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第20話

「ジゼルー!!おはようーーー!!」

「お、おはようございます、お兄様。お早いですね」


 早朝だというのにお兄様は身支度バッチリ整えて私の部屋に訪れた。


「今日から金の日までずっとジゼルの送り迎えをしようと思ってさ!・・・あれ?ジゼル、制服のリボンはどうしたんだい?」

「あ・・・、えっと昨日失くしてしまいまして」

「もう!ダメじゃないか!ちゃんとしなくちゃ。せっかくこぉんなに可愛いジゼルなんだから」


 そう言ってお兄様はポケットから紺色のスカーフを取り出すと、私にリボンの代わりだと言って結んでくれた。用意周到だなぁ。

 本当の事なんて言える訳が無い。・・・というか、毎日送り迎えとかうんざりなんですけどー・・・。っていうか兄妹って皆こんな感じなの?いや、可愛がってくれるのはありがたいのだけど、少し行き過ぎな気がする。


「ジゼル、ほらここに座りなさい。ほら、ほら♪」


 お兄様は自分の膝をポンポンと叩いて私を呼んでいる。


「いえ、一人で座れます。お兄様は私をいくつだと思っているんですか?」

「今年で16歳♪やだなぁ。ちゃんとわかってるって♪」

「16歳にもなって兄の膝に座るレディなんて居ませんよ」

「えー?余所は余所、ウチはウチだよー!」

「イアンさん!!ちょっとこの人どうにかしてください!」

「プークスクス・・・。お嬢様と離れている間にますます頭をこじらせてしまったみたいで、私でもとめられません」

「ちょっと!笑っている場合では無いですよー」


 そうだった。イアンさん(この人)は出来る執事ですが、結構兄の事とか面白がってからかったりする所があるのだった。

 ボニーとユミルも兄のこの様子にただただ、息を潜めてひっそりと佇んでいる。ボニーなんて笑顔が固まっています。ユミルは正直に嫌悪感が顔に出ちゃっています。

 でも、お兄様はアレだけど普段私しか居なくて静かな我が家が、久々に賑やかなのは少しだけ嬉しい。



 学園に着くと、お兄様は馬車から降りて私をエスコートし始めた。


「ちょっ!お兄様!エスコートは結構ですわ!」

「いや、このまま教室までエスコートするよ」

「イアンさーーーーん!!」

「ジルドラ様のおつむはもう手遅れなので、諦めてください」

「もう、止めてもくれないーーーー!」

「さ、ジゼル。・・・変な虫が居ないかどうか見てあげるからねぇぇ」


 こ、怖い・・・。


「ジゼルおはようございます。あ、ジルドラ様もおはようございます」


 アンジュー!!助けて!助けて!


「アンジュちゃんおはよう!いつもジゼルのお世話してくれてありがとうね!」

「いえ。ジルドラ様もお元気そうでなによりです」

「ちょっと、アンジュ、16にもなって兄と手を繋いで登校する人なんて居ないって言ってやってよ!」

「ふふふ。私兄弟が居ないので羨ましいです」

「アンジュー!!お兄様を否定してよーーー」


 ひょっとして帰りも教室まで迎えに来るのー?カンベンしてー!


「ジゼル、オッス!昨日はありがとな!・・・って誰?」


 プレアデス!!なんてタイミングなの!今のお兄様に殿方はNGなのよ!


「・・・僕はジゼルの兄だけど?君こそどなた?」

「マジか!兄ちゃんはここの生徒か?あ、俺はプレアデスって言うんだ。宜しくな!」


 ひぃっ!プレアデスってば初対面の人でも、なんでそんなフレンドリーなの!?


「元!生徒だよ!僕は君よりも年上!わかる?」

「やー、ごめんごめん。チッコイから学生かと思った」

「ちょっ!!ジゼル!何なの?コイツは!」

「・・・プラネタリア(隣国)の王子、ですよ」

「えっ!?お・・・うじ?ね、ねぇ、イアン。王子って偉いんだっけ?」

「少なくともジルドラ様よりは偉いかと」

「あっ!じゃ、じゃぁ、ジゼル!僕はこれで帰るけど、帰り迎えにくるからね!プレアデスくん!妹を頼んだよ!行くよっ!イアン!!」

「はっ!!撤退ですね!プーックスクスッ」


 お兄様とイアンさんは馬車までダッシュし、そのまま馬車で走り去りました。・・・朝からどっと疲労感が・・・。でも、お兄様は権力に弱いって事が判明したわね!同じ王子でも、兄が7歳の時に生まれ、兄弟の様に育ったアルド様には食ってかかれるけど、他国の王子となればやはり事情が違うのでしょう。いや、アルド様にも食ってかかっちゃダメだけど!しかし・・・あんなんでも仕事が出来るんだから不思議・・・。


「ハハハッ!お前ん家の兄ちゃんおもしれぇな!」

「いや・・・。笑い事じゃないんだけど・・・。なんか助かったわ」


 プレアデスと一緒に居たらお兄様の暴走も止まるかしらね。ってか、昨日アルド様に殴られた所が痛々しい。せっかくの美しい顔がいびつに腫れている。ご飯を食べたりするのも辛いだろう。


「あ、そうだ。ごめん、ジゼル。リボン新しいの買って返すな!」

「いや、俺が返す」


 私とプレアデスの会話に割って入ってきたのはアルド様だった。だいぶ落ち込んだ様子ではあるけど・・・。


「いえ、どちらもお気になさらずですわ」

「いや、プレアデス。昨日はすまなかった。ジゼルも・・・」

「すっっっっっげぇ、痛かったけど、おかげでジゼル嬢と有意義な時間を過ごせたから別にいいぜ♪」

「貴様・・・っ!」

「コホン!もう二度と暴力を奮わないというなら、許します。アルド様はご自分のパンチの威力を考えてください。それに、カッとなって手が出る方は嫌いですっ!」

「す、すまない。本当に反省している・・・。精進がたりなかった」

「フフッ。いつもみたいに、冷静で凛としたアルド様で居てください(ニコッ)」

「じ、ジゼル・・・っ!ありがとう」

「・・・・・・。(うーわ、ジゼルのやつ。この笑顔は無意識でやってるんだろうなぁ。こりゃアルドも惚れる訳だ)」

「仲直り出来て良かったですね」


 アンジュがホッとした様な表情で私達を見ている。


「アンジュ。うん。昨日は驚いたわね。アンジュもアルド様を止めていたの、偉かったわね。怖かったでしょう?」

「いえ、私は夢中で・・・」

「昨日、あの後アンジュに物凄く怒られた。ははは。情けなくて昨日はかなり落ち込んだ」 

 

 そうよ!それよ!!アルド様が弱さを見せるのはアンジュの前でだけでいいのよ。私達の前では、完璧な王子様で居てくれなくちゃ。


「その・・・アンジュに『好きな子を怒らせてどうするのですか!もっと器の大きな人にならないとジゼルを振り向かせる事は出来ないです』って言われて反省した」

「まぁ、アンジュったらそんなにハッキリとアルド様に意見するなんて珍しいわね。アンジュの事見直したわ」

「ジゼル・・・。そうじゃないだろ。その反応は違うだろ・・・」


 プレアデスはそう言うと、私の肩をポンと叩いた。目の前ではアルド様が固まっていた。え?え?プレアデスの困った顔と、アルド様のガッカリとした顔を交互に見る。


「お前、今アルドに告白されたんだぜ?っていうかアルドも、そんな回りくどい言い方じゃジゼルは気づかねぇぜ?」


 アルド様が告白?誰に?私に?


「そ、そうか!ならば改めて言おう!ジゼル、俺はお前が・・・お前の事が好きだ!!こどもの頃から好きだった!」

「・・・・・・え?」


 何を言っているの?アルド様。アンジュは・・・?アンジュが悲しそうな顔をしている。私とのフラグは立たないはず・・・なのに。こどもの頃からって・・・。


「わ、わた・・・私・・・。じゅ、授業が始まっちゃうから先に行ってるね!!」


 私はその場から走って逃げた。自分の中の絶対的ルールが崩れていくのが怖かった。だって、主人公はアンジュなのに。アンジュを差し置いて私にフラグが立つはずなどないのに。


 私は教室ではなく、救護室へ向かったのだった。

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございましたm(__)m

11/7誤字を修正しました。すみませんでした!

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