第24話
あ、アンジュが声を荒らげるのは多分初めてではないだろうか。頑固な所はあるけども、いつも大人しく取り乱すことのなかったアンジュ。
アンジュのお屋敷の中庭で、アフタヌーンティーセットを用意してもらって向かい合って座っています。
「ジゼルはいつだって、皆の輪の中心に居て・・・。私はそれを見ているだけで。でも、ジゼルは必ず私をその輪の中に入れてくれました。皆の人気者で、私の自慢の義理の従姉妹です」
「アンジュ?」
「幼い頃に私が虐められていた時に、助けてくれたのはジゼルでした。私のせいで怪我をしたのにジゼルは泣きもせず、凛としたままで・・・。あの時ジゼルは私に、アンジュは何も恥じる事は無いと、アンジュが孤児院で育ったからこそ私達は出会えたのだと・・・。そう言ってくれました」
私は、お兄様と年が離れていたので少しませていたのだ。あの時は私の口が達者過ぎて、かえって騒ぎが大きくなってしまったんだけどね。
「アンジュの本当の親は神様なんだもん。誰にも見えないけど確かに居るよって言葉が嬉しくて。だから・・・その時から私もジゼルの事が好きです!」
アンジュ・・・。アンジュが顔を真っ赤にして私に気持ちをぶつけてきました。ぎゃぁ!!なんという可愛さ!頬を染めて、瞳はうるうるとしていて、少し伏し目がちで恥じらいがあって・・・。こりゃ、私が殿方だったら無理矢理にでも抱き締めて、アンジュのハートを奪うところよ!!
・・・ふぁっ!?こ、これが元カレの気持ちなの・・・?
でも、元カレは私が拒むとやめてくれた。決して無理強いはしなかった。そして、彼は私の前から去る事を決めたのだ。
・・・そうか。それも愛の形だったんだ。
あの時、私は追いすがっても良かったのかな?もっと自分の気持ち伝えてれば良かったのかな?元カレに歩み寄る事もせず、自分で勝手に傷付いて・・・。元カレだって勇気を出して行動する度に私に拒まれて傷付いていたのに。元カレにこれ以上我慢させたくないって私は自分から離れたのだ。
悲劇のヒロインみたいだな、とか酔ってなかった?私に恋愛は向いてないとか、なんか格好いい言い方して酔いしれてなかった?トラウマなんかじゃなかった。同じ過ちをしてはいけないとの自戒だった。
「アンジュ。私もアンジュの事が好きよ。可愛すぎて可愛すぎて守ってあげたくなるのよ」
「ジゼル・・・」
「だから、周りの殿方がアンジュの良さに気づきもせずに、私に告白してきたのが信じられなかった。・・・どこかおかしいんじゃないのかと本気で思っているわ」
「で、でも卒業式までまだまだあるので、その間に気が変わるかもしれないじゃないですか?今まで通りふるまってくれるみたいな事を仰ってましたし」
「はっ!!そ、そうよね!!これから色んなイベントがあるのだから、まだアンジュと他の殿方が結ばれるという可能性があるわよね!」
「・・・・・・・・・・・・」
「頑張りましょうね!アンジュ!!」
「えっ!え、えぇ・・・・・・」
アンジュもああ言っている事だし、まだ諦めてはいけないわね!よーし!頑張るわ!!
「アンジュ、今日は早退させてしまってごめんなさいね」
「いえ、ジゼルとこんなに沢山お話するの久々なので、嬉しかったです」
「そういえば、そうよね。今週の土の日はアルド様とスノーフレーク見に行くのよね。その時にまたゆっくりお話しましょう」
「はい、是非」
そこでもっともっとアンジュの魅力を引き出さなくては。
私はアンジュの家の馬車で家まで送ってもらって帰ったのだった。
「おかえりなさいお嬢様!あれ?」
「おかえりなさいジゼル様。ジルドラ様とご一緒ではなかったのですか?」
「あっ!忘れてた!!気分が悪くなってアンジュにお世話になっていたのだけど・・・。ごめんなさい、お兄様が帰ってきたら寝てると伝えてっ!」
「あっ!ジゼル様!」
お兄様が迎えに来る事をすっかり忘れていたわ!サボったなんて言われたらどうしよう・・・。怒られるならまだしも、視察同行とか・・・。布団を被ってガタガタと震える私。
ドタバタドタバタ
「ちょっと!ジゼルは無事なの!?」
ドタバタドタバタ
来たーーーーー!!!お兄様の声が段々とこちらに近付いてくる。
バンッ
「ジゼル!学園に行ったら、アルドが、「ジゼルは気分がすぐれないから帰った」って言ってたから慌てて帰ってきたんだよ!」
「すいません、お兄様・・・」
アルド様、フォローしてくださったんですね。
「もう、今日は心配だから一緒に寝るからね!!」
「ちょっ!やめてください、お兄様!」
無理矢理ベッドに潜り込もうとするお兄様と私の攻防戦が繰り広げられ、根負けした。具合は悪くは無いが寝不足の身体では、お兄様の力には敵わなかった。
「イアンさん・・・どうにか・・・」
「ご両親よりジルドラ様に明日必ず屋敷を発つようにとの文が届きまして。ジルドラ様がわがままを言うのは今夜だけですのでご容赦くださいませ」
えっ?明日帰るの!?やった!予定よりだいぶ早いわね!
「ここに来る前にだいぶフライングして帰ってきちゃいましたからね!ご両親ともに激おこです!プーックスクス!今お嬢様が拒むと未練が残って出発の時にグズりますからね!クスクス」
あぁ、お父様とお母様の話を途中で遮って帰ってきたんですね。私達兄妹、このだらしない癖は直さなくてはダメね。
「ジゼルっ、今日は手を繋いで寝ようねっ」
「い、いや。せめて夕飯食べてからにしましょう?」
「やだっ!夕飯までこうして、夕飯とお風呂さっさと済ませてさっさと寝るからね!」
どうしてくれようこの、23歳。でも、ベッドに入ったら物凄い眠気が襲ってきた。うん、もうこの眠気に身を任せてしまおう。
夕飯までぐっすりと寝た私は、スッキリとした頭で夕飯を食し、湯浴みを終えると、お兄様の部屋へと連れてかれてしまった。
お兄様の部屋は、キチンと整頓されており、センスのいいモダンな調度品がいい味を出している。この部屋に入るのは久しぶりだ。
「ジゼルー?何やる?何やる?トランプ?チェス?」
「いや、やりませんよ?」
「じゃぁ、もう寝る?寝ながら話す?」
「あ、じゃぁ、私自分の部屋に戻り・・・」
「ダメーーーー!!」
「あ、ちょっと引っ張らないでっ!」
ボフンッモフッ
よろけてお兄様のベッドにうつ伏せにダイブしてしまった。その上にお兄様が乗っかる形で身動きが取れない。
「お兄様、おも・・・」
「ジゼルッ、ごめん!よいしょっと。ふぅ!」
兄妹でこういったイベントが起きても誰得なのか。少なくとも私は萌えない。
お兄様が私の隣に寝転がった。こちらを見てニコニコしている。お兄様の綺麗なガラスみたいな瞳。お母様の方のご先祖様に居たというオッド・アイ。お父様の瞳は両目ともブルーで、お母様の瞳は両目ともエメラルドグリーンなので、私とお兄様は先祖返りなのだろう。幼い頃は、両親と目の色が違うどころか、左右違う色なので悩んだが、お兄様が、左右で瞳の色が違うのは僕と一緒だよ、と。僕とジゼルは間違いなく血が繋がってるよ、と励ましてくれた。
私に何かがあるといつも飛んできてくれた。それは今も変わらないけど・・・。ありがたいけど、そろそろ妹離れしちゃくれないですかね?
「いい加減キモいわっ!!!」
「じ、ジゼル!?」
ヤバッ!つい口に出して叫んでしまったわ。お兄様に悪気は無いとはいえ、これは異常よね!もう少し大人になってもらわなくちゃ。
「お兄様、私やはり自室に戻ります!」
「えぇーーー!?」
「私と一緒では、お兄様がダメになってしまいます。お兄様はご自分をおいくつだと思ってらっしゃるのですか?兄妹とはいえ、年頃の男女なんですからね!一緒に寝るなどはしたないですわ!!」
「ジゼル・・・、そんな・・・。ジゼルぅぅ」
「お兄様。ジゼルは妹にベッタリ頼りないお兄様は嫌です。頼れるお兄様が好きです」
「頼れる・・・兄・・・」
「えぇ、クールなナイスガイが好みです」
「わかったよ。ジゼル!次に帰ってくるまでにはクールなナイスガイになってジゼルをメロメロにさせてみせるよ!」
「いや、メロメロにはさせなくていいですよ・・・」
とりあえず、若干の不安は残っているものの、なんかやる気になっているお兄様を残して、私は自室へ戻ってさっさと眠りについた。
ここまでお読み下さり、ありがとうございました┏○ ペコリ




