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第19話

 プレアデスと私の共通の前世を知り、ただでさえ混乱しているというのに更に卒業の日に告白をするという宣言までされて頭の中はキャパオーバーで情報処理能力が追いつかない。


 えっと、プレアデスは私の事を好き・・・。


ズクンッ


 卒業式までその気持ちを我慢するの?また我慢・・・させてしまうの?


“俺はいつまで我慢すればいい?”


 元カレの言葉が私の胸を刺す。


“俺とお前は合わない”


 そ、そうよ。きっと卒業式には気が変わるわよ。元カレとのトラウマが私の心の傷を広げていく。


「そ、そんな事を言っていてもきっと卒業式まで私を好きで居続けるなんて、そこまで我慢する事なんて辛すぎて出来ないと思うわ。それに、貴方とはまだ、会ったばかりだし。私の事もアンジュの事だって良く知らないじゃない。だから私の事はさっさと諦めた方がいいわよ」

「何言ってんだ。惚れた女の為に我慢するのなんて余裕だろ。我慢した先にご褒美が待ってるんだぜ?」

「え・・・?」


 辛くないの?好きだから我慢できないんじゃないの?


「つうか、我慢できねぇやつの方がおかしいだろ。ガキじゃねぇんだから」

「え・・・。てか、プレアデスは前世の享年いくつなの?」

「28。独身・彼女居ない暦年齢と一緒・・・。だからって別に飢えてた訳じゃねぇからな!『こいつだ!』って女に出会ってなかっただけで」

「私よりも年上だったんだ・・・。私は26歳だったわ」

「そっか!家も近所だったみてぇだし、死ななけりゃ何かのきっかけで出会っていたかもしんねぇよな!」


 確かに・・・。


「で、でもあの時は私スッピンだったし、しかもパジャマだったし、その姿ではあんまり出会いたくはないかなぁ・・・」

「プッ。そんなん気にしねぇよ。その代わり、こっちで俺たちは出会ったんだ。こうしてお前と会えて、俺的には死んで良かったって思うんだけど」


“『こいつだ!』って女に出会ってなかっただけで”


 っていう事は、『こいつだ!』って女は私の事だって言ってる、んだよね・・・?わ、わぁぁ・・・。


「あの、プレアデスはロリコ・・・」

「あのなぁ!!そりゃ精神年齢とは一回りも違うけど、お前の仕草とかが可愛くて。別に誰でも良い訳じゃねぇし、お前以外の女子生徒の事は別になんとも思わねぇし・・・って、俺だっていい加減面と向かって気持ち伝えんの、恥ずかしいんだからな!!あー、もうロリコンでもなんでもいいや!」

「ごめん、拗ねないでよ。その・・・嬉しかったわ」


 この人なら、私のトラウマを、傷跡を消してくれるかもしれない。けど、アドアンの世界の揺るがない掟・・・恋愛フラグばかりはどうする事も出来ないのではないだろうか。


「なぁ、今日も泊まっていかね?」

「な、何言ってるのよ!調子に乗らないで!ボニーとユミルも心配しているだろうし帰るに決まってるでしょ!」

「ちぇーっ!」


 あぁ、もう。なんだか調子が狂ってしまうわ。明日はお兄様が帰ってくる日だし、とっとと帰らなくては。

 プレアデスに送ってもらい、1日ぶりの我が家に帰ってきた。


「ジゼル様!お帰りなさいませ!」

「お嬢様、お帰りなさいませ!」


 ボニーとユミルが出迎えてくれた。私がいつ帰ってきてもいい様に待機してくれてたのだろう。この世界には電話やスマホなど文明の利器が無いので連絡を取るのに不便である。早馬を走らせたり、手紙を出したりとアナログな環境なのでちょっとした行き違いなども多い。

 緊急を要する時などは、連絡手段が無い為、“アポ無し行動”になってしまうのである。


 そう、今夜みたいに。


「ジゼル!!今帰ったよ!!」


 私が帰って暫くしてから兄が帰ってきたのだ。


「お、お帰りなさいませ、お兄様。お帰りは明日だと思っていましたわ・・・」

「早くジゼルに会いたくて!急いで帰ってきたんだ!あぁ、僕の可愛いジゼル。先日は怖い思いをした様だね・・・。この僕が帰ってきたからには寂しい思いをさせないからね!」


 お兄様は、帰ってくるなり私をぎゅうぎゅう抱き締めて離さない。しかし、あっぶなー。もう少し帰りが遅くなっていたらプレアデスと鉢合わせして大変な事になってたわね・・・。ボニーもユミルもお兄様の急な帰還に慌てて食事等の支度をしに行った。


「何を仰っているのですか、ジルドラ様。“一時帰宅”ですから、今週の土の日には戻らなくてはなりませんからね」


 お兄様の後ろからやってきたのはお兄様付きの執事のイアンだ。お兄様より少し歳上の26歳でかなりのキレ者でお兄様の暴走を唯一止められる手腕を持つ、眼鏡をかけた渋いナイスガイである。


「お兄様、私はご覧の通り無事ですし何の心配も要らなかったですのに」

「何を言ってるんだよ!ジゼル。少し痩せた?痩せたよね?兄が居なくて寂しい思いをさせちゃったよね。これからは兄がずっと傍に・・・」

「だから、一時帰宅だって何度も言ってるではないですか。覚えられないのですか?もしかして若年性アルツハイマーですか?だとしたら療養所(サナトリウム)に収容しなくてはなりません。ジゼル様とも会えなくなってしまいますね・・・とても残念です」

「〜〜〜イアン!!わかった!わかったから!ねぇ、ジゼル。今度こそ兄と一緒に視察に行こう!うん、これなら良いだろ」


 兄は相変わらずな感じである。どこでどうこじらせたら、こんなにシスコンに育つのだろうか。


「お兄様、ジゼルも、もう16です。こどもでは無いのですからやめてください」

「まだ、こんなに可愛いこどもじゃないか♪」


 お兄様は私をヒョイッと持ち上げるとそのままグルグル回りだした。


「やっやめてください!!」

「お前はこうやって遊ぶのが好きだったではないか」

「それは幼少期の話で・・・昔とは・・・ちがっ・・・」


 ぐぇぇ・・・!気持ち悪い。この見た目?この見た目ね?いつまでもミニマムな私の見た目では成長しているのかわからないんだわ!


「・・・・・・これ以上やったら嫌いになりますわ」


 私はドスを聞かせた声で兄の暴挙を止めた。すぐさまストン、と下に降ろされた。


「ご。ごめん。ジゼル!久々の生ジゼルで嬉しくてテンションが上がってしまったよ」

「生ジゼルとか変な事言わないでください。変態みたいですよ」

「あぁ・・・いいよ・・・ジゼル。久々に会ったのに、その蔑んだ目と容赦の無い言い方・・・」

「気持ち悪いです」


 いや、先程の発言を訂正しておこうか。兄は変態みたいではなく、変態である。

 それなのに。私を理想のレディに仕上げる為に躾には厳しいのだから厄介である。


 兄は私よりも少し淡いピンクの髪で、腰まである髪を首の後ろで束ねている。私の兄だけあって、164cmと男性にしては小柄ではあるが、スマートで軽やかな振る舞いがレディ達の間で人気を博している。

 縁談も沢山舞い込んできているはずなのだけど、受ける様子が全く無い。生涯独身でも貫くつもりだろうか?


 食後、縋り付いてくるお兄様を振り切ってさっさと部屋に戻ってきた。ボニーとユミルに昨日のことを侘び、昨日私が溺れてから目覚めるまでの話を聞いた。


「お嬢様が溺れてからすぐに、プレアデス様がいらっしゃいまして、お嬢様を引き上げると、それはそれは鬼気迫るご様子で救命処置を行われ・・・。あぁ・・・救命の為とはいえ、お嬢様とプレアデス様が唇を重ねているのを見て私、不謹慎にも萌えてしまいました!」

「ユミル!!いくらなんでも、はしたないですよ!」

「すっ、すみません。ボニーさん。でも、あの時のプレアデス様はとても格好良かったです」

「ユミル・・・あなた・・・。ジゼル様、プレアデス様は、その後すぐ様ジゼル様をお屋敷にお運びになって、お医者様に見ていただいた次第でございます」


 うっ・・・。自業自得とはいえ、なんとも情けない。もう少しで命に関わる所だったのだ。自分の無謀浅慮の行動を後悔してもしきれない。

 しかし、私のファーストキスは私の意識の無い所で済んでしまっていた。ま、まぁ、相手がプレアデスで良かった。


 ・・・・・・ん?良かった?


 プレアデスの前世、私の前世。同じ日に亡くなった偶然。そして、今この世界で出逢った偶然。それは偶然なの必然なのか。

 プレアデスの事はアンジュの攻略対象者だと思ってはいるが、違っているといいな、とも思い始めていた。

ここまで読んでくださいまして、ありがとうどざいました(^^)

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