第11話
木の日の朝、私の髪の毛は大変な事になっていた。流石に立て続けに染めたり戻したりすれば、まずこうなるだろう。ふわふわというよりは、ごわごわ。
「ジゼル様、さすがにこれは如何ともし難いかと」
「ボニーさん、とりあえずまとめ髪にしますか?」
「そうねぇ・・・それしか無いですね」
「うぅ、お手数をおかけします・・・」
蜜油でもどうにもならなかった。が、思い切り蜜油を使いどうにかこうにか、2つのお団子にしてもらった。
「お嬢様、これが限界です・・・っ!ご帰宅されましたら、念入りにケアをしましょうね」
「蜜油より効果の有りそうな物が無いか調べておきます」
「ありがとう、もう行かなくちゃだからパンだけ馬車に乗って食べるわ」
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
「ジゼル様、行ってらっしゃいませ」
「行ってきます」
私は、渡された紙に包まれたパンを受け取って馬車に乗り込んだ。
うぅ、毎朝なんだかんだで忙しないよぅ。もっと落ち着いた淑女らしい朝を迎えたいなぁ。
学園に着くと、スティードが私の所に来て私の髪型を見て話しかけてきた。
「おはよう、ジゼル嬢。今日はまた違う髪型なんだね。うん、こっちの色の方がいつものジゼル嬢らしくていいよ」
「おはよう、スティード。私としては昨日の髪型で行くつもりだったんだけど、来週早々にお兄様が帰ってくるから元に戻さざるを得なくて。もう、こんなに早く帰ってこなくてもいいのに!」
「ジゼル嬢の事が心配なんだよ。俺も妹が居るから分かる気がする」
「そうか、だからスティードは面倒見がいいのね」
「いや、俺だって誰でもいいって訳じゃないけど」
「えっ?」
「ねぇ、ジゼル嬢。明日、ダンスパーティーの相手に誰を指名するの?アルド殿下はアンジュ様とペアを組むらしいけど」
「あー、それね。私は参加しないで見ているつもりだけど」
「あの、じゃぁ、ジゼル嬢が良ければ・・・だけど。俺を指名してくれないかな?」
「えっ?す、スティード??」
ちょっと待って、どうしたのよスティード。あっ!アンジュがアルド様とペアだから、傷心なのね!だからヤケになったんだわ!
「ほ、ほら。昨日あたりからなんでか女子が俺の所に集まってくるからさ、断るのに疲れちゃって・・・。その、協力してもらえないかな?ジゼル嬢と踊るとなれば皆諦めてくれると思うから」
「あぁ!そういう訳ね!」
私がアルド様とアンジュがペアになる様に手をまわしてしまったから・・・。ごめんなさいね、スティード。アンジュとしか踊りたくないのに、他の女子と踊る気持ちになれないわよね。私は、なんだか責任を感じてしまい、こんな私でもスティードの周りに群がる女子達をお断りする理由になるなら、とスティードとペアを組む事にした。
「スティード、私で良ければ喜んで協力するわ!」
「ほっ、本当に!?」
「えぇ。どうぞ、私を断る理由として利用してちょうだい」
「あ・・・。それは・・・」
「では、ダンスパーティー宜しくお願いします」
「うん。こちらこそ・・・」
(あーぁ。俺ってヘタレだなあ。もっと違う言い方すれば良かったのに、断られるのが恐くて卑怯な言い方をしてしまった。―協力して―そう言えば人の良いジゼル嬢は決して断れないと思ったから、つい・・・。でもジゼル嬢の相手はアルド殿下でも誰でもなく、この俺なんだと思ったら何とも言えない高揚した気分になった。そして、せっかく訪れたこのチャンスを無駄にしてはいけないと思った)少年のこうした気持ちは誰にも知られる事なく少年の心に大事にしまわれたのであった。
私がスティードとの参加を決めたのは何も責任感だけではない。例え私がスティードと踊ろうと、決してフラグが立たないと信じているからだ。私は攻略対象者達にとって、モブキャラと同じだからね。
当日は、スティードに恥を欠かさないようにちゃんと練習しておかなくちゃいけないわね。
放課後。今日もまた図書室に向かう途中で渡り廊下を歩いていた際、外の様子が騒がしかった。どうやらラクロスの練習試合を行っているらしく、そこそこのギャラリーが居て賑わっていた。
「アンジュ、少し試合を見ていきましょうか?」
「ジゼル、文献探しは?」
「大丈夫、大丈夫。後回しでいいわ」
今は、こちらの方が優先事案である。カミーユ・シャルドン。彼が試合に参加しているのが見えたのだ。自分の身長の半分以上もある長いスティックを自在に操り、スピードに乗ってすばしっこく動き回っているのが彼である。
「いやぁ、カミーユ様はまるで、花を背負ったまま動き回っているみたいで華々しいわね」
「えぇ、彼は人の目を惹く力がありますね」
ふふ。普段の彼は性格的にちょっと・・・な感じだけどスポーツしている時だけは普通に格好良いのだ。
何度目かのゴールを決めた後、私達の方を向いたカミーユ様が私達に向かって投げキッスをした。
「おーい、皆ぁ!勝利の女神達が見てるから、もっと頑張らなくちゃだよっ」
「「「「オーーーーー!!!」」」」
凄い。カミーユ様の声掛けでますます士気があがった気がする。カリスマ性が半端ない。しかも、私達を“勝利の女神”と呼んだのは私達をこの場から去らせない為だ。君達が去ったらせっかく上がった士気が下がってしまうよ、と。・・・この人は普段はチャラチャラしているものの、抜け目が無い所がある。
「はぁ、アンジュ。ハンカチを引くからその上に座って。暫くこの場を離れられないから」
「ありがとうございます、ジゼル。ラクロスって激しいスポーツなんですねぇ」
「そうね。格闘技みたいにスティックでガンガン相手を攻めたりしているもんね」
私は、アンジュを座らせた後自分は地面に直に座った。
暫く試合を眺める事数十分。カミーユ様側の勝利で試合は終わった。
試合が終わってすぐに選手一同が私とアンジュの元に駆け寄ってきて、「ありがとうございました!」と言って頭を下げた。アンジュは驚いて反応が出来ないみたいだ。
「あの、私達試合を観覧していただけで特に何も」
「とんでもないです!見ていてくれただけでも気分がアガりました!」
「アンジュ様とジゼル様は学園内のアイドルですから!」
「おかげで勝てました!」
ラクロス部の人達が口々に私達にお礼を言ってきます。
あぁ、アンジュとカミーユ様の出逢いは、こんなイベントだったっけか。部員の人が主人公達をアイドル呼ばわりしてたっけ。よしよし順調順調。で、アンジュが「いえ、試合に勝ったのは皆さんの実力です」と一言。
って、うぉぉ!私の後ろに隠れて一言どころか言葉すら発さない感じ!?アンジュ、ほら、言うのよ!じゃないとカミーユ様が喋れないじゃないの!あのシーンはアンジュのセリフに答える感じでカミーユ様が出てくるんだから!
“いえ、試合に勝ったのは皆さんの実力です”
恥じらいながら、ようやく一言喋る主人公。
“いや、勝利の女神のおかげだよ。君の存在が俺達に力をくれたんだよ”
と、キラキラとオーラを発しながら主人公の手にキスをするカミーユ様。
ってね!!だけど、肝心のアンジュが沈黙しておるー!でも何か言わないとせっかくここまで駆け付けてくれた方々に失礼だわ!!
「いえ、私達は本当に何もしていないので。逆に素晴らしい試合を見せていただいてありがとうございました。さ、アンジュも何か・・・」
「・・・・・・」
うぅ、アンジュは私の後ろに隠れて私の制服をぎゅううっと掴んでいます。
「こらこら、お前らの勢いで、アンジュ様が怖がってるだろー!」
まさかのタイミングでカミーユ様登場。あの、展開が違うんだけどこれ、イベント成立しているのかな?
カミーユ様は私達の所に来て、
「ジゼルちゃん、俺の作戦に乗ってくれてありがとね。君達があれから最後まで試合を見ていてくれたの、すっごい感謝してる。お陰で勝てたしね!こいつらもジゼルちゃん達が見てると張り切るから、良かったら時々ラクロス部の練習を見に来てくれないかな」
そう言ってカミーユ様は私の手を取り、私 の 手 の 甲 に キスをした。
うぉぉ!?これ、最悪や!最悪の展開や!!主人公置き去りにしてイベントが進んでるやないかーーーい!!私は、まさかの展開に頭がパニックになっていた。
ここまで読んでくださいまして、ありがとうございました(^^)




