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第32話

 私は出来る子。私は出来る子。私は出来る子。私は出来る子。

 よっしゃ!マインド・コントロール終了〜!


「ヨッス、ジゼル。お前ちゃんと勉強したか?」

「ブツブツブツブツ・・・」

「お、ぉお?やる気MAXだな!」

「ブツブツブツブツ・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「ちょっと!!顔が近いわよ!」

「あ、バレた?目の前で手を振っても気付かねぇからキスのチャンスだと」

「もー!!頭から色んなものがこぼれちゃうじゃない!話しかけないでよね」

「へいへい。じゃぁ、テスト終わったら俺に付き合ってもらうからな!」

「はいはい、わかったわかった」


 私は必死で詰め込んだ公式や地名などを忘れない様にする事に夢中で、プレアデスの話を話半分に聞いていた。いや、半分も聞いていなかった。


 テストは3日間みっちり行われ、内容は、ほぼカミーユ様が教えてくれた去年の問題だったので、なかなか出来た方かな、って気がします。


「あー!終わったぁぁ!なんとか赤点だけは免れそうよ」

「ふふっ。ジゼル凄い集中してましたもんね」

「おーい、ジゼル!テスト終わったなー!」


 プレアデスがずんずんとこちらに向かってきました。


「ええ、長い・・・戦いだった・・・」

「じゃぁ、これからちょっといいか?」

「え?なぁに?」

「お前なぁ。聞いてなかったとか言わせねぇぞ?日の日、俺のパートナーとしてお茶会に出席してほしいって言ったろ?」

「えっ!何それ!初耳よ!」

「いや、俺は確かに伝えたぞ!お前はい、はいって言ってたじゃねぇか。なぁ、アンジュ」

「えぇ。確かにお返事してました」

「えぇ〜?お茶会?アンジュがパートナーの方が絶対に失敗は無いわよ?」

「私は日の日は礼拝がありますから。それに、プレアデス様(王子様)のご指名なのですから、正当な理由も無くお断りするのは公爵家の令嬢としてどうかと思います」

「うっ。正論過ぎてぐうの音も出ないわ!」


 すっかり忘れてたけどプレアデスは王子様だったわね。いや、本当に忘れてたけど。

 だって、こんな口が悪い王子様なんて居る訳がないでしょう。


「フッ。しょうがねぇな。奥の手を出すか」

「な、何よ。奥の手って」


 椅子に座っている私の手を取り、プレアデスが片膝をついて跪いた。そして、ジッと私の目を見つめながら


「ジゼル。頼む。俺のパートナーになってくれないか?お前しか・・・居ないんだ」


 ふぉーーーーー!!!ズルいズルいズルい!そんなイケボで言われたらゾクゾクゥッてなるじゃない。


「わ、わかったわよ!わかったから、それやめて〜!」

「ありがとう。麗しの姫君・・・チュッ」

「ぎゃぁぁぁぁ!!ぁあ、アンタ、何してんのよー!?」

「ぎゃぁぁってお前・・・。失礼じゃねぇか」


 人前で手の甲にキスしたっ!!心臓に悪い心臓に悪い!!そして、プレアデスはタチが悪い。恐らく、自分のその声が私の弱点だと見抜いている節がある。


「もう!今後は乙女ゲー厶風に言ったって騙されないんだからっ」

「乙女ゲーム・・・?」


 アンジュが不思議そうに私の言葉を繰り返した。


「あっ、アンジュ!いやね、乙女達の間で流行ってるゲームよ!殿方に甘い言葉を囁かれてその誘惑に打ち勝てるかどうかの駆け引きを楽しむ・・・そんな・・・そんな・・・えぇと、そんなゲームよ!!(ドヤ)」

「よ、よくわかりませんが、上級者向けの遊戯(ゆうぎ)なんですね」

「そ、そーなのよ!!って、プレアデス!笑うなぁ!!」


 プレアデスは肩を震わせて笑いを堪えている。


「ククッ!だってお前!そんな説明で、なんでっ、その顔!ハハハハハ!!」

「もう知らないっ!!ふーんだ!」

「ふーんだって!ハハハハハ!」


 プレアデスは何がそんなにツボにハマったのかわからないけど、楽しそうに笑っていた。なんて、失礼なのだろうか!!

 そうだわ!イメージトレーニングよ!プレアデスの中の人はアブラギッシュで不潔でなんか匂いそうな人・・・。イケメンのキャラの中に入ったから調子に乗ってるだけ・・・。うん。これだ!!


「プレアデスの中の人はブサメン・・・アブラギッシュ・・・」

「はぁー!?おっまえ、何面と向かって人の悪口言ってんだよ!この口か!この口か!!」

「うぐぐぐぐ・・・しゅいましぇん・・・」

「せめてフツメンて言え!」


 思った事をすぐ、うっかり口に出してしまうこの口の軽さはどうにかならないものか。プレアデスに親指と人差し指で両頬ををつままれ、おちょぼ口みたいにされた。


「クスクスクスクスッ。お二人とも仲が良いんですね」


 アンジュがコロコロと笑った。あぁ、アンジュ・・・。今日も天使・・・。


「まぁな!俺たちはデスティニーで結ばれてるからな!」

「じゃぁ、俺もシックザールで結ばれているな」


 なんか、アルド様も混じって来たよ。そんなに何人もの人と運命があってたまるか!


「ア、アンジュの運命の人は誰なのかしらね」

「私は・・・神様が恋人ですから」

「んもう!アンジュってば。奥ゆかしいわ」


 私は、少しアンジュの頬がピンク色に染まっているのを見逃さなかった。もしかして、心に誰か思い浮かべていたのかしら!!

 ちょっと待って。


「アンジュとプレアデスの手の大きさの違いを見たいわ」

「なんだ、いきなり」

「いーからいーから、参考までに!」


 私は無理やりプレアデスとアンジュの手の平を合わさせた。じーーーーー。頬を染めているが、恋をしているのではなさそうだ。


「じゃぁ、次アンジュとアルド様」

「じ、ジゼル・・・。これは一体何の意味があるのでしょう・・・?」


 じーーーーー。うーん、やっぱり頬を染めているがプレアデスと同じ反応だわ。あ、殿方とだけ比べるのもわざとらしいわよね!私はアンジュの手を取って自分の手の平を重ねた。


「じゃぁ、次は私と・・・っ」

「きゃっ!」


 あれ?アンジュの顔が真っ赤になってしまった。こ、これだーーーー!!!恋する反応!キターーーー!!いきなりだったから反応が遅れたのかしら。どっち?どっちに対しての反応?きゃって言わなかった?

 とりあえず、アンジュはプレアデスとアルド様、どちらかに恋をしているのね!明後日のダンスパーティーでアルド様と踊っている時にこの反応が出たら、アルド様。出なかったら・・・プレアデスね!


「ジゼルの手の方がアンジュよりも少し小さいな!俺と比べなくてもいいのか?」

「あっ、もう大丈夫です!参考になりました。アルド様」

「そうか・・・」


 不必要な身体的接触は避けるべし!早めにバグった攻略対象者の目を覚まさせるべし!!よし、これからの私の学園ライフのスローガンだわ!!


「じゃー、ジゼル。家でお茶でも飲みながらお茶会の打ち合わせしようぜ!」

「はぁー。面倒くさいわね」

「ふぅー。面倒くさいよな」


 私とプレアデスは溜め息をつきながら学園を後にしたのだった。


 プレアデスの屋敷にて。わー。相変わらず素晴らしいお屋敷だなぁ。お茶菓子美味しかったわよね。今日は何が出るのかしら。・・・あっ!!!プレアデスの屋敷じゃなくてどっかのお店で良かったんじゃない!?なんで何も考えずに、のこのことついてきてしまったのだろう。プレアデスの部屋で二人きりになってしまう事に、今更気付いてももう遅い。何事も無く帰れる事を願おう。


「これはこれはジゼル様、ようこそお越しくださいました。ただ今お茶のご用意を致しますので少々お待ちください」

「こんにちは、フォルターさん。どうぞ、お構いなく」


 フォルターさんはプレアデスに仕える執事さんだ。白髪に白い立派な髭、丸いメガネをかけた見るからに執事っぽい外見のおじいさんだ。物腰が優雅で、ちょっとイアンさんも見習ったらいいのにと思ってしまった。


 案内されたのはやはり、プレアデスの部屋だった。別に話をするだけなら違う部屋でもいいんじゃないかしら。だって、この部屋に入ったら・・・、その、キスの事とか思い出しちゃうし・・・。

 プレアデスを見たら、ケロッとした顔をしていた。まるでこの間の事なんて気にしていないのかもしれない。やだ、私ばっかり気にして自意識過剰すぎたわね。


 不必要な身体的接触は避けるべし!早めにバグった攻略対象者の目を覚まさせるべし!!


 私は再び心の中でスローガンを復唱した。

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました。

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