第一部 2 前世の贖罪
生まれてから一度も人を好きになったことはなかった。
大和が生まれてすぐ父は家を出た。
母は大和を育てはしていたものの親らしい事など一度もしていないと思う。
母が家にいるのは寝るときだけで日中は近所のパチンコ店にいる、生活は母子家庭の手当てと生活保護で賄っていた。
パチンコで勝った時はご飯が食べられる、負けた時は母の暴力と空腹が大和に与えられた。
そんな生活を続けていくうちに大和の人としての心は壊れていったのだと思う。
16歳になった時、母を殺した。いつものようにパチンコで負け暴力を奮ってきた母に抵抗したところ誤って殺してしまったのだ。
一瞬の出来事で大和本人も何が起きたかしばらくわからなかった。警察が来て、救急車が来て、近所の人達が集まっていた。大和は警察の事情徴収と事件の経緯を聴くために任意同行を求められ承諾した。
結果から言えば一応、正当防衛ということで大和は罪には問われなかった。
大和は自ら母を殺した時、妙な解放感を覚えていた。まるで自分が空を飛んでいるような感覚・・・身体中にまとわりついていた重い鎖が全て取れたように軽くなった感覚。それは大和にとってこの上なく気持ちのいいものであった。
それから大和は人を殺し続けるようになった。
小さな子供から大人、動物に至るまで
何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も何人も。
そして罪を重ねた彼は日本で最初の未成年の死刑囚となった。
それがかつての殺人鬼、暁 大和の人生である。
死後、彼がこの世界に転生して最初に考えたのは「誰を殺そうか?」だった。
暗い森の中で目を覚まし、人を殺せる道具を探し、動物を殺し、その肉をくらって生き延びた。
そして大和が最初に見つけた人が人間がライラだった。彼女はこの森の近くに住む農村の娘で薬草積みにこの森へ来たと言っていた。
彼女を殺そうと思っていた大和であったが彼女の無駄に人懐っこい性格とその優しさを前にして彼は初めては殺意を抱けなかった。
かつて生きてきた自分の世界のどの人とも違う何かがあった
それを感じた。自分の中で消えかけていた何かが息を吹き返した、そんな気がした。レイラはボロボロの彼の姿を見て心配して自分の家に来ないかと半ば強引に彼を家に連れて行った。
連れていかれたのは山を降りた麓にある小さな農村だった。村の人は皆とても親切で見ず知らずの他人である大和にもとても良くしてくれた。
住む場所を、食べる物を、着る服を、村人たちが与えてくれた。それは大和にとって始めて受けた人の暖かさであり、優しさであった。
それは彼の中で止めどない何かとなって胸にどっしりとのしかかってきた。それが今まで自分が背負ってきた罪の重さだと気がついたのは、それから暫くした頃の事である。