第28話
窓から差し込む朝日が眩しくて、自分が机に向かったまま眠ってしまっていた事に気付いた。
ノートを見ると、いくらも書き込んでいなかった。うわぁ、教科書を開くとどうしても眠気が襲ってきて、睡魔に負けてしまう。
ダメだ。やはり私は人目が無いとまともに勉強出来ないとかダメダメじゃない。
しかし、私は一人で頑張ると決めた以上はやり遂げなければならない。
その日私は学園で日中真面目に授業を受け、放課後の図書室に来ていた。アンジュは残念ながら用事があるとの事で先に帰り、私一人で黙々と自習を始めていた。
ルシアン様はいつもの定位置に居り、平常運転のご様子。いつもの様に挨拶を交わしてルシアン様に背を向けて座った。
テスト前ということもあって、他にも図書室を利用している生徒が数人居る。
ん?ここの公式どうやって解けばいいのかしら。参考図書を探しに本棚に向かった。参考書コーナーに【猿でもわかる方程式】なる本があった。ゴクリ、猿以下だけは御免被りたいわね。しかし、悔しいけどその本が一番今の自分のレベルに合っていると思われる。
そして。欲しい本に限って届かない場所にあるというセオリー通りの展開だが、私は焦ること無く踏み台を持って挑んだ。
指先が本に触れ、グッと力を入れると、本はスルッと取れた。ほらね!!私だって落ち着いて行動すれば、ちゃんとやれるんだから。
さて、降りる・・・、わっ!!!
ズリッと足を踏み外してしまい、手をバタバタさせてバランスを取ろうとしたが、その努力虚しく、後ろに倒れてしまった。なんてドン臭いのだろう。
「うっ・・・!!」
男の人の声と、後ろから抱き締められる様なグニッとした感覚があり、人を巻き添えにしてしまった事に気付いた。
「わわ、す、すみません!!下敷きにしてしまいました。今すぐどきますからっ」
そう言って立ち上がると、パリンッという音と共に自分が何かを踏んで壊してしまった感触が足に残った。
慌てて足元を確認すると、無残に割れたメガネが・・・。きゃぁぁぁぁぁ!!大変!!
恐る恐る私が下敷きにしてしまった方を見るとルシアン様(メガネ無しVer.)が尻もちをついていた。
「にゃぁぁぁぁ!?ルシアン様っ!だ、大丈夫ですか!?あっ、メガネは大丈夫じゃないですねっ!」
「メガネ・・・」
ルシアン様は床に手を伸ばし、カサカサとメガネを探しています。うぅ、ルシアン様の視力はメガネが無いと危険レベルじゃない!
なんて事をしてしまったのかしら。しかし、何故ルシアン様が後ろに居たのか。
「ルシアン様、ごめんなさい!ルシアン様のメガネ私が踏んで壊してしまいましたぁ!」
「っ!?・・・そ、そうか・・・。別に構わない」
ルシアン様はゆっくりと立ち上がり、私に手を差し出した。私はその手に壊れたメガネを乗せた。
フレームはひしゃげ、レンズは割れていてとてもかけられる状態では無かった。
「・・・・・・君は、どこか痛いとこはないか?」
ルシアン様は壊れたメガネを、上着のポケットにしまい私の顔を除きこんだ。
「だ、大丈夫です。おかげさまでどこも打っていないです」
「そうか、なら良かった」
ルシアン様。顔が凄く近いです。そうか。この距離じゃないと顔が認識出来ないんだ。しかし、この距離でのルシアン様の笑顔は最強過ぎる。切れ長の瞳・・・綺麗。メガネで隠してしまうのは少し勿体無い気がした。
「じゃぁ」
そう言って立ち去ろうとしたルシアン様を私は慌てて引き止めた。
「いや!あの、メガネ弁償しますし、今日は私がルシアン様の目になります!」
「え・・・?い、いや。家に帰ればスペアがあるから弁償とか気にしなくていい」
くるりと私に背を向けて歩き出すが、物凄く動きが鈍く、手を前にして障害物が無いか確かめながら歩いているのでノロノロスローペースだった。ぼんやりとしか見えていないから普通に歩くのは怖いわよね。
私はルシアン様の腕を取り、肩を組む様に私の首の後ろに回した。
「なっ・・・!?にを!?」
「送っていきます。私のせいですから」
「いや、大丈夫だ!」
「全然大丈夫じゃありません!!とりあえず、ここに座っていてください。荷物まとめてきますから」
本棚から一番近い席にルシアン様を座らせて、ルシアン様の荷物とワタシの荷物を纏めに行った。
私のアホー!私が行動する度に誰かしらに迷惑がかかっている。なんだろ、私呪われてんの?
「お待たせしました。さぁ、行きましょうか」
「あぁ。すまない・・・。その。肩を組むのは流石に恥ずかしいから手を引っ張ってもらえないだろうか?」
ボンッ!!
そ、そうですよね!今気付いたー!今気付いたーぁー!小さな女子に肩を組まれたら恥ずかしいし歩きづらいよね!ルシアン様との身長差も考えてなかったわ!私も恥ずかしさでいっぱいになってしまった。
私はルシアン様の荷物と私の荷物を持ち、ルシアン様と手を繋いで歩いた。
不思議。あんなにトラウマになっていたのに、本当はトラウマでは無かった事に気付いたせいか手を繋ぐ事に違和感や恐怖心などは無かった。相手が“彼氏”というカテゴリーではないからかな。
いやいや、だからといって色んな殿方と手を繋ぎまくっては、ビッチ街道まっしぐらではないか。自重せねば。
今回は自分の責任だから仕方がないとして・・・。
「おっ!あそこに歩いているのは。おーい!!ジゼルちゃー・・・ん!?」
向こうからカミーユ様が歩いていきます。今帰りでしょうか。
「ちょーーっとっ!ちょっと!!?何で君たち手ぇ繋いじゃってんの!?」
「あ、これは。図書室で私が踏み台から足を踏み外してしまって。ルシアン様が支えてくださったんですけど、その際に私がルシアン様のメガネを踏んで壊してしまったので・・・」
「ふーん。ね、俺も一緒に帰っていい?部活はテスト前だから自主トレだけで終わったんだ」
「あ、はい。私は構いませんが。先にルシアン様の家から行きますけど」
「やった!・・・てか。ルシアン、そんなに睨まないでよ」
「・・・見えづらいんだ!」
「あっ、すいません・・・」
「あ、いや・・・、責めている訳では無い・・・から」
「・・・・・・(へぇ。あの人嫌いのルシアンが大人しくジゼルちゃんと手を・・・ねぇ。)」
私達3人は私の迎えの馬車に乗り、ルシアン様、カミーユ様の順に送っていく事になった。物凄く珍しい組み合わせです。学年が違うので、本来ならば余りお近づきになる事も無い方々だ。しかし、サポートキャラという宿命を背負っているのでリサーチする為にはある程度顔見知りになっておく必要があったのだ。まぁ・・・そのサポートも上手くいっていないのが現状なのだが。
「あ、ルシアン様。明後日の、日の日は何かご予定はありますか?」
「いや、特にはないが」
「あ、じゃぁ、一緒にメガネを見に行きましょう!」
「えっ!?い、いい!気にするなと・・・」
「いいえ!!弁償しないままで居ると、これから図書室に行ってルシアン様を見かける度に気になってしまいますわ」
「あぁ、それは大変だ。ルシアン、弁償してもらうべきだよ。それとも君、そうやってずっとジゼルちゃんの気を引いていたいのかな?」
「なっ・・・!?そんな・・・事っ!!」
何を言っているの!?カミーユ様!?そんな訳ないじゃない!
「じゃぁ、いいじゃん。弁償してもらってチャラにしてあげなよ。あ、日の日は俺も部活無いから暇なんだけど。一緒に行ってもいいかな?」
「カミーユ様はテスト勉強はしないのですか?」
「普通に授業を受けてれば少し復習するだけで平気だよ。あ、なんなら用事が終わったら、ジゼルちゃんの勉強見てあげるよ。去年出たとことか教えてあげられるし」
「う・・・それはとても魅力的な・・・うぅ・・・でも・・・」
「ね、決まり!街の図書館で勉強しよ?」
「・・・はい。それじゃぁ、宜しくお願いします」
一人で勉強すると決めたのだが、テストはもう来週に迫っているのだ。背に腹は替えられない。去年と同じ所が出るかはわからないけど、少なくとも対策は出来るんじゃないかな・・・。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました┏○))ペコッ




