表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/92

第12話

 ちょっと待って、ちょっと待って!何故私がカミーユ様のキスをこの手に受けているのでしょうか?


「ちょ、カミーユ様!?あっあの、私・・・っ?」

「可愛いウサギちゃんは君の後ろに隠れてしまっているからね」


 あ、なーるほど。アンジュにキスしたくても出来なかったから仕方無しに私にしたのね。はーっ、ビックリした。でも、何故アンジュはシナリオ通りに動かないのだろうか。

 このままこうしていてもしょうがないので、カミーユ様に挨拶をして今日はこのまま帰る事にした。


「あ、あの、ジゼル・・・」

「なぁに?アンジュ」

「さっきはごめんなさい。私うまく対応出来なくて」

「ううん、沢山の殿方がわーって来たら怖いわよね」

「えぇ・・・」


 確かに運動部のあの勢いでこられたらアンジュが怖がるかもしれない。

 とりあえず、それで納得しておこう。たまたまかもしれないしね。


 今日もアンジュを送って行き、家に帰ってきたがなんだか疲れてしまって何もする気が起きない。起きないが、この髪の毛をどうにかしないといけないので、ボニーとユミルに頑張ってもらっている。


「くっ、クシが折れそうですっ!」

「うぐぐ・・・!私の首も折れそうなんだけど」

「朝よりも頑固になってますね!ジゼル様の髪の毛っ!くっ!」


 左右からクシで髪の毛をとかされる度にグイグイ引っ張られて凄い事になっている。


「蜜油に、この特製オイルと、山羊のミルクを合わせたものに、海藻をすり潰したものを混ぜて・・・髪の毛に塗って、暫く放置すると良いらしいです。このままお待ちくださいませ」


 私は、何やら得体のしれないものを髪の毛に塗られて、時間が経つのを待つ間にアンジュの事を考えていた。

 何か、引っ掛かるのよね。けれど、それが何かはわからない。

 入学してから一ヶ月。この頃までに出逢いイベントはほぼ終えて、ダンスパーティーの相手を決めるイベントに備えなくてはいけないのに、アンジュは何の対策もしていなかったし、私に殿方の情報も聞いてこない。ちなみにこのダンスパーティーイベまでに相手が決まらない場合は本番当日ジゼルと一緒に壁の花として終わる。

 

 おかしい。実におかしい。イベントというイベントが起きず、それどころかイベントが発生していてもアンジュはなんらアクションを起こさないし、アンジュそっちのけで話が進んでしまう。やはり、バグ説が濃厚か・・・。

 アルド様もなんだかアンジュに対して消極的じゃない?アンジュと話しているときよりも

、私の世話を焼いている方が多いし。あっ!私がそそっかしいせい?私がちゃんと自立して居ないからアンジュも私の事が心配で恋どころじゃなかったのかもしれないわ!

 確かに最近の私は暴漢に襲われてみたり、人の昼食のパン奪ったり、髪の毛染めたかと思ったら戻してみたり、髪の毛ごわごわになったり・・・。少し・・・、うん。少し空回っていたわね。うまく行かないのは私がダメダメだったせいでした・・・。


「お嬢様、湯浴みの準備が整いましたよ」

「ジゼル様・・・。少し落ち込んでらっしゃるご様子ですが・・・。良ければ後程ジゼル様のご趣味について語ってくださいませんか?その、ユミルにチラッと聞きまして私も、その、少し興味がありまして・・・」

「えっ!?ユミル、ボニーに話をしてくれたのね!いいわよ!ふふっ。同志が増えるのは良いことよ♪すぐに湯浴みしてくるわねっ♪」


 いけない、いけない。自分のダメさ加減にヘコんでたらボニーとユミルに要らぬ心配をかけさせてしまった。先程のボニーの発言はもしかしたら私を元気づけようとしただけかもしれない。だが、興味があるならこちら側に引きずり込むまでよっ!


 私は髪の毛をシャワーで念入りに洗い、バスタブに浸かり身体の芯を温めた。はぁぁぁ。ホッとするなぁ。来週にはお兄様が帰ってくるから、それまでボニー達と趣味の話を大いに楽しむ事にしよう。



「わぁ!お嬢様のふわふわが蘇りましたよ!」

「キューティクルも復活して、うるツヤ髪になりましたね!期待以上です!」

「うわっ、さっきまでのゴワゴワが嘘みたいね!あの得体の知れないクリーム、侮れないわね」


 お蔭様でごわごわでクシも通らなかった私の髪の毛は元通りになり、いつものふわふわピンクのジゼルちゃんが帰ってきました!さてと・・・。


「紅茶でも飲みながらお話しましょうか」

「そうですね、私、お茶とお茶菓子を用意してきますね」

「じゃぁ、ボニー、私達は座って待ってましょ」

「はい。では、失礼します」


 この屋敷には、他に料理人と庭師とメイド数人が残っている。他の使用人はお父様とお母様、そしてお兄様の視察に同行している。

 私付のメイド、ボニーとユミルは私と歳も近く話も合うので、この二人が私のお世話をしてくれて本当に助かっている。


 ボニーは20歳で、男爵家の令嬢である。ユミルの先輩にあたるのでユミルの教育係も兼ねている。しっかりしていて濃い茶色の髪の毛を一つのお団子にキッチリとまとめている。そのせいか実年齢よりも上にも見えてしまう。しっかりとし過ぎて融通が聞かない所が玉にキズだが、頼れるお姉さんである。


 ユミルは18歳でこの屋敷で働く人達の中で一番若い。師子爵家の令嬢であり、私と良く話が合う。歳上だがお姉ちゃんというよりは対等な友達みたいなイメージである。少し赤みを帯びた茶色の髪で、耳の下位までのフワッとした髪型でフェミニンな印象だ。


 この二人だって年頃なんだし、いつお嫁に行くかはわからないが、それまではこうして仲良くしたいと思う。


「お待たせしました。お茶請けのクッキーとスコーン、紅茶に入れるジャムをお持ちしましたぁ」

「ふふ、女同士の密会ね」


 最初にBLの話を聞いたボニーは顔を赤らめて、恥ずかしがっていたが、段々と好みを主張する様になっていた。どうやらボニーは年下×年上カップルが好きらしい。年下と言ってもショタでは無さそうだった。ユミルは逆に歳上同士の熟年カップルが好みだというのだから人の好みは様々で面白い。

 まさか、この世界でBL談義が出来るとは夢にも思わなかったけど、恋愛すら奥手な風潮なのでこういった刺激的な話は逆に受けるのかもしれないと思った。

 絵の上手い人で衆道に理解のある女子、そこら辺に居ないかしら・・・。小説の挿絵とか、漫画なんか描いてもらえたらいいんだけどなぁ〜。

 ん・・・。美術関連かぁ。そういや、エリク・ロワンティーヌがアーティスト活動してるわよね。エリク様のお知り合いとか居ないか聞いてみようかしらね。

 うん。エリク様が絵のモデルにとアンジュの元へやってくるイベントの際に聞いてみよう。

 

 こうして私達はロマンス小説や、BLについてを夜遅くまで話し込んでしまった。凄く盛り上がって収集がつかなくなってしまいそうになったが、そこはしっかり者のボニーがきちんと切り上げた。


「では、お嬢様、おやすみなさーい。あふぅ」

「ジゼル様、おやすみなさいませ」

「二人ともおやすみなさい。またお話しましょうね」


 ユミルは既に何度もアクビを繰り返している。ふふ。なかなかに充実した時間だったわ。それとなく他のメイド達にも話をしてみると言っていたので同志が増える事を祈りつつ、私は床についた。



 古ぼけた校舎。見覚えのある風景。


 あれ・・・ここは?()が通っていた高校・・・?そして校舎裏の木の下に居るのは当時付き合っていた彼氏だ。これは、夢、だよね。


「俺・・・。お前の気持ちが全然わかんねぇよ。手を繋ごうとしたら避けるし、キス一つもさせてくれないじゃん。本当に俺の事好きなの?」

「すっ、好きだよ!」

「じゃぁ、キスくらいいいだろ!?」


 私に迫る元カレ。彼から告白されて付き合いだしたのだが、私の方もだんだんと彼に惹かれていき、両思いだと思っていた。こうして二人きりで話すだけで幸せだった。手を繋ぐ事すら恥ずかしくて死にそうなのに、キスなんて私の中ではもってのほかだった。


「いやっ!」


 強引に迫ってくる彼が怖くなって抵抗してしまった。


「俺はいつまで我慢すればいい?・・・やっぱりお前とは合わない。別れよ」


 その場を去っていく元カレ。本当は追いかけて縋り付きたかった。だけど、私は彼に我慢をさせていたのだ。手を繋ぐのも私が我慢すれば良かったんだ。キスなんてチュッって一瞬我慢すれば良かったんだ。

 ・・・我慢?それらの行為は我慢してするものなの?違うよね。したいと思った時がそのタイミングだよね。私と元カレのしたいタイミングが合わなかったのだ。元カレの言った“やっぱりお前とは合わない”これが答えだった。


 こんな夢を見た日の朝が、気分がいい訳もなく。どんよりとした気分で学園に向かったのであった。

ここまで読んでくださいまして、ありがとうございました(^^)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ