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第16話

「おっ、お嬢様っ!おやめください!!」

「そんなはしたない格好で誰か来たらどうするんですか!?」

「大丈夫大丈夫!そんなに深くないし、ちょっとだけ・・・」

「いやいやいやいや、旦那様と奥様とジルドラ様に殺されてしまいますぅぅぅ!!」

「ジゼル様っ!ぐっ・・・力が強い・・・」

「うぎぎ・・・大丈夫だってばぁ・・・」


 ドドドドドドドッっという滝の音をBGMに、滝のほとりで攻防戦が繰り広げられている。やや優勢なのは私。

 滝壺に足を入れた状態でボニーとユミルに引っ張られているノースリーブの肌着とドロワーズ姿の私。


「・・・このままだと二人道連れにするからね?」

「ひぃっ!」

「それでも、ジゼル様を見捨てる訳にはいきませんんんーっ」

「煩悩を、滅するのよーーー!!」


ザッバーーーーーン


 やったわ!ボニーとユミルを振り切って滝壺に入った。よし、滝の下まで歩いてっ、歩いて・・・


トプンッ


 ぎゃぁあ!!滝の下は思っていたよりも深く私の身長をゆうに越えていた。このままじゃ煩悩どころか、私が消されてしまう!!


「おっ、お嬢様ぁぁぁ!」

「ジゼル様ぁっ!!こうなったら、私が・・・っ」

「おい、お前ら何をしているんだ?ん?・・・はっ!?嘘だろっ!?マジで何やってんだ!?」


 ガボボッ ゴフッ ゴボゴボ・・・


 やだ、上に上がりたくても滝の勢いで水底に押し戻されてしまう。この、息苦しさはあの時と同じ・・・ヤバい。


 次死んだらややこしい脇役では無く主役にし・・・て・・・。


ザバッザバッザバッ


「おい!ジゼル!しっかりしろ!!おいって!」

「ジゼル様っ、!」

「お嬢様ぁぁ!!」

「お前ら、ジゼルの侍女か?」

「は、はい!!グスッ!!」

「泣いてねぇでタオルと着替えの用意をしろ!」

「「はっ!はいっ」」


 参ったな。息をしていねぇ。男が滝壺からすくい上げた少女は青白い顔をしてぐったりとしている。まさか、溺れていた少女がジゼルだとは思いもよらなかった。

 

 ジゼルっ!戻って来い!!


 男は少女を地面に寝かせると、少女の顎を上げ鼻をつまみ自分の息を口移しで少女へと送り込んだ。

 2回ほど人工呼吸をしたら、少女の胸をグッグッと押して心臓マッサージを始めた。男は懸命にこれを繰り返した。


スゥーッ フゥーーッ スゥーッ フゥーー


 人工呼吸と、心臓マッサージ・・・。免許取る時に教わっといて良かったぜ。ジゼル・・・!ジゼル・・・!


スゥーッ フゥーーッ スゥーッ フゥーー


「うっ!ゲホッゲホッ!!」

「よしっ!!水吐いたし呼吸してるな」


何度めかの心臓マッサージでジゼルが息を吹き返した。ホッとした男は思わず少女を強く抱き締めていた。


「ジゼル様っ!」「お嬢様っ!」

「お前ら、すぐにジゼルを着替えさせろ。着替えが済んだら荷物を持って俺に付いてきな。俺のかかりつけの医者に見せる」

「はい!」

「ありがとうございます!」


 しかし、こいつは何でこんな事をしたんだ?まさか滝に打たれるつもりだったんじゃ・・・?

 滝に打たれるって発想はこの世界のもんじゃねぇよな。ジゼル、お前は一体何者なんだ?


「あの、終わりました」

「あぁ、じゃぁあそこの屋敷まで行くぞ」

「え、でも、あそこのお屋敷は・・・!」

「俺ん家だから安心しろ」


 俺はタオルでくるんだジゼルを抱きかかえ、屋敷まで走った。早くしないと、この腕の中の小さな少女が消えてしまう気がした。




「ふ・・・うん・・・?」


 あれ?この感覚・・・。ふわふわしていてまるで布団の様な・・・。布団?滝に居たのに?滝・・・滝・・・。

 そうだ!滝よ!私滝で死にそうになってたんだわ!


 ガバッと起きて辺りを見回してみた。どこかの部屋か・・・?部屋は薄暗く窓から月の光が差し込んでいる。

 ここ、どこだ??


「ん・・・?起きたのか?」


 えっ!?男の人の声!?しかもすぐ近くから聞こえるけど・・・!?

 グイッと身体を引っ張られ、誰かの腕の中へすっぽり入ってしまった。


「ひっ!ひゃぁぁぁぁあぁっ!?だ、誰?誰?誰?」

「おい、ちょっ!暴れんな」

「ひぃぃぃぃっ!!」

「落ち着けって!」

「はっ、放して・・・っ!むぅっ!?」


 頭を抑えられ、無理やり唇を塞がれた。ちょっ!?怖い!!


「ふぅっ・・・んっ!」


 頭がぼぅっとなり、背中がチリチリする。怖いはずなのに、キス、されているのに嫌じゃない。唇が離れると、そのまま男の腕の中に顔を埋める体勢になった。私を抱き、頭をなでる男の手は優しく、男の体温が温かく心地よい。


「・・・落ち着いたか?」


 私はコクンと頷いた。この男は私に酷い事はしない、そう確信があった。落ち着いて聞いたらこの声・・・。


「プレアデス・・・様」

「ん?覚えててくれたのか?」


 やはり、この男はプレアデス様であった。でも、何故私はプレアデス様と一緒にベッドに寝ていたのだろうか?

 

「あんまり、侍女に心配かけるなよ」


 ボニー、ユミル・・・。ごめんなさい。必死に止めてくれたのに。


「俺も滝壺で溺れていたのがお前で、助けた時には息をしていなくて心臓が止まるかと思ったぜ」

「じゃぁ、プレアデス様が居なかったら私は・・・っ」

「あそこは屋敷(ここ)から近くて、散歩してたら滝の方から騒ぎが聞こえてきたんだよ」

「来てくれたのがプレアデス様で良かった。プレアデス様は私の命の恩人ですね」

「そうか。俺も、お前を助ける事が出来たのが俺で良かったぜ」


 私はもう少しだけ、この温もりに甘えたいと思ってプレアデス様にぎゅっとしがみついた。


「っ!?・・・ジゼル、俺はお前の事が・・・」

「スーッ スーッ」

「なんだよ、寝ちまったのか。まぁ、そう焦らなくてもいいか。明日からはずっと一緒なんだからな」



◆◇◆◇◆◇◆


「ジゼル、起きれるか?」

「んー・・・。もう朝、ですか?って、わぁぁぁぁ!!」


 朝起きたらプレアデス様の顔がドアップだった。そうだった!私昨日プレアデス様と一緒に寝て・・・っ!一緒に、寝て・・・っっ。キス・・・したんだよね?わっわぁぁぁぁ!!!殿方と一晩を共にしてしまったぁぁっ(語弊)!!


「そろそろ手ぇ離してくれねぇと着替えも出来ねぇんだけど。・・・それともずっとこうやってくっついてようか?」

「わぁぁっ!すいません!私ったらはしたない!」


 私は急いでプレアデス様の服から手を放した。ヤバい、昨日は暗くて顔も見えなかったから良かったけど、朝日が差し込んでこうして全貌がハッキリとなったら、とてつもなく恥ずかしい。


「俺は今日から学園に行くけどお前は身体が辛かったら休んでろよ」


 そうだ。今日はもう月の日だったんだ。


「制服が無いので、一度帰ります」

「制服なら、昨夜お前の侍女に持ってこさせたからあるぞ」

「えっ?」


 そういえば、ボニーとユミルはどうしているのだろうか。何故あっさりとプレアデス様の元に私を残して行ったのだろう。私の命の恩人だから?いや、それはまた話は別よ。

 この部屋の調度品といい、プレアデス様の振る舞いといい、プレアデス様はもしや、高貴なお方なのでは!?


「あ、あのプレアデス様は隣国プラネタリアからいらっしゃったんですよね」

「そうだ」

「あの、もしかして・・・王家と関わりが?」


 アルド様から聞いたことがある。隣国の王家に私達と同じ年頃の王子が居て、王子同士で遊んでいたと。まさか。


「俺はプレアデス・シュテルン。プラネタリアの第一王子だ」


 シュテルン。隣国の王家の苗字だ!流石に隣国の王の名前は知ってる。私はすぐさまベッドから降りて膝をつき、プレアデス様に向かって頭を下げた。


「プレアデス様がシードゥスの友好国プラネタリアの王子とは知らなかったとはいえ、大変無礼な事をしてしまいました。これは私の個人の問題ですのでどうか、シードゥスに対する処置は勘弁して頂きたく・・・」

「かてぇな。さっきみたいに普通に話してくれよ。それに、俺には女を跪かせる趣味はねぇよ」


 プレアデス様は私をひょいっと持ち上げるとベッドに座らせた。いやいや、私一人のせいで国際問題にでも発展したら・・・お父様やお母様、お兄様・・・っ。


「そんなに震えるなよ。何もしねぇから。うーん。ダメか?あ、そうだ。なら俺の言う事聞いてくれれば相殺っつー事で、この件は無かった事にしないか?」


 ベッドに座らされて尚も頭を下げ続ける私にプレアデス様がそう提案をした。

ここまで読んでくださいまして、ありがとうございました┏○ ペコリ

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