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第21話

 はぁ、はぁ、はぁ。救護室まで全速力で走ったので、息切れが酷かった。

 具合が悪いと説明し、救護の先生に促されてベッドに横になる私。誰が来てもジゼルはここには居ないと伝えてほしいと告げて。


 心臓の音がガンガン頭に響いてくる。怖い・・・。告白をされると嬉しいものなのに、私は怖くて堪らなかった。プレアデス、アルド様・・・。二人に告白されてしまった。まだ、全然卒業式でもないのに。アンジュの悲しそうな顔が頭から離れない。こんな、こんな筈じゃないのに。私はアンジュのサポートキャラなのに、アンジュのライバルキャラでもないのに、どうして・・・っ!?


 じゃぁ、私の存在意義(やくわり)ってなんなの?アンジュの恋路の邪魔をする事?


 こんなの、私の知っているアドアンじゃない!!


 何度目かのチャイムが鳴って救護室の外が騒がしくなる。今、何時だろう。 


 夢・・・。そうだ!これはやっぱり夢なんだわ!少し目を瞑って目覚める頃にはきっと夢から覚めてるはずよ!!

 


 ん・・・。あれ?うわっ!私本当に眠ってたんだ!外が薄暗くなってる!どんだけよ!先生起こしてくれなかったの!?

 お兄様、大捜索開始しているかもしれないわ!早く校門に向かわなくては!



「ようやくお目覚めか?眠り姫」

「えっ・・・!?」


 だ、誰!?そんな恥ずかしいセリフを吐くのは!?

 起き上がって声のした方を見ると、夕日を背にして浮かび上がるシルエット。うん。知ってる。その声も、そのシルエットも。


「プレアデス!何でここが!?」

「大体サボる時は屋上・保健室・裏庭の広場のどれかって相場が決まってるだろ」

「むむぅ〜・・・。で、何でここに居るの?」

「お前と一緒に帰ろうと思って待ってた」

「いや、お兄様が迎えに来てるから無理よ」

「お前の放課後は俺が貰った。お前の兄ちゃんも是非にと言ってたぜ」

「えー!お兄様が許可を!?ありえないわ!」

「俺が許可を貰いに行ったら、あっさりと許可くれたぜ」


 お兄様はどんだけプレアデスが怖いのよ。まぁ、身長差とか乱暴な言葉遣いとか権力とか長いものに巻かれたのだろう。今頃プンスコーッと拗ねているだろう。


「さ、帰ろうか。ジゼル姫」

「も、もう!すぐそうやって乙女ゲームのセリフみたいな事言うー!」

「だって俺以外は普通に乙女ゲームのキャラなんだろ?こういう言葉を恥ずかしげもなくサラッと言えねぇと俺が不利になるだろ」

「私に・・・そんなセリフ言うキャラなんて居ないよ。・・・居ないと思ってた」


 けど、今朝のアルド様の告白。しかもアンジュの前で。なんで、アンジュにフラグが立たないのだろう。


「お前は魅力的だからな。これからもライバルがきっと増える。この世界はお前の知っている世界じゃないのかもしれないぜ?」

「え?」

「“ゲームの中”なんかじゃねぇ。俺もお前もプレイヤーじゃねぇし、実際にこの世界で生きているんだ。殴られたら痛ぇし、好きな女の事考えたらドキドキする。他のキャラだって独立したパーソナリティだとしたら、お前を好きになってもおかしくはねぇだろ」


 そんな事は考えた事が無かった。プログラムで動いている訳では無い・・・?キャラって言う事自体間違っているの?


「まぁ、卒業式を迎えない事には憶測でしか無いだろうけどな」


 プレアデスは私と違った物の考え方をし、私を納得させる天才かもしれない。確かに私にとって、どんな考えも卒業式を迎えるまでまでは・・・この目で確かめるまでは全て憶測でしかない。


◎乙女ゲームの中では無く、登場人物は同じだけどアドアンとは違う世界かもしれない(ジゼル(自分)が転生者だという事も踏まえ)

◎私はサポートキャラではないのかもしれない

◎攻略対象者とか関係無く自由に恋愛が出来る世界かもしれない

◎アンジュと攻略対象者はセットではないかもしれない

◎そもそも“フラグ”というものは無いのかもしれない


 それらは皆私のアイデンティティを壊してしまう考えなのだ。


「まぁ、いくら考えても答えはわかんねぇんだから、今は・・・細けえ事は気にせずにこの状況(学園生活)を楽しんだモン勝ちだと思うぜ!俺はお前と青春をやり直すつもりで居るから、そこんとこヨロシク!」

「フフッ。プレアデスと一緒に居ると真面目に悩んでるのが馬鹿らしくなってくるわ」

「褒め言葉として貰っておくぜ!さ、本当に暗くなって来ちまったから鍵閉められる前に帰ろうぜ!まぁ、俺はこのまま二人きりでもいいけど?」

「ば、バカね!早く帰るわよ!!」


 私は薄暗くて顔がよく見えなくて良かったと思った。多分私きっと凄い顔をしている。顔が熱いので火照っているに違いない。


 私はプレアデスの迎えの馬車で家まで送ってもらった。



「お帰りなさいませ、ジゼル様」

「お嬢様、お帰りなさい」

「ジーゼールーーーッ!!」


 お兄様が走ってきて私に抱きついてきた。


「あの、オオカミみたいな男に何もされなかった?大丈夫!?あぁ、怖かったろ」

「オオカミって・・・。プレアデスは仮にも王子ですよ?国の評判を落とす行為はしないでしょう(・・・多分)」

「ジゼルは可愛いんだから油断出来ないよ!気をつけてよね!はっ!!僕が誰もが羨む立派なレディに躾けたからいけないのか!?で、でも・・・ブツブツ」


 ・・・・・・相変わらずである。


「・・・・・・ジゼル何か良い事でもあった?」

「え?なんでですか?」

「何か嬉しそうだから」

「何も、ないですけど」


 プレアデスと話をして心が少し軽くなったのは確かだ。今思い出したら頭が真っ白になったとはいえ、アルド様にも悪いことをしてしまった。告白するのは、勇気もエネルギーも要る筈だ。なのに、返事もしないで逃げ出してしまった。

 明日、ちゃんと謝ろう。そして素直な気持ちを・・・私の気持ちを伝えて、ちゃんと返事をしよう。


 私はアンジュの悲しそうな顔を思い出していた。アンジュともじっくり話をしなくてはならないのかもしれない。せっかく仲直りしたばかりだというのに、あんな顔をさせてしまって。

 アンジュは、アルド様の気持ちを知っていたのかしら・・・。だから私が幾度となく二人をけしかけてもうまくいかなかった・・・?


「ジゼル、ジゼル!?どうかした?」

「え、あ。あぁー・・・。またやってしまいましたか」


 スープをスプーンですくって、口に入れる際に口まで届かず下にこぼし続けていた。


「・・・ジゼル。食事中に上の空とか、レディとしてあるまじき行為だからね?それに“また”って言ったよね?」

「えっ?あ、いえっ!・・・すみません」

「次、同じ失敗をしたら視察に同行決定だから。一人にしたせいで食事も出来なくなるとか心配だから」

「うぅ・・・わかりました・・・」


 私はスープのついた服を着替える為、サラマンジェ(食堂)を離れた。

 ふー、いけないいけない。お兄様がいる時は熟考する癖をなんとかしないといけないわね。お兄様の視察に同行とか、考えただけでゾッとするわ。

 

「ジゼル様、お体の具合でも?」

「んー、体というか、頭というか、心というか」

「まぁ!それって恋の病ではないですか?お嬢様!」


 ボニーとユミルが着替えを手伝ってくれている。


「恋?無い無い!あはは」

「えー、こないだの隣国の王子様とか格好良かったじゃないですかぁー」

「な、何言ってるのよ!からかわないでちょうだい」

「んん?お嬢様、顔が真っ赤ですよ?」

「ユミル!ジゼル様が困ってらっしゃるでしょ!いい加減になさい」

「はぁーい」


 ダメだ。プレアデスの事を考えただけで赤面してしまう。ど、ど、どうしよう。明日からどんな顔して会えばいいの〜!?


 やらなくてはいけない事が山積みで、今夜も眠れぬ夜になりそうだ。

ここまでお読みくださいまして、有難うございました(^^)

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