第14話
土の日の今日は学園が休みである。本来は何をしようかとウキウキな休日なのだが、昨日アンジュに距離を置くという発言をしてしまった事で酷く落ち込んでいた。
自分がサポキャラとして不甲斐ないのが悪いのに、アンジュにやつあたりみたいな事をして・・・大人気なかったわ。
あーーーーーーー、だるいだるいだるい。もういっそこのまま布団から出ないで暮らしたい。
どうしようか・・・。アンジュが聞いてこない以上机の中の手帳は必要ないのかもしれない・・・。サポキャラじゃない私の存在意義って何なのかしら・・・。
「あ、ちょっと、困りますっ!今お嬢様はっ!」
バンッ
へ?ユミルの静止の声と共に私の部屋のドアが勢いよく音を立てて開いた音がした。
「ジゼル、どうした?具合が悪いのか?」
この声はっ!!アルド様!!私は慌ててベッドから飛び出して気をつけをした。なんか軍隊みたいね。うっかり敬礼でもしちゃいそう。
「あ、あ、あ、アルド様?このような所に一体何の御用でしょうか?」
「10分待つ。それまでに出かける支度を整えて来い」
「え?え?え?話が見えな・・・」
「ジッ、ジゼル様、さぁ、準備を致しましょう」
「軽装でいいが、それなりの格好をさせろ」
「「はい!かしこまりました!!」」
アルド様は言うだけ言って部屋を出て行った。私にプライバシーってものは無いのでしょうか?・・・無いんでしょうね。しかしなんなの?一体。寝起きドッキリかなんか?
ボニーとユミルの手によって身支度が整えられていく。髪の毛も手の混んだハーフアップにされ、大きな紺色のリボンで飾り付けられる。
“軽装で”“それなり”という言いつけを守り、ドレスではなく上品な水色のストライプのワンピースにロング丈のドロワーズ、ショートブーツというコーディネートだ。
「あ、あのお待たせしました、アルド様」
おなじみサロンで待つ、素敵なアルド様。紅茶の入ったカップを持つ仕草も完璧です。
「・・・・・・っ!!」
私を見たアルド様が、一瞬固まりました。おかしな格好だったかしら・・・?
「そこの侍女!!」
「はっはい!!」
「いい仕事をしたな」
「こっ光栄でございます!!」
何やらボニーとユミルに言っていますけど、クレームじゃなかったらいいなぁ。
「では、ジゼル。行くぞ!」
「へ?ど、どこに?ですか?」
「城下町に行って、視察を兼ねた息抜きだ」
それって、公務って事ですよね?部外者の私は必要ですか?まぁ、逆らう事は出来ないけど。
アルド様の馬車に乗り、ゆらりゆられて城下町へ。アルド様は今日は機嫌がいいらしく、優しい微笑をたたえている。あ、今気付いたけど、アルド様の着ているシャツ、水色のストライプだ。えっ、これじゃなんだかペアルックみたいじゃない!そうか!あの時、ボニーとユミルに服が被ってるぞ!とか注意したんじゃないかしら。でも今はせっかく機嫌が良さそうだから蒸し返さない様にしよう・・・。
城下町手前で馬車が止まった。あら?どうしたのかしら。
「ここで降りるぞ」
「えっ?まだ城下町では・・・」
「ほら」
アルド様が先に馬車を降り、私に手を差し出した。アルド様はいつもこうしてエスコートをしてくれる。本当に完璧な人だなぁ・・・。。
私はアルド様の手を取り、馬車を降りた。・・・のにアルド様が手を放してくれない件。
「ここからは、歩きだ。今日はいい天気だから景観を楽しみながらゆっくりと行こう」
「あ、あの、アルド様。その、手・・・」
「ん?お前は目を離すと暴漢に襲われたり他の男に言い寄られたりと隙だらけで危ないからな。今日はこのまま手を繋いだまま歩くぞ!」
「えっ!!」
うわーーー!恥ずかしいんですけど!そして異性と手を繋ぐのは私のトラウマなんですけど!!あっ、でもあれか。これは兄妹としてだから気にする事は無いのかもしれないわね!手のかかる妹として扱ってくれている人に対して失礼よね。そう考えたら、お揃いのストライプ柄も兄妹ゆえに、と思えば納得が行くわ。
城下町までは両側の道なりに菜の花畑が続いており、お日様の光をたっぷりと浴びた菜の花が黄色く燃えている。
「わぁぁ!アルド様、菜の花の絨毯がとても美しいですね」
「あぁ。これを、お前に見せたかったんだ」
「え?ありがとうございます!嬉しいです」
「快活、活発、小さな幸せ」
「はい?」
「菜の花の花言葉だ。菜の花はお前の様な花だな。日向に咲く明るく元気な花」
「えっ?そんな、滅相もないですっ」
わー!わー!わー!なんだか照れ臭いです。ていうか、アルド様は花言葉にまで詳しいんだね。
「あ、じゃぁアンジュは何の花が合いますかね?」
「ん?そうだなぁ。アンジュはスノーフレークだな。純真、純血、穢れ無き心、みなを惹き付ける魅力ってとこか。この花も今が見頃だな」
「わぁ!アンジュにピッタリですね!次の土の日にでも、アンジュを誘って見に・・・っ」
そうだ。私が余計なお節介を焼くと裏目に出てしまうんだった。アンジュ自身に自発的に行動させなければいけないんだった。
「どうした?」
アルド様が心配そうに立ち止まってこちらを見ている。
「い、いえ・・・。急にお腹が空いてしまって!私ってば、はしたないですね」
「あぁ、俺が急かしたせいで朝食を食べてないからな。町まで後少しだから、町に着いたら何でも好きな物を食べるといい」
「本当ですか!?わーい。何に、しようかなー♪」
町に着いた時は昼に近く、私は遅めの朝食をアルド様は早めの昼食をとることになった。
お洒落なレストランに入り、一番いい席に案内された。ここはアルド様は何度も訪れているのだろう。アルド様は店主と気さくに会話をしている。そして、こうしてお供もつけずにお忍びで来ているにも関わらず、店側がアルド様だと認識してスムーズに一番いい席に案内が出来るなんて、店員の教育もしっかりしている。
いや、アルド様は目立つ御方で民衆の人気があるけども、それでもこうしてお忍びで来られると本人かどうか、似ているけどお供が居ないから確証が無い、と戸惑わないかなってちょっと思っただけなんだけどね。
まぁ、溢れでる気品は隠せないし、アルド様みたいな方は2人も居ないでしょうけどね。
「ここは、城の料理長の弟子が営んでる店だから味は確かだぞ」
「わぁ!楽しみです」
メニューには、やはり米は無い。まぁ、それは期待していなかったけど・・・ん、この、シーフードグラタン・・・。これだ!私のお腹が求めているのはこれだ!
「アルド様っ、私シーフードグラタンが食べたいです!」
「はははっ。お前は淑やかとは無縁だな。これではジルドラも手を焼いているだろう」
「すっ、すみません」
お前は自己主張が強い!と、いつもお兄様に注意されている所だ。もう少しおしとやかに控えめに発言をしなさいと。
「し、シーフードグラタンを食べてみたいのですわ・・・?」
「プッ。はははははっ!言い方を変えてみただけではないか・・・くくっ」
えぇー!何が正解なのー?アルド様は何かツボにハマってしまったらしく、肩を震わせて笑っている。
「はー。ジゼル。こういう時はな、聞かれてから答えるんだ」
「あっ!」
そうだった!殿方の方から・・・アルド様から、お前は何が食べたいのか?とか聞かれる前に自ら食べたい物を主張してしまったわ。はしたないっつーか、お前はどんだけ腹が減ってるんだよ、と思われても仕方が無い行為だった。
あぁぁ。お兄様がこれを見ていたらお説教コースだわ。
むむっ、これは私のレディとしての振る舞いの調査も兼ねているのね!よーし、受けて立つわよ!私だってちゃんとしたレディだって事をアルド様にお見せしなくては。
ここまで読んでくださいまして、ありがとうございました(^^)




