第17話
本当に私はなんて愚かだったのだろう。一国の王子様を滝に飛び込ませたり、一緒に寝たりと。
「あの、殿下の言う事とは・・・っ?」
「それ。殿下とか、様とか敬語をやめろ」
「いっ・・・いえ!そんな滅相もございません!」
「あー!!これだから身分明かすの嫌なんだよ。ジゼル。こんな卑怯な真似はしたくねぇけど、しゃーねぇよな?うん。だって普通に言っても聞きゃぁしねぇんだもんな?」
「は、はい?」
「ジゼル。命令としてもう1回言うぞ。俺を殿下とか、様付けで呼ぶな。呼び捨てにしろ。で、敬語もやめろ。いいな?これはお願いじゃなくて命令だからな!」
「そっ、そんな!!」
そんな無茶苦茶な。幼い頃から一緒に居たアルド様ならまだしも、会ったばかりの王子様相手に呼び捨てとかタメ口とか・・・!
「ぷ、プレアデス・・・」
「はいよ。良くできました。しゃっ。理解できたら飯食って学園に行くか」
意を決してプレアデスを呼び捨てにしてみると、プレアデスは嬉しそうに笑って私の頭をクシャッと撫でた。
制服に着替えて、朝食をご馳走になって、プレアデスと一緒に登校すると、黒髪長身のプレアデスが目立つので私達は注目の的になってしまった。
「ジゼル様と一緒にいらっしゃる方はどなたかしら。初めて見るお顔ですけど」
「ちょっと!ジゼル様また素敵な殿方と一緒に居ますわよ」
「この学園のめぼしい人達は皆ジゼル様が目をつけてらっしゃるのよねぇ」
「あ〜ぁ。王子の従姉妹様はやりたい放題でいいわね」
うぅ、またこんな。言っときますけど確かに色んな殿方とお話したり仲良くなったりはしたけど、ビッチでは無いからね!
「はは、お前スゲー言われようだな」
「しょうがないじゃないですか。それが私の使命なんですから」
「使命?・・・ってか、敬語!」
「あっ・・・!もう〜!頭が追いつかない〜!」
一度この人の事を王子とは認識してしまったら自然と敬語になってしまう。
「ジゼル、おはようございます」
「アンジュ!おはよう」
金の日にケンカ別れみたいな感じになってしまったが、変わらず声をかけてくれるなんて、どこまで優しいのだろう。
「あの、その方は?」
「こちら、隣国プラネタリアの第一王子のプレアデス様よ」
「そうなんですね!初めまして、プレアデス殿下。私はアンジュ・オーランシュと申します」
「あー、サーチブルク公爵の義娘か。宜しくな」
「アルド様がよくお話していた方ですね。ジゼルともお知り合いでしたか?」
「うーん。話せば長い様な短い様な・・・。私が愚か過ぎる話になってしまうけど・・・」
私は先週のサボりと、昨日の事をキスとか同じベッドで一緒に寝てしまった事は伏せて説明した。
「まぁっ!何て危ない事を!!ジゼルは私の為に離れると言いましたけど、心配でそれどころではありません!」
「面目無いッス・・・」
「んじゃ、俺職員室行かなきゃいけねぇから、先行っててくれ」
「わかったわ、プレアデス。後でね」
私達はプレアデスと別れ、教室に向かいました。少し強引で王子にしては口の悪いプレアデス。キスまでしておいて何なんだけど、私は、プレアデスは間違いなくアンジュの攻略対象者だという事に確信に近いものを感じていた。あんな濃いキャラが脇役なハズがない。ましてや、隣国の王子という高い身分・・・。私よりアンジュの方に縁談が来るはずだ。まあ、無いとは思うけど、私に縁談が来てもそれは恋愛フラグでは無いわ。相手は私に恋愛の情を持たないのだから、政略結婚として生涯愛の無い生活を送るんだわ。そんなのはまっぴらごめんよ。私だって嫁ぐからには恋愛結婚がしたい。今度こそ幸せになりたい。
だから、攻略対象者じゃない人に目を向けなくては。
「ジゼル、ごめんなさい。私ジゼルにあまり頼らないようにするから、一緒に居させて欲しいのです」
アンジュが私の席の隣に立って拳を握り締めて微かに震えている。
「アンジュ・・・。謝るのは私の方だわ。貴女の未来を案じているのは確かだけれど、貴女を傷付けてまで無理に事を進めるべきでは無かったわ。・・・凄い反省してる」
「ジゼルっ!あぁ、私がしっかりしていないから、嫌われてしまったのかと思いました」
「嫌う訳がないじゃない、大好きよ」
「私も、私もです!ふぇ・・・っ」
「ちょっ!アンジュ!?何も泣く事っ・・・あぁ、はい。これで拭きなさいよ」
私はハンカチを差し出し、ポロポロとアンジュの大きな瞳からこぼれ落ちる涙を拭った。
・・・さて、これで振り出しに戻ったけどどうしたもんかしらね。
「ジゼル、お前がアンジュを泣かしたのか?」
「あ、アルド様!いえ!・・・じゃない。私がアンジュを傷付けてしまいました」
「アルド様!ジゼルは悪くないのです。私がアルド様やジゼルに頼りきりでしっかりとしていないから、・・・だからジゼルに言いにくい事を言わせてしまったのです」
「そうか・・・。フッ。お前らは本当に仲がいいんだな。まるで本当の姉妹みたいだぞ」
うん。今回の事は思い切り反省しなくてはいけない事だけど、私とアンジュ、お互いに思っている事を言えた気がする。前よりももっと仲良くなれた気がする。
「じゃぁ、仲直りしたご褒美にアンジュと私をスノーフレークを見に連れて行ってください」
「やれやれ。俺はお前の親では無いぞ!」
「アルド様、お願いします」
「うっ!アンジュまで・・・。仕方がないな!次の土の日に出かけるぞ!」
「わーい」「ありがとうございます。アルド様」
私とアンジュは手を取り合って喜んだ。うん、いつもの私達だ。そして、諦めの悪い私は密かにアルド様とアンジュの恋の成就計画を練ることにした。
朝から色々あったけどようやく放課後である。
プレアデスはまさかの同い年だった。私よりも歳上だと思っていたのに。そして、私達のクラスに転入となりアンジュの隣の席となった。
プレアデスとアンジュ。二人並んだら溜息が出るほどお似合いの二人だった。
キスをしてしまった事実は消せないから、せめてアンジュにはバレない様に墓場まで持って行かなくては。
そう思っていたのだが―――
「ジゼル、一緒に帰ろうぜー」
「プ、プレアデス!い、いえ今日はアンジュと・・・」
「ん?お前の着替えとか俺の部屋に置いたままだぞ?」
「ひぃぃぃぃぃ!!」
「ジゼル?どうしたのですか?」
「おい、プレアデス。どういう事だ?何故お前の部屋にジゼルの着替えがある?」
ぎゃぁぁぁぁ!アルド様には説明してなかったー!!
「どういうも何も。昨日一晩同じベッドで過ごした仲だけど?」
「なっ!?ジゼル!?お前・・・?」
「ちょっ、ちょっと!プレアデス!こっち!」
私はプレアデスを教室の端っこに連れていき、二人になんて事を言うのかと糾弾した。
「えー?先手必勝の牽制だけど?ジゼルを取られねぇ為に。アルドだって例外じゃねぇからな」
「そんなの心配しなくても大丈夫だってば!アルド様や他の殿方も、私とはフラグが立たないんだからっ」
「フラグ・・・?」
「だから、貴方だって私に対しての恋愛フラグは立たないんだから!」
私は興奮しすぎて自分が何を言っているのかわかっていなかった。
「・・・へぇ?フラグ・・・ねぇ。なぁ、ジゼル。じゃぁ俺がお前に感じている気持ちが間違っているとでも?」
「え?」
「俺はお前の事が好きだ」
ザワッ
プレアデスの発言に教室に居た人達全員が私達を注目している。プレアデス、一体何を考えているの・・・?
「好きでもないやつと一緒に寝たりしねぇし、キスだってしねぇよ」
「プレアデス、貴様っ!!」
バキィッ
プレアデスがそう言うと、アルド様がプレアデスを殴りつけたのだった。
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