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第26話

 放課後になり、私は手紙の指定場所の裏庭にやってきた。

エルミール嬢はまだ来ていない模様。うー、早くしてほしいんだけど。私はプレアデスと初めて出会ったベンチに腰をかけた。

 ったく。エルミール嬢も何故わざわざアンジュではなく、私を呼び出したのかしらね。口では全く負ける気がしないのだけど。何か勝算があるから呼んだのだろうけど、何か知られてはマズイ秘密とかあったかしら・・・?


「逃げずに一人で来たようね、ジゼル」


 薔薇の広場の入り口から優雅に歩いてくるエルミール嬢。やっぱり。こんなくだらない事してくるのはエルミール嬢位なもんよね。アドアンにおける悪役令嬢エルミールは、ここ、シードゥスから少し離れた孤島にある、小さな国の王女様だ。王女様とはいっても、大国シードゥスの公爵家の我が家より資産も少ないとの調査済。人として、そういう見下す様な事は言ってはいけないとは思うけど、今までアンジュにされた嫌がらせの数々から、オブラートに包んであげる気すら湧かない。

 

「今度は一体何の御用でしょうか?お姫様」


 どうせまた、殿方にちょっかいかけるなだの、取り巻きになれだの、くっっだらない事だとは思うけど。


「ふふん、いつまで余裕ぶってられるかしら?」

「いやー、私も暇では無いのでさっさと要件を仰ってくれませんかね?」

「ニホン・・・。あなたとプレアデス様の共通の秘密ではありませんか?」


 あ、あー・・・。もしかしてプレアデスがアルド様に殴られた時の、ここでの私達の会話を聞いてたのかな?そんで、弱味を握った気になってる、と。


「何の事でしょう?」

「とぼけても無駄ですわよ。貴女が泣く程の事ですから、人にバレたら困るのではなくて?」


 あれは、バレたら困るから泣いたのではなくて、私以外にも転生者が、理解者が居た事による安堵からの涙だったんだけども。ふぅ、やっぱり時間の無駄だったわ。さっさと終わりにしよう。


「エルミール姫様、何か聞き間違いをしたのではないですか?」

「なっ!私は確かにこの耳で聞きましたわ!」

「盗み聞き、ですか?何て言ってバラすおつもりなのでしょうか?」


 多分、ニホンという単語を出せば私が狼狽(うろた)えると思っての脅しだったのでしょう。おそらく、この先はノープランな筈。


「あ、貴女がプレアデス様と裏庭でコソコソとしていたと」

「証拠は?」

「えっ?」

「証拠。証拠が無ければ根も葉もない噂でしかないと思いますけど?」

「なっ!!」

「貴女が今までアンジュにしてきた事・・・。私の方はその証拠ありますけど。貴女があくまでも私を脅すと言うのなら私にも考えがありますよ?」

「ひっ・・・・・・!」

「私が穏便でいる内にどうか、改心なさいます様お願い致しますわ」

「くっ、わ、わかったわよ!!」


 エルミール嬢は踵を返して走り去った。秘技!ハッタリ返し!!堂々としていれば、どうにかなるもんよ。

 あー、疲れた。何事かと思ったわ。日本の事を誰かにバラしたとして、それを信じる人が居ると思う?訳のわからない事を言っているエルミール嬢の方が頭のおかしい人だと思われてしまう所だったわよ。感謝してほしいところだわ。


「へぇ、ジゼルちゃんは可愛らしい外見とは裏腹に結構トゲがあるんだね!」


 ガサガサーッと茂みから出てきたのはカミーユ様だった。裏庭は人が居ないようでいて、誰が潜んでいるかわからないわね。これからは用心しなきゃ。


「カミーユ様。ラクロスの練習ですか?」

「うん。これから行くとこ。昼寝してたらジゼル嬢の声が聞こえたからさー。聞くつもりは無かったんだけど、出るに出られず」


 これが私じゃなくてアンジュだったら、カミーユ様は、アンジュを庇う。そして、お礼を言うアンジュにデートの約束を取り付けてさらなる恋愛イベのフラグが立つのだけど・・・。ごめんなさいね、私で。


「そうですか。すみませんでした。では、私はこれで」


 さっさと図書室へ行って勉強せねば!アンジュが不在の時に、攻略対象者とは関わらない関わらない。

 

「ちょっと待ってよ」


 カミーユ様はそう言うと、私の手を引っ張った。何事か!?私がカミーユ様に向き合うと、私の両手を掴んだ。


「ジゼルちゃん、ジゼルちゃんがこないだ練習を見てくれた時、ウチの部員がめちゃくちゃ張り切ってたんだよね。だから、今度の試合見に来てくれないかな?」

「すみません、私忙しいのでアンジュを誘ってあげてください」

「はは、参ったな。アンジュ様を誘ったら同じ事言われたんだけど」


 うぉっ!いつの間にアンジュと交流を?つか、アンジュがダメだから私とか、ないわー。ちょっと待ってよ!アンジュが私を誘えって言ったの!?


「ていうか、アンジュ様を誘ったら君も来ると思ったんだけど」

「はい?」

「俺が君狙いだ・・・って言ったら信じる?」


 ザァッと風が吹き、バラの花びらが舞った。クッ。この演出はアンジュとカミーユ様のスチルが出る時のやつ・・・。なんで、私の時に発生しちゃうのよ!


「し・・・信じません!」


 攻略対象者とのイベントがアンジュ限定じゃないなら、バグって私でも発生するというなら1つ1つフラグを叩き折るまでよ!!


「即答だね!・・・最初は俺の事色々積極的に聞いてくるから、俺のファンなのかと思っていたらその後はパッタリ来なくなってそうじゃなかったのかと。少し、気になる存在だった」


 え・・・。この流れは・・・。ううん、いくらなんでも自意識過剰過ぎるわね。

 しかし、私の両手は変わらず握られたままである。


「君を見かける度に目で追ってる自分が居て。ちょっと自分でも良くわからないんだ。大勢のファンに囲まれて、女の子には困らないと思っていた俺が、特に俺の事を好きでもなさそうな子が気になって仕方がないんだ」

「か、カミーユ様、お待ちになってくださいませ。多分雰囲気に飲まれてるだけだと思いますわ!」


 この、薔薇の花びらという特殊効果に。


「違う。ここ最近、君の事を見ていたら、君の周りに急に男性が増えた。このまま、俺の気持ちを伝えないまま他の男に取られてもいいのか?って思ったら、気持ちだけでも伝えておかなくちゃって思った」

「カミーユ様・・・」

「俺は、君が好きなんだと思う」


 ザァッとさらに激しく舞う薔薇の花びら。


 キュンッ


 カミーユ様の、頬を染めて真っ直ぐこちらを見つめる表情。・・・いやいや、キュンッじゃない。イケメンからの告白にときめいてる場合ではない。だって!!免疫が無いんだもん!それに、カミーユ様は他の殿方と比べて私と身長差も短いので、ハッキリと表情が見えてしまって困る。

 ていうか、あぁ、もう!!さっきから風が強いな!!自然現象までもが煽ってくる。


「その、私、カミーユ様の事を恋愛対象には思えないです。ごめんなさい」


 頑張れ、私!!カミーユ様の色香に負けるな!・・・神よ!一体これは何の試練なのでしょうか?私は一体何を試されているのでしょうか?

 バグで私に告白してきたのに、私が間違ってOKなんてしてしまったら、この世界はフリーズしてしまうのではないか?何が起きるかわからないのが怖い。


「うん。分かってる。だから、これから俺の事を好きになってもらえる様に積極的に行くからね!」


 カミーユ様はそういうと、跪いて私の手の甲にキスをした。あ・・・、あ・・・。やめて。そういう、乙女ゲームのテクを私に使うのはやめて・・・。


「急にこんな事言ってごめんね。じゃぁ、俺練習に行くね。今度本当に練習見に来てね!」


 そう言うとカミーユ様は静かに広場を去っていった。

 あの人、分かってるって言ってたけど・・・。いや、わかってない。わかってないとですよ。私ごめんなさいしたよね?ね?なんでそこから“だから~”って続いてしまうのか。


 【折れないフラグ】


 在学中、この厄介なものに振り回される事となるのだが、それはまた別の機会に。

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございます(^^)

11/6改行ミス/漢字変換ミスを修正しました。すみませんでした!

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