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第18話

「アルド様、暴力はおやめください!」


 アンジュが果敢にもアルド様の前に出て、両手を広げて止めに入った。


「だ、大丈夫?プレアデスっ!」


 アルド様に殴り飛ばされて床に尻餅をついたプレアデスに駆け寄る私。アルド様、何故こんな事を・・・。


「ってぇ・・・」

「大変!口が切れて血が出ているわ!」


 えっとハンカチ・・・は、アンジュの涙を拭いたやつだから・・・。私は制服のリボンをシュルッと取ってプレアデスの口に、当てた。


「冷やした方がいいわ。立てる?」

「あぁ・・・。悪いな」


 立ち上がったプレアデスを支えて教室を出ようとした時に、アルド様が声を荒げた。


「ジゼル!そんな奴の事は放っておけ!プレアデス。よりにもよってジゼルに手を出すとは・・・」

「アルド様!いい加減にしてください!!行きましょ、プレアデス」

「ジゼルっ!何故そいつを庇う?」

「プレアデスは私の命の恩人だからです!アンジュ、先に帰ってて」

「わ、わかりました!」

「アルド様は少し頭を冷やしてください」

「ジゼル・・・」


 何で手を出された本人の私が怒っていないのに、アルド様が怒ってるのよ。アルド様は全くの部外者じゃないの。殴るなんてとんでもないわ!

 私はプレアデスと初めて会った裏庭の薔薇の広場に来た。

 ベンチに座ってもらい、私はリボンを水で濡らしプレアデスの口元に当てた。


「てっ・・・!!」

「あっ、ごめんなさい!痛かった?」

「ちょっとな。あのやろ、思い切り殴りやがって」


 アルド様は士官学校を出ているのだ。士官学校で鍛えられたアルド様のパンチの威力は相当なものだと思う。


「アルド様は私の兄の様な存在なので、妹の私を心配しての事だとは思うのだけど・・・」

「はっ!?いやいや、ちげぇだろ。好きな女に手ぇ出されたからキレたんだろが」

「いや、それは無いっ!絶対!!」

「だから、何でだよ?」

「それは・・・」

「・・・なぁ、ジゼル。お前初めて会った時に俺の名前を昴だと言ったよな?」

「えぇ。外国の言葉で・・・」

「違うよな?」


 プレアデスが私の目をジッと見つめる。真剣な顔。まるでその漆黒の瞳に吸い込まれてしまいそうな錯覚に陥る。しかし、彼は何故私の言葉を否定するのか。


「・・・え?」

「昴は日本語だ。お前の言っている恋愛フラグは、恋愛ゲームで使う言葉だよな?」

「な・・・んで・・・それを・・・っ!?」


 私は心臓を鷲掴みにされた様な衝撃を受けた。プレアデスは、日本語と恋愛ゲームを知っている・・・。

 プレアデスは、プレアデスの口を冷やしている私の腕を掴み、静かにこう言った。


「俺の前世は日本人だ」


 日本・・・人。プレアデスの前世が日本人。余りの衝撃に動揺して、直ぐには言われた言葉を飲み込めず、頭の中で何度も反芻(はんすう)する。


「ジゼル、お前もそうなんじゃねぇのか?」


 私も、プレアデスと同じ・・・。


「うわぁぁぁっ!!ごめん!泣かせるつもりはねぇんだ!ただ、あの時ジゼルが口にした昴という懐かしい響きが耳に残っていて、その。嬉しかったんだ」


 プレアデスに言われて気付くと、ポロポロと涙が出ていた。あれ?泣きたくなんてないのに。

 

「・・・・・・っ」


 言葉が出てこない。頭の中は真っ白で、ただただ泣きながらプレアデスの瞳を見つめ返す事しか出来なかった。


「〜〜〜〜〜っ!!」


 次の瞬間、私はプレアデスに抱き締められていた。それによって開放されたリボンを持った腕はダランと垂れた。


「お前、泣きながら見つめてくるとか、反則だろっ!」


 力強い腕、逞しい胸。そして聞こえてくる少し早めの心臓の音。あぁ、彼は今ドキドキしているのか。私に対して・・・。私に・・・。

 その時、今までぼぅっとしていた私の頭が妙にスッキリとして、途端にいろんな感情が押し寄せてきた。

 

「ひゃぁぁぁぁぁっ!?」


 まず、羞恥心。やだやだ、近い!プレアデスの体温が、心臓の音が!!私の心臓も負けないくらいドキドキしている。


「なっ、なんでっ!プレアデスが日本人!?えっ?昴もフラグも知ってる!?」


 次に警戒心。プレアデスは本当に前世が日本人なのか、これは私に都合のいい夢なのではないか。若干韻を踏んでいる。


「し、正体がバレたら消されたりしないかなっ?」


 謎の疑問。魔法少女みたいに、正体がバレたら不味いのでは?


「ハハハハハッ!お前、動揺しすぎだろー」

「だって・・・!」

「まぁ、その話は後でゆっくり話そうぜ。もう陽が落ちかけて暗くなってきたし」


 プレアデスが立ち上がって、私の前で跪いて私に手を差し出した。


「送っていきます、プリンセス」


ズッキューーーーーン!!!


 う、嘘、嘘ウソ!!何やってんの?プレアデス!下から見上げる表情とかそのセリフとか・・・。はわわわっ!声が声だけにヤバいですぞ!?


「ハハッ。乙女ゲーとかのキャラってこんな感じだよな!」

「も、もう!乙女ゲームを笑わないでっ!!」

「おっ?元気出たか?こういうの好きか?お前が元気になるなら、いくらでも乙女ゲーごっこしてやるよ」

「要りません!!もう〜〜〜!」

「ハハハッ、ごめんごめん」


 私は差し出された手を乱暴に掴んで立ち上がった。そして、軽い言い合いをしながら広場を後にした。


ガサッ


「良い事を聞いてしまいましたわ。ニホン。聞いた事が無いですけどあの二人にとって、重大な秘密みたいですわね。二人の後をついてきて正解でしたわ。あの憎きジゼルを失墜(しっつい)させるチャンスですわ・・・」


 ジゼルとプレアデス。二人が立ち去るのを待って、先程まで二人が座っていたベンチの後ろの薔薇の繁みから出て来た一人の少女は、そんな独り言を呟いた。



 プレアデスのお屋敷はこう見るとやはり我が家の屋敷よりも立派な造りである。

 私は着替えを持ち、プレアデスの部屋のテーブルの椅子に座って紅茶を頂いていた。


「俺の前世は、しがない公務員で大晦日の夜、初詣に行こうとダチと歩いていた所にコンビニから出て来た錯乱した男に刺されて死んだみてぇなんだよな」


 プレアデスがポツリ、呟く様に話しだした。

 コンビニ、大晦日・・・!


「私も大晦日・・・。201X年の大晦日の夜にスマイルマートに買い物に行って・・・強盗に首を圧迫されて・・・」

「おい・・・。ちょっと待てよ?俺と死んだ日付が一致するぞ!確かアイツが出てきたのもスマイルマートだ!じゃぁ、俺らは同じ日に同じヤローに殺されたって事か!?」


 信じられない・・・。何て偶然なの。それとも何か意味があるの?


「この世界は・・・、私が直前までプレイしていた乙女ゲームの世界なのよ」

「は!?」

Adorer(アドレ) un(アン) ange(アンジュ)。アンジュが主人公の乙女ゲームよ。そして、私はアンジュの恋のサポートキャラ、ジゼル」

「お、おい・・・」

「攻略対象は全部で6人。アルド様、スティード、ルシアン様、カミーユ様、エリク様。そして来年入学してくるフェルナンド。後は隠しキャラが居るはずなんだけど、私はこのキャラをプレイする前に死んでしまったから誰か、まではわからない。で、学園を卒業する日にその攻略対象者達から告白されるまでをプレイするゲームよ」

「待てって・・・」

「私は、その隠しキャラをプレアデス(あなた)だと思っているわ」

「何を・・・言っているんだ!?」

「だから、私じゃなくてアンジュに恋愛フラグが立つはずなのよ」

「おっ、俺じゃねぇよ!だって俺が好きなのはお前なんだから!!」

「あ、アンジュの事を知ったら、きっとアンジュを好きになるわ」

「ならねぇ!まだ短い時間しかお前と一緒にいねぇけど、お前の事わかってきたぞ。多分俺が今、何を言ってもお前は信用しねぇ。だから、そのお前の言う、3年後の卒業式の日にお前にもう一度告白してやる!」

「え・・・」

「俺たちは約3年間同じ学園で過ごすんだろ?だからその間に俺がアンジュを好きになったらお前の勝ち。でも変わらずお前の事が好きだったら俺の勝ちだ。まぁ結果は見えてるけどな。証拠を見せねぇと納得しねぇだろ?俺はお前とエンディングってやつを迎えてみせるぜ」


 ちょ、ちょっと待って。こんなサイドストーリーはゲームに出てこなかった。攻略対象者がサポキャラを好きとか。そもそも、攻略対象者が転生者とかって展開想像もしてなかったんだけど~!!

ここまで読んでくださいまして、ありがとうございました┏○ ペコリ

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