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第27話

 あれから、私はとても勉強なんてする気にはなれず、図書室には寄らずに家に帰った。

 家に帰ると、既にお兄様達は視察に戻っていった後だった。


「お帰りなさい、ジゼル様」

「お帰りなさい、お嬢様」

「ただいま、ボニー、ユミル。ちょっといいかしら」

「なんでしょう?」

「相談したい事があるのだけど・・・」

「わかりました!紅茶をご用意してお嬢様のお部屋に伺いますね!」

「ありがとう」


 自室に入り、部屋着に着替えた私はいつもボニーやユミルと女子会をするテーブルの席に着いた。


 暫くしてコンコン、とドアをノックする音がして、ボニーとユミルが私の部屋にやってきた。


「お嬢様、失礼します」

「失礼致します。ジゼル様、料理長からの差し入れです」

「わぁ!料理長はお菓子も得意なのよね。さ、座って」


 ボニーから、料理長の差し入れのマカロンを受け取り、テーブルの上に置いた。


「早速なのだけど、今日相談したい事はズバリ、告白を断っても諦めない男子の心境について!です」

「まぁ、お嬢様、どなたかから告白を?」

「・・・えぇ、まぁ。短期間の内に4人ほど・・・」

「4人!?凄くないですか?さすがお嬢様!」

「いや、ちょっと聞いて!多分何かの間違いなのよ」

「何かの間違い、ですか?ジゼル様に告白をしておいて何かの間違いだった、では済まされませんよ?」

「そうですよ!!殿方失格です!」


 ボニーもユミルもそんな事はありえない、あってはいけないと、口を揃えて言った。


「いや、むしろ私の方は何かの間違いであってほしいのよ」

「何故ですか?お家柄が釣り合わないとかでしょうか?」


 ボニーは慣れた手つきで紅茶を淹れながら疑問を口にした。ホワっと立ちのぼる湯気と一緒に紅茶の良い香りが漂う。


「家柄なんて問題ではないのよ。アンジュを差し置いて、私に告白って言うのが引っかかるのよ」

「何故です?」


 ボニーが淹れた紅茶にミルクを入れ、シナモンスティックで掻き回しながらユミルが不思議そうに問うた。


「本来ならば、その方々はアンジュと恋に落ちる運命の方々なのよ。それが何らかのズレが生じて私に告白してしまったんだわ。だから、私はお断りをしたのだけど、一向に諦めてくれない殿方ばかりで・・・」

「運命、ですか?お嬢様とどなたかが恋に落ちるというのは・・・」

「ありえないのよ!だから困っているの。どうすればアンジュの方に気が向くのか・・・」


 ユミルの言葉を遮る様に私は主張した。しかし、そんな事はありえないのに、実際に告白までされてしまったのだ。

 更にありえないのが、この学園生活が始まって1か月ちょっとで攻略対象者が攻略された(告白に至る)状態になっている事だ。何度も繰り返し考えてきた事だが、アドアンは学園生活3年間で、攻略対象者とのイベントをこなして徐々に主人公を好きになってもらい、最終的に主人公の卒業式にお目当ての殿方に告白をしてもらうのが目的のゲームである。プレアデスに至っては最速告白だ。まぁ、彼は前世が私と同じ日本人という共通項があるから親密になりやすかったのかもしれない。それに、彼には命を救ってもらった恩がある。

 私が前世でアルド様を落とすのにどれだけ苦労した事か!!なのに・・・。なのに・・・!


「アンジュ様は殿方とよりも、ジゼル様と一緒に居るほうが幸せ、という方ですからね」

「そうですよ。アンジュ様に殿方との恋愛は無理です」

「いやいやいやいや、そもそも、そういうゲームだから!」

「え・・・?ゲーム?ですか?」

「あ、いや。そうじゃなくて、ええと・・・」


 んー!歯がゆい!どう説明したらいいのかしら。


「アンジュだって年頃なんだから、周りに魅力的な殿方が居れば、恋の1つや2つするでしょお?」

「いえ、アンジュ様はそんなに節操が無い方ではないですよね。ジゼル様一筋ですからね」

「そうですよ。無理に学園で探す事無いですしね。(はた)から見ても今はお嬢様しか見えてない感じですしね」


 ふふ。わかってないわね、ボニーもユミルも。私みたいな節操の無いプレイヤーの手にかかれば、清らかでウブなアンジュ(主人公)もたちまち二股、三股のビッチに変身よ!!うっ・・・なんか自分で言ってて嫌になったわ。

 けれど、この世界のアンジュは、【恋愛】の2文字がどっか行ってしまっているのよね。


「と、とりあえずアンジュは置いといて、殿方に諦めさせるにはどうしたらいいかが本題なのよ!」


 話がだいぶ逸れてしまったけどね。実際のアドアンで攻略対象者の好感度を下げる方法は、成績を落とすか殿方とのデートで、その殿方の好みでは無い服を着たり殿方の問いかけに対し間違った選択肢を選ぶ位だけど。後はこちらからは一切会いに行かず、お誘いを断り続ける事かな。

 選択肢と言っても、実際の会話で選択肢なんて出てこないので、殿方が嫌そうな事を自分で考えて言うしかなさそう。


「一度ジゼル様がお断りしている以上、それ以上は相手方のお気持ち次第では無いでしょうか?人に諦めろと言われてすぐに諦めきれるならば、その程度の気持ちだったという事ですしね」

「私も、お嬢様が一度お断りした時点で“お嬢様を諦めさせる事”に失敗したのならば、もうお嬢様がこれ以上どうこう言う権利は無い様に思いますよ。お嬢様がどなたかとお付き合いを決めた、というなら話は別ですけど。お嬢様がどなたともお付き合いしていないのなら、まだ自分にもチャンスがあると思って当然です」

「うっ・・・・・・」


 二人の正論でノックアウト寸前の私。すっかり言葉を失った。その通りだ。人の気持ちを私がどうこう出来る訳が無い。ある程度のコントロールは出来るかもしれないが、私を諦めるかどうかは彼ら自身が決める事だった。

 自分が如何に思い上がっており、自分勝手な人間かが浮き彫りになった。


「私・・・。出家した方がいいのかも!!」

「は?ジゼル様。またとんでもない事仰って・・・」

「お嬢様、出家したらBLのお話も出来なくなっちゃいますよー」

「あぁっ!そうよね!お兄様が視察に戻ったからもう、BL話解禁なのよね!」


 色々な事が立て続けに起こったから、すっかり忘れていたわ!

 私はマカロンを1つつまんで口に入れた。シャクッという食感とアーモンドの風味がたまらない。マカロンで甘くなった口の中を砂糖無しの紅茶で中和し、ほうっと一息ついた。そして、今がとても充実した時間なのだという事に気付いた。ここの所ずっと、気を張っていたかもしれないわね。ガチガチに凝り固まった頭じゃいいアイディアも出ないわ。肩の力を抜いて、少し状況に流されてみようか?

 あ、でも折れるフラグは叩き折らさせて頂きますが!!


「あ、お嬢様。ミシェルがBLに興味があるらしいですよ」


 ミシェルはボニーやユミルと同じこの屋敷で働いているメイドの一人だ。 


「まぁ!順調に同志が増えているわね!今度ミシェルも加えて女子会しなくては!この調子で布教を続けてちょうだい」

「了解です!!」

「そうだわ!新しいカップリングとしてお兄様とイアンさんとかどうかしら?」


 滞在中は散々な目に合わされたからね。ネタ元として活躍して頂くわ。ふふふ。


「ど、どっちがどっちでしょうか?」


 普段クールなボニーもこの話の時は、口数が普段より多くなる。


「ボニーの好みなら、お兄様(年下)×イアンさん(年上)・・・じゃないかしら?」

「キャァッ!なんて罪深い組み合わせでしょう・・・!!」

「お嬢様ー、私にもネタを提供してくださいよー」

「なかなか素敵なおじ様と関わる機会が無いのよねー。料理長のジョセフと庭師のヴィクトルとか?」

「・・・・・・料理長と庭師・・・。アリ、ですね」


 と、盛り上がってきた所で、夕飯の時間になってしまいBL談義は次回へ持ち越しとなった。

 

 今夜は図書室で出来なかった勉強をする事にしよう。 

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました(^^)

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