第22話
やはり悶々として眠れなかったぁぁ。ぐぅぅっ、自己管理が出来ていないダメな大人選手権があれば、間違いなく優勝出来る自信があるわ!
それは、顔にも出ているみたいで。
「ジゼル、おはよう。あれ?ジゼル?クマが凄いけど夜ふかしをしてしまったのかい?」
「おはようございます、お兄様。夜のお供にと読み始めた本が思いの外面白くて続きが気になってしまいまして・・・」
「えぇっ、じゃぁ今日は学園を休んで僕と遊ぼうか?」
「お兄様・・・。学園は休みません。どうしてそんな考えになるのですか?」
兄は厳しいのか甘いのか。飴と鞭の使い方を間違っている!というか、そもそも使い分けられる資質がない人である。
「もー!帰ってくるのは遅いし、いつ遊んでくれるのさ!」
「いや、こどもじゃないんですから・・・」
「ジルドラ様のおつむはこども並みですからね。プーッ!」
「えっ!僕が若く見えるって事?ジゼルの彼氏に見える!?」
「ほら、ご覧の通り残念なおつむです。クスクス」
「イアンさん、面白がらないでください」
絞りたてのオレンジジュースを飲んだら、ちょっと頭がスッキリしてきました。うん、今日も頑張ろう!
「さて、学園に行こうか、ジゼル」
「はい。やっぱりお兄様も行くのですね」
「当たり前だよー!ジゼル成分を補充しておかなくちゃ!」
「相変わらず気持ち悪いな。ジルドラ」
「「ひぃぃっ!!」」
朝から思いも寄らないタイミングで、不機嫌なアルド様の声がしたので、お兄様と一緒に悲鳴をあげてしまった。
「あ、アルッ、アルド!!お前いくら王子だからって勝手に家に入ってくるなよ!まさか、僕が居ない間にもこうやって勝手に入ったりしてるんじゃないだろうな!?」
入ってる。もうまるで我が家の様にフリーダムに出入りしてる。よって、私のプライバシーは無いも同然である。
「俺はジルドラの代わりだからな。ジルドラを見本に動いているからな」
「きぃぃぃぃっ!じゃぁ、あんな事やこんな事までしてるっていうの!?」
いや、あんな事やこんな事ってなんでしょう・・・。
「とりあえず、今日は俺がジゼルと一緒に学園に行くからジルドラは来なくていい。元々部外者なのだからな」
「なっ・・・・・・!!」
「お兄様、今朝は私もアルド様と込み入ったお話がありますので、ご遠慮くださいませんか?」
「・・・・・・ジゼルのバカーーーーー!!!アルドのムッツリスケベーーー!!!」
「プークスクスッ!捨て台詞がこども!クスクスクス」
お兄様は捨て台詞を吐くと、自室の方向へ走り去っていった。
「・・・お前もあんなのが兄で苦労するな」
「・・・言わないでください。この家に生まれてきた事を後悔しそうになるじゃないですか」
私はアルド様と一緒に、アルド様の馬車に乗り込んだ。沈黙が続く。何か話をしなくては・・・。
「き、昨日は突然逃げ出してしまってすみませんでした」
「あ、あぁ。俺も勢いで・・・その、告白などしてしまって済まなかった」
「い、いえ。なんで私なんですか?」
「こどもの時に、アンジュが叔父夫婦に引き取られてからすぐにイジメにあっていた。その時にお前がアンジュを庇ったのに、俺の手柄にしただろう?それから事ある毎にお前は俺を影で支えてくれていた」
あれ?そうだったっけ?アンジュを庇ったのは間違いなくアルド様だと・・・。あっ!!!
マズイ・・・非常にマズイわ・・・。あれは・・・あれは・・・。お兄様も絡んでるアレだわ・・・。
私とアルド様が7つの時に、アンジュは私の伯父夫婦の元に養子として引き取られた。アンジュは赤ちゃんの頃に教会の前に置き去りにされていて、教会の神父さんの営む孤児院で育ったのだった。神父さんは赤ちゃんの天使の様な可愛らしさから、神が授けてくれた赤ちゃんとして“天使”と名づけた。
そして、馬車に轢かれそうになっていたこどもを助けたアンジュを伯母が見て、伯父を説得してアンジュを養子に迎えたのだ。そんな経緯もあってか、アンジュを妬んだ大人達がこぞって、自分のこどもにアンジュは出自不明の何処の子かもわからないこどもだから一緒に遊ぶのはやめなさいと、吹き込んだ。
こどもは親の言いつけを守り、アンジュを仲間外れにしたり、時には「みなしご」「卑しい子」と悪口を言っていた。
私は、アルド様と一緒に伯父夫婦の家でアンジュを紹介された時に幼心ながら、こんな可愛らしい子がこの世に生を受けるなんて!!名前の通り愛らしい天使そのものだ!とめちゃくちゃ感激したのを覚えている。
ある時、アンジュが苛められているのを目の当たりにした私はブチ切れしてしまい、いじめっ子を言い負かして泣かしてしまった。そして、私の口撃で泣くほど追い詰められたいじめっ子が逆切れし、私に向かって石を投げてきたのだった。石は私の頭に当たり、私は頭から流血してしまった。所詮こどもが投げた石なので、怪我は大した事は無かったが、たまたま現場を通りかかったお兄様が頭から血を流している私を見て、さらにブチ切れて、いじめっこを殴ってしまったのだ。
いじめっこが泣き去り、静かになった現場で冷静になった私達兄妹は暴力を振るってしまった事に真っ青になり、二人で色々と考えた末に・・・。その場に居なかった ア ル ド 様 が や っ た 事 に し た のだ。
誰が見てもいじめっ子が糾弾されるべきであり、こちらは私が怪我までしているし、正当防衛だったのだが、私達兄妹はアホだったのでこの国で一番偉いこども、つまり王子様がやった事にすれば誰も文句を言うまい!とアンジュにも「誰に聞かれても、アンジュを庇っていじめっこを退治したのはアルド様だって言うんだよ」と、よく言い聞かせた。
アンジュは私の頭をハンカチで押さえ、泣きながらごめんなさい、ごめんなさいと謝ってきたので、アンジュは悪くない事をこんこんと言い聞かせた。その後はいじめっこが何を言ってきてもフルシカト。私達兄妹は知らぬ存ぜぬを貫き通した。
こうして私とお兄様の完全犯罪(語弊)が成立したのだった。
その一連の出来事を知った伯父夫妻が、よくぞアンジュを守ってくれた!とお茶会や夜会の席で会う人会う人に、アルド様の武勇伝を広めまくった事で、アルド様の株がぐーーーんと上がったから結果オーライ的な流れになった。めでたしめでたし、と、すっっっかり忘却の彼方に置いて来た記憶がここにきて戻ってきてしまうとは・・・。
その後は後ろめたさもあり、アルド様が有利に動ける様仕向けたりしていたのだけど、気付いていたのね!1番肝心な、アンジュとの恋が進展する様に動いていた事は気付かなかった癖に!!
「士官学校に入学し、寮暮らしの為にお前と会えなくなってしまったが、厳しい訓練の中、ただひたすらお前の顔を思い浮かべて耐えた」
アルド様・・・。私・・・そもそものスタートが間違っていたって事だったのね。アドアンではアンジュをいじめっ子から助けたのは紛れもなくアルド様自身なのだから。しかも怪我をする事無く穏便にスムーズに解決した。
なぜに、ブチ切れしてしまったのか、幼き頃の私よ。そのせいで、アンジュとアルド様の初恋という大切なイベントが起こらなかったじゃないの!
そりゃ、アンジュとアルド様の恋が進展するはずなかろ。そもそもの始まりのイベントが起きてないんだもの。
あぁぁぁぁぁぁ〜〜!どうしたらいいの!?どうしたらやり直せるの!?
そ、そうか!最早アルド様以外とイベント進めるしか無いわ!ことごとく失敗したとしても、来年入学してくるフェルナンドで失敗しなければ大丈夫!!
「アルド様!アルド様のお気持ちは大変嬉しいのですが私にはやる事がありますので、恋などしてる時間は無いのです。本当にごめんなさい」
私は誠心誠意気持ちを伝えた。
「そうか・・・。ならば待つ。今まで待てたのだからお前のやる事が落ち着くまで待とう」
「えっ!?」
「その間に、じっくり俺を好きになってもらう」
ぅおい!!なんか状況が変わらないじゃないの!あれー?乙女ゲームってこんなんだっけ?断っても食い下がってくるもんだっけ?
俄然やる気になってるご様子のアルド様。私は依然として変わらない状況にやきもきしていた。
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