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第25話

 朝起きて、身だしなみを整えて、ご飯を食べて、泣きじゃくるお兄様に挨拶して学園に向かう私←今ここ。


 いやー、朝から凄かったなぁ。今生(こんじょう)の別れみたいにボロボロ泣き出すんだもん。23歳の男が。妹と離れるのが悲しくて。

 ・・・次会う時はもう少しマトモになっているといいなぁ。あ、これ、両親とお兄様が視察の為に領地に向かう日にも同じ事思ったなぁ。(遠い目)


「おはようございます、ジゼル」

「おはよう、アンジュ。聞いて!お兄様今日また、視察に戻るのよ!」

「そうなのですか?また、寂しくなってしまいますね」

「全然よ!昨日なんてね、一緒に寝ようとか今日だってボロ泣きしてたし・・・」

「ふふ、愛されてますね」

「・・・ええ。困ってしまうくらいにね。あ、だからお米調査出来るからアンジュの都合のいい時にお願いね!」

「私は、いつでも大丈夫ですよ」

「よぉ、アンジュにジゼル。今、米とか言ってなかったか?」


 プレアデスが私とアンジュの肩を抱いて私達の間に割り込んできた。


「ちょっと!アンジュに触らないでちょうだい!」

「ん?ヤキモチか?」

「バッッッッカじゃないの!?」


 ちょっと!本当にこの人王子様なわけ?軽い!軽いわ!!カミーユ様程とはいかないけど。

 そりゃぁ、ちょっとだけこの人にドキッとした事あったけど・・・。ちょっとだけね!


「おはよう、ジゼル嬢。あの、今日パンの試作品持ってきたから味の感想教えてほしいんだけど」

「おはよう。スティード!えっ?いいの?私スティードの家のパン大好き♪」


 スティードは優しい。そしてパンが美味しい。スティードからもパンの香ばしい匂いがする気がする。


「あ、あの、ジゼル嬢・・・?」

「ん?」


 私は、無意識の内にスティードの胸元に顔を近付けてスティードの匂いを嗅いでいた。


「わっ!!ご、ごめんなさい!パンの匂いがするなぁって!!」


 ぎゃぁぁぁ!何やってんだ私。これでは痴女じゃないの!


「おはよう、ジゼル。アンジュ」

「あ、アルド様。おはようございます」

「おなはようございます、アルド様」

「ジルドラは大人しくしてるか?」

「それが、両親の呼び出しで今日こちらを()つんですよ」

「ほぉ、邪魔者が居なくなったな」


 気持ちいいくらいハッキリと言うなぁ。お兄様もアルド様も根本的に私のしつけ係みたいなポジションなのだけど、何故お兄様だけ変態みたいになってしまったのだろう。


 席につくと、机の中に手紙が入っていた。ん?何かしら。封筒には何も書かれておらず、差出人がわからない。ここで読んでもいいけど、これは多分・・・。この手紙のイベントは心当たりがあった。休み時間にトイレで読む事にしよう。


「ここは、来週の中間テストにも出ますので覚えておいてください」


 先生が黒板に書いた図式を指して、そう言った。


 え?中間テスト?何それ?いや、何それじゃなかったわ。私、最近マトモに授業受けてなくない?てか、勉強すらしてなくない?

 

 ヤ  バ  イ


 いやいやいや、えーっと。教科書をペラペラめくるが、その内容は一つも分からない。お米どころではない。だ、誰かに教えて貰わなくては・・・。アルド様?スティード?いやいや、なんか教わるの気まずい。これ以上変なバグみたいな現象が起こったらヤバイでしょ。

 と、なると・・・。せっかく図書室へ行くのならあの人に頼んでみようか・・・?あ、でもなぁ。アンジュが教わるならまだしも私が教わったらまた変な方向にいきそうな気もするし・・・。


 モヤモヤしたまま、私は手紙を持ってトイレにこもった。


『ジゼル・オーランシュ様


貴女の秘密を知っている。言いふらされたくなければ放課後に裏庭の薔薇の広場にて待つ。必ず一人で来る様に』


 はぁ。やっぱりね。これは本来私ではなくアンジュに来る手紙だ。この手紙の差出人はエルミール嬢である。アンジュを呼び出し、いじめるのだ。そこに現れるカミーユ様。カミーユ様がエルミール嬢をうまくいなして事なきを得る・・・というイベントなのだが、そもそもアンジュはカミーユ様との出会いイベントも不発な感じだったわよね。

 私の代わりにアンジュを行かせる?いや、宛名は私になってるしなぁ。しかし、私の秘密って何なのかしらね?


「うーん、うーん」


 いくら唸ってもいい案は


「出ないわ」


「ヒソッ、かなり難産みたいですわね」

「ヒソッ、あんなに力んでもダメなんて、頑固なんですわね」


 と、うっかり個室で独り言を口走った為に、知らぬ間に便秘疑惑が浮上してしまっているのを、私は知る由もなかった。


 昼休み、中庭にてスティードのパンの試作品を頂いた。スティードの試作品は、デニッシュ生地の中にチョコレートが入っておりサクッとしたデニッシュを噛むと、トロッとしたチョコレートが出てくるという大変美味なものだった。上に乗ったナッツがいいアクセントになっている。


「スティード!これ、凄く美味しいわ!」

「本当?ジゼル嬢、クロワッサンもお気に召してくれたみたいだったからさ、その生地でチョコレートを包んでみたんだ」

「ナッツもカリッとしていて生地はサクサクッ、チョコはトロ〜ッて食感も面白いわ!」

「はは、良かった。ジゼル嬢は感想の表現が上手いからそのままお客様にパンを進める時に使わせてもらうよ」

「ウォッホン!!私も頂いてもいいか?(スティードのやつめ。二人きりの世界に浸りおって!!)」

「あ、どうぞどうぞアルド殿下。プレアデス殿下とアンジュ様もどうぞ」

「あ、じゃぁ俺甘いもん苦手だから・・・」


 プレアデスにパンを持っていた手をグイッと引っ張られ、食べかけのパンをかじられた。


「こっふぃのでいい(こっちのでいい)」

「なっ!?貴様は本当に王子なのか!?一つも気品が感じられん!」

「んー、残したらかえって失礼じゃねぇか」

 

 プレアデスは口についたチョコを親指でグイッと(ぬぐ)うと、その指をペロッと舐めた。クゥッ・・・。その仕草は・・・っ!正に私のツボだった。イケメンが指ペロ・・・。イケメンが指ペロ・・・。

 ハッ!!いけない。アンジュが固まったまま動かない私を心配そうな目で見ているわ。


「あ、あの、そういえば!皆さんは来週のテストのお勉強は進んでますか?」


 あ、よりによってこの会話のチョイス。そういえばとか言って捻り出した話題がこれしかないとか・・・。


「俺はそもそも奨学生制度で入ってるからね、テストの順位は落とせないから頑張ってるよ」


 スティードはパン作りも勉強も妥協せず相変わらず努力家だ。見習わなくてはいけないわ。


「俺は学園で習う勉強は一通りマスターしてるからな。一度覚えたものは忘れない」


 アルド様は完璧よね。従兄妹なのに何故こうも能力に差が出てしまっているのかしら・・・。

 ぷ、プレアデスはなんか私と同類な気がする!あの軽さ、適当さ!


「俺もだいたいの事は一度習ってるからなんとかなるかな」


 ・・・あれ?なんとか、なるの・・・?私なんて前世で一度習っていてもこのザマよ。そっか。そうよね。あの人前世は公務員だったとか言ってたわよね。私とは違う人種だったわ。


「わ、私も今回は少し頑張っていますよ」


 私に振り回されていたアンジュもちゃんと頑張っている。なのに私という奴は・・・。ここ最近本当にロクな事をしていない。


「そっ、そうよね!皆頑張ってるわよね!」


 頑張ってないのは私だけでした。皆一人一人自分で頑張っている。私みたいに誰かに頼ったりしない。はぁーっ、私も少しは自力で頑張らなくては。

 よし、放課後はさっさとエルミール嬢イベを終わらせて勉強よ!!

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました(^^)

11/5誤字/文法がおかしな箇所を修正しました。すみませんでした!

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