ。
「アルド様もアンジュもお疲れ様でした」
「あぁ。しかし、プレアデスは破天荒過ぎるな。アイツはずる・・・いや。何でもない」
「えぇ、全く。でも皆、そういう演出だと思って盛り上がったみたいなので良かったです。あ、私、お花摘みに行ってくるわね。おほほ」
私はホールの外に出て、裏庭に向かった。待ち合わせなどしていない。けれど、心のどこかで期待をしていたのかもしれない。
いつものベンチで仮面をはずして座っているプレアデス。私に気付いてこちらを見て、ニッと微笑んだ。私は軽く誰か茂みに潜んでいないかを確認してからプレアデスの隣に座った。
「華麗なる怪盗は、海賊からジゼルの心を盗めたかな?」
「・・・クサイ」
「あ?」
「クサイのよ!あなた、前世でもそんな事言ってたの?」
「言う訳ないだろ。せっかくこの外見に産まれたんだ、活用して損はないだろ」
「うん。確かに人生イージーモードよね」
「だろ?なのに本命の女は落ちない不思議」
「・・・・・・・・・・・・」
「こうして、手を伸ばせば届く位置に居るのにな」
そう言ってプレアデスは私の髪の毛をワシャワシャっと撫でた。
「ちょっと!ボサボサになるでしょーが!」
「ハハハ。はー、このまま持って帰りてぇー」
「私はペットじゃない!さー、私長いトイレだと思われてるかもしれないから戻るわね」
「んー、明後日も会えるしな。うん。またな」
「・・・その格好、似合ってるわよ」
「なんだって!?」
「なんでもない!じゃぁね!!」
おい!何を口走ってるんだ私は!そして、何でここに来たのか。胸のドキドキが止まらない。
「ハハ・・・。アイツ、珍しく俺を褒めた、よな?クソ、滅茶苦茶嬉しい・・・」
裏庭に一人残された少年は、高揚感で赤くなった顔を両手で覆って、天を仰いだ。
「あ、ジゼル遅かったですね。具合でも悪くなったのかと心配してました」
「ごめんなさい。混んでたの」
「まぁ、そうだったんですね」
私は裏庭から小走りでホールに戻ってきた。顔、赤くなってないよね?
「スティード、送っていくわ。帰りましょう」
「あ、うん。ありがとう」
「それじゃ、アンジュ、アルド様、お先に失礼しますね」
「はい、ゆっくり休んでくださいね」
「あぁ、気を付けて帰るんだぞ」
「じゃぁ、アルド様、アンジュ様、俺もお先に失礼します」
アンジュとアルド様と別れ、私とスティードは迎えに来ていた家の馬車でスティードの家まで帰った。
「ご家族にご挨拶してから帰るわ」
「そんなに気にしなくても大丈夫だよ」
スティードと一緒に馬車を、降りようとした時ダンスで酷使し過ぎたのか足がガクンッとなって前に倒れそうになった。
「危ない!ジゼル嬢!!」
ポスンッ
「わぷッ!!」
馬車から転げ落ちそうになった私を、スティードが受け止めてくれたので、ドレスを汚さずに済んだ。
「わ、ご、ごめんなさい!スティード」
「・・・・・・・・・」
「ス、スティード?」
私はスティードに抱き締められたままだ。スティードの名前を呼んでも返事がない。
「スティード、どうしたの?」
「ジゼル嬢・・・俺・・・」
「お兄ちゃーん?帰ってきたのー!?」
「「わっ!!」」
ミシェルちゃん登場で私達は、慌てて離れた。スティード、ミシェルちゃんが来なかったら何を言ったの?
私は多少の疑問を残しながらも色んなパンを頂いて帰路についた。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました┏○))ペコッ




