第2話
とりあえず、どこもケガはしていないしちょっとショックで記憶が混乱しているので今日はもう帰って欲しい、せっかく来てもらったのにごめんなさいと二人に告げ、暫し引き篭もって気持ちの整理をする事にした。
二人が部屋を退出した後、私は自室のテーブルで紅茶を飲みながら熟考していた。
まず、私はジゼル・オーランシュ。父が国王(この人がアルド様のお父様)の2番目の弟で、国王より公爵の爵位を頂き、ファレイユという地名の領地を治めているので、ファレイユ公爵家の令嬢と呼ばれている。アドアンにおいては主人公の義理の従姉妹兼、親友兼、有能なサポートキャラだ。つまりサポートキャラなのだ。もう1回言うけどサポートキャラなのよっ!だから攻略キャラの誰とも結ばれる事はありません。はい。
主人公のオリジナルの名前はアンジュ。まぁ、ゲームのタイトルにもなっていますしね。アンジュが国王のすぐ下の弟で私の父の兄(サーチブルク公爵家)に養女として引き取られてからは、私とアルド様とアンジュの3人で良く遊んだ記憶がある。やがてアルド様は帝王学やら士官学校に入学したりと忙しくなってしまい、ごくたまーにしか会えない感じだったが、最近士官学校を卒業して私達と同じ学園に入学をしてからはまた交流が出来た。
そして私は二人の仲を取り持とうと、二人を誘って湖まで出かけたのだが、そこで暴漢に襲われてしまったのだった。で、助けてくれたのがアルド様って事か・・・。
そういえば、このイベント共通ルートで何度もプレイしたなぁ。最後ら辺は背に腹は変えられず、既読スキップしちゃったけど。あ、アルド様ルートは通しでやったよ!
さて、私が本当にジゼルならば、机の鍵付き引き出しにしまってあるわよね。例のアレ。私は早速ペンダントにしている鍵を使って引き出しの鍵を開けて手帳を取り出した。
「やっぱり・・・あったわ」
この、手帳がね、非っ常~~に大事なものなんですよ。パラパラと開いてみると、書いてあるわ書いてあるわ。様々な殿方の詳細なプロフィールが。生年月日、誕生日、血液型、星座、好きな食べもの、趣味に好きなデートスポット、好みの女性のタイプetc、etc・・・。アンジュが聞いたものもあれば、私が自分で調べた事などそれはそれは詳細に書いた手帳。これがアンジュの恋のサポートに於いて必須アイテムなのです!!
最後に手鏡を持って自分の顔を確認しましたが、ふわふわピンクの髪の毛に、くりくりお目々は右目が黄色、左目が青のオッドアイ。間違いなくゲームの中のジゼル嬢そのものだった。
とすれば、私にはアンジュの恋をサポートする任務が課せられているのね!!大丈夫!私隠しキャラだけ残して全クリ済だから!!隠しキャラ以外だったら縁結び出来るわ!攻略対象の魅力的な殿方達とお付き合い出来ないのはどても残念だけれども、アンジュの事大好きだし、これはこれで仲人プレイみたいで楽しいかもしれない。よぉーし、私、絶対にアンジュを幸せに導いてみせるわっ!!
「エイッエイッオーッ!!」
「ジゼル様!?どうなされましたか!?」
「あ、やばっ」
部屋の外で待機していたのであろう、メイドのボニーが心配して部屋に入ってきてしまった。
「え、えぇと。そ、そう!これは元気になるおまじないなのよ」
我ながら苦しい言い訳だとは思うけど。
「そうなんですか?じゃぁ、私もジセル様の為におまじないしますので、教えてください」
信じた!えー・・・間違った感じでこの世界に伝わってしまうけど致し方ない。
「えっと。拳を握って元気よく上に突き上げて、『えいえいおー!』って唱えるのよ」
私は先程自身が行った事を再び実践してみせた。
「こ、こうですかね?え、エイエイオー!ジゼル様のお加減が早く快復なさります様に」
見様見真似でエイエイオーをやってくれたボニー。うぅ、騙してごめんね。
「ありがとう、ボニー。とても嬉しいわ」
「何かあればお申し付けくださいませね」
「ありがとう、もう大丈夫だからボニーは部屋に帰っていいわ。あ、夕食は要らないから、今日はこのまま寝るわね。おやすみ」
「ありがとうございます。それでは、ゆっくりおやすみくださいませ」
私はボニーを安心させる為にベッドに入ってベッドからボニーを見送った。
ふぅ。危ない危ない。危ないといえば、沢渡 杏の部屋だ。どうしよう。あんなオタク全開の部屋。両親はきっと見るよね。うわぁぁぁぁぁぁ!!!推しのキャラグッズとかポスターとかゲームのソフトとか、そして肌色多めの薄い本もちょこっとある。うわぁぁぁぁぁ!!!私はベッドの上でごろんごろんと寝転び悶絶した。
はぁ、はぁ、はぁ。しかし、もうどうしようも出来ないのでこの事は早急に忘れる事にしよう。
気付けばもう夕刻をとっくに過ぎており、どれだけ考え込んでいたのだろうか。私は再度紅茶を淹れてテーブルに座りなおし、両肘を立てて手を組んでその上に顎を乗っけた。
よく考えたらこの状況・・・すんごくおいしい状況じゃない?アンジュと一緒に居れば色んな殿方とお近づきになれるし、声が声優さんと一緒ならいう事無し!!うふふ。私の学園生活はきっと素晴らしいものになるに違いないわ!
攻略対象とは付き合えなくてもいいの!てか、ゲームの中ならともかく実際に付き合うなんてとんでもない!おこがましい!それはアンジュのお仕事なんで、私はそれを愛でるだけ・・・。くぅーーー!楽しみすぎて今夜はもう眠れないかもしれない。
◆◇◆◇◆◇
ピ・・・チチチッ チュン チュン
ふぁ?朝か・・・。って、なんだかんだ言って私寝てたんじゃない!自分の神経の図太さに我ながら感心する。
今日はえぇと、月の日だから学校があるわね。こちらでは曜日という呼び名は無く、つき、ひ、みず、き、かね、つち、にち、〜の日という呼び方をする。順番は日本の曜日と同じなんだけどね。因みに学園は土日休みである。
コンコン
「おはようございます。ジゼル様、お加減はどうでしょうか?」
「おはようボニー。起きているから部屋に入ってもいいわ」
「では、失礼します」
私は既に制服に着替え終わり、後はボニーに髪を整えてもらうだけだ。
「昨日、ボニーがおまじないしてくれたおかげで随分と調子が良くなったわ」
「まぁ、ジゼル様。その言葉が聞けて何よりでございます」
ボニーは私の髪の毛を慣れた手つきで櫛でとかしてくれた。私の髪はふわふわの癖っ毛なので、人に髪を整えてもらった方が早いのだ。
アンジュみたいにサラサラの髪の毛が良かったなぁ。光に当たるととっても綺麗なんだから。光の中のアンジュはまるで本当に天使みたいなのである。そりゃぁ、殿方も放ってはおかないわよね。そして・・・その分同性からの風当たりはキツイ。ゲームでもエルミール嬢にそれはそれは苛められ・・・っ!そうよ!私はエルミール嬢も牽制しなくてはいけないんだわ!
両親と歳の離れたお兄様は領地の視察に出かけているので暫く私は一人きりで食事を取らなくてはいけないのだ。寂しくても家族は皆忙しいのでしょうがない。
私は朝食を食べながらエルミール嬢対策を考えていた。まず、アンジュを呼び出されないようにガードしなくてはいけないし、でもずっとベッタリでもアンジュが殿方と過ごすイベに参加出来なくなるし。うまい事スケジュール管理をやらないといけないわ・・・。あぁでもアンジュが呼び出されて、それを殿方が庇うというイベントもあるし・・・。
「ジゼル様!ジゼル様!!零してますよ!」
「えっ、あぁっ!!!ごめんなさい」
パンもボロボロ零しているし、サラダも殆ど口に入らずに下に落ちちゃっているしこれじゃ令嬢失格じゃない!あぁ、もう少し私に賢い脳みそがあれば!!お兄様は有能な方なのに。私はこんなんで・・・。まず嫁の貰い手はなさそうである。
「まだお加減が良くないのでは?学園はお休みになられた方が・・・」
「大丈夫!!!大丈夫だから馬車の用意をお願いね」
「・・・かしこまりました」
私はそのまま食事を終了し、馬車に乗って学園に向かいました。
本日2回目の更新です。
ここまで読んでくださり、有難うございましたm(__)m
10/15ボニーのお嬢様呼びをジゼル様呼びに変更しました。
10/16アルド様の名前がアドレ様になっていました。修正しました!