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第31話

 わぁぁ。店中の淑女達がカミーユ様を囲んでいてカオスな状況になっている。


「大変そう・・・ですね」

「あぁ。これは当分収まりがつきそうにないな」


 一人一人の話を聞いていたら日が暮れそう。


「出よう。俺が勉強を教えるからアイツは置いていこう」

「えっ、でも、いいんでしょうか?」


 ルシアン様がドアを、開けて私の背中をソッと押して店外へとエスコートをしてくれた。

 うーん、クレープを食べそこねたのは残念だけど、アレじゃあ仕方がないか。後ろを振り返るとカミーユ様と目が合った。あ。こっち見た。


「先 に 行 っ て ま す ね」


 と図書館の方を指差しながら口パクで伝え、私はルシアン様と店を出た。

 

「あっ!ちょっと待って!!ジゼル!!」


 店の中からカミーユ様の大声が聞こえた。嘘、珍しい。カミーユ様があんな大きな声出すなんて。

 様子が気になって立ち止まっていると、クレープ屋さんのドアが開き、カミーユ様が私の手を引いて再びクレープ屋さんの店内へと連れ戻した。えぇぇ?WHY?


 店内に入るとカミーユ様は私の肩を抱き、


「ごめんね。俺、今この娘に夢中だからもう皆とは遊べないんだ」


 と、言った。うわぁぁぁぁぁ!?淑女達の目がギラって光り、私を睨んでいる。


「嘘ですわよね?カミーユ様・・・」

「あの方はジゼル様では無くて?ほら、公爵家の・・・」

「親の権力を振りかざして学園の素敵な殿方達を日替わりではべらしてるとか聞きましたわ」

「まぁ!いくら身分が高くても・・・はしたないですわ」


 くっ。好き放題言ってくれるわね。殿方へのアプローチはアンジュの為と思って動いてるから何を言われても平気なはずだったけど、私だってヘコむ時はヘコむのよ。


「あれ?皆ジゼルの魅力、わからないの?ジゼルの周りに男が群がるのはそれだけジゼルが魅力的だからだよ。男だってバカじゃない。堂々と人の悪口を言うような女性は選ばないよね」


 えっ?え?そんな事言ったらカミーユ様の評判が・・・。


「酷いですわっ・・・!」

「まぁぁ!」

「カミーユ様がそんな人だったなんて」


 ほら・・・。カミーユ様、どうして?


「行こう、ジゼル」

「えっ、いいのですか?」

「俺はジゼルと一緒の時間を過ごしたいのだからね」


 はぅっ!いい笑顔!!チラッと後ろを振り向くと、先程までカミーユ様の文句を言っていた淑女達もポヤーッと見とれている。あ、これは評判下がる心配はなさそうね。

 一応去り際の挨拶として、彼女達にお辞儀をしてから店を出た。


「ごめんね、ルシアン。待たせちゃったね」

「いや。俺は本気で先に行こうと思っていた」

「あはは。正直だな。いや、本当に。店のチョイスをミスったよ。あ!ジゼルちゃんもごめんね!呼び捨てしちゃって」

「いえ、気付きませんでした」

「本当?あははっ!やっぱりジゼルちゃんは他の女の子とは全然違う」


 ムムッ!それは・・・私が淑女らしくないという意味ですか?


「あ、あそこのベンチに座って、もうちょっとだけ待ってて」

「はい。私は構いませんが」

「彼女の勉強時間を減らさない様にしろよ」

「わかってるって」


 そう言ってカミーユ様は商店街の方へ向かった。どうしたのかしらね。ルシアン様と二人きりになった所で話題が・・・。話題、話題・・・。


「穀物について調べているのか?」

「えっ?」

「図書室で調べごとをしていただろう?俺が取って渡した本も穀物の本だった」

「あぁ!私どうしても食べてみたい穀物があって。KOMEというんですけど」

「KOME・・・。聞いた事が無いな」

「ですよねぇ。東国の方にあるかもしれないという所までは調べたのですが、そこから先はまだ・・・」

「図書館に資料があるかもしれないな。時間があったら探してみよう」

「えっ!あ、ありがとうございます!」


 あぁ、良かった。ちゃんと話せたわ。やっぱりこの人とは穏やかな時間が過ごせる。彼が時折見せる、優しい眼差しがキュンッと乙女心を刺激する。ルシアン様は人見知りなだけね。しかし、向かいのショーウィンドウに映った私達のこの、並んで座っている姿が何とも。私は誰と並んでもそうなのだけど、兄と妹にしか見えないというー。


「おっ待たせ〜!!」


 数分後、カミーユ様が戻ってきた。手に紙袋を持っています。


「クレープがダメになっちゃったからね、お詫び」


 カミーユ様はそう言うと、紙袋からシュークリームを取り出して私とルシアン様に配った。


「ありがとうございます」

「どうぞどうぞ。ここのシュークリームも絶品だから、食べてみて」

「有りがたく頂く」

「いただきまーす」


 私はシュークリームを思い切り頬張った。サクッとした食感のシュー生地に、トロッと濃厚なカスタードクリームがたっぷり入っており、一口かじった所からクリームが溢れそうである。 


「ふわぁぁぁ!美味しいぃ!」

「これは!濃厚なのに、スッキリとした甘さで美味いな」

「でしょでしょ?お口に合ったようで何より」


 なるほど。自分に不手際があったらすぐにフォローするのが禍根を残さない秘訣なのね。さすがコミュニケーション能力に長けているカミーユ様。抜かりない。それに、一緒に居て楽しそうよね。女の子が喜びそうな色んな所に連れて行ってくれそう。

 うーん。逆にこういう女性慣れしている人がアンジュに向いているのか悩むわね。


「ごちそうさまでした!幸せ〜!」

「あはは。じゃぁ、図書館で勉強しよっか」

「ふわー、幸せからの転落ー」

「プッ・・・」

「あれ?ルシアンが笑った」

「わ、笑ってなどいない」

「いや、笑ってたって!ねぇ、ジゼルちゃん」

「えぇ、バッチリ見ました!」


 ルシアン様は顔を真っ赤にして拗ねてしまった。この二人も正反対だけど、相性は悪くはなさそうだわ。

 

 私達はもう一つの目的、テスト勉強の為、図書館へと向かったのだった。

 図書館は、そこそこ人が出入りしており、ちょうど空いた席に私とカミーユ様、向かいにルシアン様が座った。


「さて、どこがわからないのかな?」

「えぇと・・・。教科書を見ても良くわからないのですが・・・」

「おっとぉ!これは、根気良く教えなくてはだ」

「面目ないです・・・」

「じゃぁ、カミーユ。ジゼルさんを頼んだぞ。俺は探しものをしてくる」


 そう言って席を立ったルシアン様。もしかしてKOMEの文献でも探しに行ってくれたのかな。さぁ、私はお勉強お勉強。


「去年出た箇所はここから、ここまでの範囲でここは多分出るよ」

「あ、ではここの問題は・・・」

「あぁ、それはややこしく感じると思うけど、この数字をここに当てはめると・・・」

「あ、もしかして。こう、ですか?」

「そうそう!正解!なんだ、ジゼルちゃんは、やれば出来る子だね」


 私がやれば出来る子かどうかはわからないが、私が授業に置いてかれているのは、まず・・・妄想やら考え事で授業を聞いていなかったからだ。

 カミーユ様にテストに出そうな所をピックアップしてもらい、そこを重点的に繰り返し勉強を続けた。


「はぁ〜、カミーユ様に教わって良かったです。私自分一人で勉強していたら、いつの間にか寝てましたもん」

「俺で、良かった?せっかくルシアンが居るんだからルシアンの方が良かったんじゃない?アイツ学年トップだし」

「いえ、とても分かりやすかったですよ」

「じゃぁ、また俺を頼ってよ。いつでもジゼルちゃんの力になるから」


 カミーユ様。膝が・・・ピッタリくっついていて恥ずかしいです。


ドササササッ


「わぁっ!」


 上の方から私とルシアン様の間に本が数冊落ちてきました。あれ、これは。


「ジゼルさん。KOMEに関する文献はとりあえずこれだけあったから、借りて帰るといい」

「わぁ、探してくれたんですね!ありがとうございます」

「え、なになに?KOMEって何の事?」

「えとですね、東国の方にKOMEという作物が・・・」


 やっぱり、期待を裏切らないルシアン様だった。本当に探してきてくれた。そして、私はカミーユ様にもKOMEという魅惑的な穀物を食してみたい件をそれはそれは熱弁したのであった。


 日も暮れかけの頃、私は二人に別れとお礼を告げて馬車乗り場で馬車に乗り、屋敷へと帰った。明日からテストが始まるが、ルシアン様にバッチリ教わったから多分いけるんじゃないかな?なんて気楽に考えていた。

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました┏○))ペコッ

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