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第29話

 本日は土の日。アンジュとアルド様とお出かけする日である。


 今日は目立たない様に、アルド様とお揃いにならない様に!をコンセプトにした、大きな白色の襟に紺色の紐のリボンをあしらった灰色のワンピースと、白いタイツに焦げ茶色のロングブーツ。頭はワンピースと同色のベレー帽を被った。よし、地味系でまとめたわ。


「ジゼル様、アルド様とアンジュ様がお見えになりました」

「はーい、今行くわ」


 アンジュと一緒だとちゃんとボニーを通すのね!いつも堂々と勝手に入ってくるけど、アンジュの前では紳士で居たいのだろう。


「おはようございます。アルド様、アンジュ」

「あぁ、おはよう」

「おはようございます、ジゼル。今日はお弁当作ってきたからお昼に食べましょう」

「まぁ!それは楽しみね」


 アンジュのこの女子力の高さ。何故皆この魅力に気付かないの!?人生の半分いや、3分の2は損してると思うわ。

 アンジュは真っ白なフリルのロングワンピースで、まるでこれから見に行くスノーフレークの花の様だな、と思った。

 アルド様は黒に近いグレーのシャツに、折り返しの襟は豪華な装飾が施され、肩にはエポーレット(肩章)にモールがぶら下がっており、胸元に勲章のついた軍服のジャケットを羽織っている。そして、白いズボンという正に乙女ゲームの王子様という装いだ。凛々しい!尊い!麗しい!三拍子揃いましたぁ!!

 アンジュと並ぶととても眩しくて直視が出来ない。うぉぉ!最強過ぎる組み合わせだわ!!だって、誰がどう見ても王子様カップルと侍女(私)ですもの!こりゃぁ、ダンスパーティーも楽しみだわ!うふふ。

 やはり、私はこうしてアンジュと並んだ麗しい殿方を愛でる事が至福の時だと再認識したのであった。

 


 馬車に揺られ、街とは反対の方向へ向かった。馬車ではもちろん、アルド様とアンジュに並んで座ってもらい、私はその対面に座った。

 

「テストが終わったらダンスパーティーですわね。アルド様とアンジュの衣装がとても楽しみですわ」

「俺もジゼルの衣装楽しみにしてるぞ」

「はっ!そうよね!私も参加するんだった。まだ何も用意していなかったわ!」

「ふふ、ジゼルはスティード様とダンスを踊るのですよね?」

「えぇ。スティードが誘ってくださったから・・・」

「プレアデス様はどなたと踊られるのでしょうか」


 ん?アンジュってば、プレアデスの事が気になるの?学園でプレアデスと席が隣のアンジュ。二人よりも後ろの席の私は授業中に常に前の席の二人が目に入るが、こちらもとてもお似合いだと思った。やっぱり、王子様の隣はお姫様よね。


「転入したばかりだから、ダンスパーティーの事すら知らないかもしれないわよ?」

「いえ、クラス内外の女性からダンスの申し込みをされていましたよ」

「へ、へぇ・・・。さすが王子様ね」


 先週の金の日で、申し込み受付が過ぎてはいるが、カップル変更や新規登録などは直接生徒会室に行けば受け付けてもらえる。

 そりゃぁ、プレアデスは王子様だし見た目もいいし、声だって堪らないし・・・。モテるわよね。アンジュがプレアデス狙いならば全力でプレアデスに近寄る女子どもを蹴散らしてサポートするつもりだけど・・・。


『俺はお前の事が好きだ』


『好きでもないやつと一緒に寝たりしねぇし、キスだってしねぇよ』


『3年後の卒業式の日にお前にもう一度告白してやる!』


 プレアデスに言われた言葉が一つ一つ今でも心の中に残っている。あ、やだ、ダメだよ!深く考えたら、ダメ。この感情に深入りしてはいけない。私はそう、自分に言い聞かせた。


「ジゼル。どうした?具合が悪いのか?」


 押し黙ってしまった私を心配したアルド様が、心配そうに私を見ている。もう!私ったら雰囲気を壊しちゃダメじゃないの!


「いえ、お腹が空いてしまったなぁーって。あははっ!」

「ふふふ、ジゼルってば食いしん坊なんだから」


 スノーフレークが咲き乱れる公園にやってきた私達。目の前にちょこんと咲いた小さな真っ白な花と緑の茎のコントラストが、今日のアンジュの装いとマッチしていて本当にそこに天使が居る様な錯覚をおこしそうである。


「アルド様!アルド様!!アンジュってば凄く美しいと思いません?フフッ」

「あ、あぁ。一面に広がる茎の緑の中に一際美しく咲く、清らかで可憐な花だな。本当の花の方が引き立て役の様だ」

「二人とも、は、恥ずかしいです!」

「だって、綺麗なものは綺麗だもの」


 アルド様もまんざらではなさそうね。王子様ともなれば、あんな詩人の様な褒め言葉も照れる事無くサラッと出て来るんだなぁ。気を利かせてしばしの間、二人きりにしなくては。


「あ、私お腹が冷えてしまいました。少し、失礼しますわ。あ、先に二人で見て回っててくださいませ」

「大変、付き添います!」

「あぁ、嫌だわ、アンジュ。長引いてしまったら恥ずかしいじゃない」

「・・・わ、わかりました。では、アルド様。この近辺で花を見てましょうか」

「あぁ。ジゼル、無理しないようにな」


 よーしよしよしよし。二人ともこのままいい雰囲気で居てよ〜!そして私はトイレに向かった。殿方の前で下痢を連想させる発言は、はしたないわよね。でも、まぁこれでアルド様の私に対しての好感度が少し下がったんじゃないかしら。私に告白してきたアルド様は気が触れただけ。正気を取り戻してもらわなくちゃ。アナタのヒロインはアンジュですよ、と。


 トイレの個室で10分位過ごした後、二人の所に戻ると何やら寄り添って話をしている。あれ、これいい雰囲気なんじゃね?私もうちょっと時間潰して来た方がいいのかもしれないわね。ふふふ。後は若い二人に任せて・・・ってやつ?お見合いをセッティングした仲人さんの心境ってこんな感じ?

 って余裕ぶっていたら、少し大きなカエルがゲコッっと私に向かって飛び跳ねてきたではないか。


「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」


 気持ち悪い!気持ち悪い!!私カエルは苦手で・・・。なのにこんな大きいやつ!!驚きすぎて腰が抜けてしまった。


「ジゼル!どうした!?・・・あぁ、カエルか。フッ。お前は昔からカエルが苦手だったな」

「よいしょ。ジゼルが怖がるからあっちに行ってね」


 あ、あ、アンジュ!よくそんなの触れるわね・・・というか、持てるわね。アンジュは私の近くに居るカエルをむんずと捕まえると、少し離れた場所に置いて来た。


「ジゼル、立てるか?」


 アルド様の問いかけに答える様に立って見せようとしたが、足がガクガクと震えて思う様に立ち上がれない。


「アンジュ・・・ごめんなさい。手を貸してくれる?」

「あ・・・。私カエル触ってしまったので、アルド様お願いします。私は手を洗ってきますね」


 ちょっと待って!置いていかないで!!カエル触った手でもいいからぁぁぁ!・・・あ。やっぱり嫌。


「ジゼル。季節柄この場所はカエルが多いようだ。だから」


 アルド様はひょいっと私を抱っこしました。


「これでいいだろ」


 いや、良くない良くない!!なんだこれ。さすがにお姫様だっこをされるとかは思っていなかったけど、この抱き方は、無い!!アルド様の片手だけで抱っこされている。アルド様の左腕に座る感じで非常に不安定である。こどもなら、まだ分かるが・・・。


「ちゃんと捕まってないと落ちるからな!」

「ひぃぃ!怖いです!!」

「はははっ!こどもみたいだな!」

「笑い事じゃありません!!」


 アルド様の首にしがみつく様に捕まらないと危険極まりないが、なんかお姫様抱っこされるよりも密着している気がする・・・。


「も、もう大丈夫!大丈夫ですから!!」

「いや、今降ろしたらカエル踏んじゃうかもしれないぞ?だから、ここを離れるまでこうしていような」

「ひぃぃぃ!カエルも嫌だけど、この状況も嫌ぁぁぁ!!」


 手を洗って戻ってきたアンジュに向かってアルド様が親指を立ててグッドジョブサインをした事に、カエルやら高さやらの恐怖で必死にアルド様にしがみ付いている私が気付く事は無かった。 

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました(^^)

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