第一部 1 平和な日常
暑い日差しに安眠を妨害され不機嫌に目を覚ます。
彼、暁 大和の一日は今日もそんな始まりだった。早朝からキツイ日差しの中、畑へ向かい土の手入れと水
やり、草むしり、いつも通りの朝の日課を行っていた。
「暑い・・・」
「おにーちゃーーーん!」
大きな声で小さな少女抱きつかれた
「レイちゃん今日も元気だね。」
少女の名前はレイ近所に住む同じ農村家族の末っ子である。
「コラッ!レイ!お兄ちゃんはまだ仕事中だから邪魔しないの!」
レイの後ろから彼女を叱る声がした。
「構いませんよライラさん。レイちゃんにはいつも元気もらってますから。」
大和はレイを叱った声の主にやんわりと答えた。
「そーだそーだ!」
レイが大和の後ろから顔をひっそりと出して肯定していた。
「ヤマトくんもあまり妹を甘やかさないで、すぐ調子に乗るんだからー」
「すいません。」
まるで母親に叱られる兄ように彼女は大和にも叱責を加えていた。
レイを叱る彼女はレイの姉のライラ。おしとやかで美人という言葉の似合う女性である。
「どうしたの?」
ライラが大和の顔を覗き混んでくる。
「い・・・いやっ、なんでもないですよ。」
大和はあわてて両手を左右に振り何でもないと誤魔化した。美人なライラに見とれていたとは死んでも言えないであろう
「そう?」
「はい。そんなことより、これ昨日取れた野菜です。おじさんとおばさんに渡してください。」
「こ・・こんなに、さすがに悪いよ。ヤマトくんだって食べなきゃいけないでしょ。」
ライラは大量の野菜を目にして申し訳なさそうに言ってくる。
「いいんですよ。おじさんやおばさんには、感謝してるんです。もちろんライラさんやレイちゃんにも・・。」
大和のこの言葉に偽りはないだろう。大和は本当にこの家族に感謝しているのだ。人殺しであった男をあの日、助けてくれた事、自分に人の・・命の尊さを教えてくれた、自分を人間にしてくれたのだから。
「じゃあ、とりあえず貰っておくね。でも困った事があったら一人で抱え混まずにウチに相談に来てね。」
「はい・・。」
こんな風に自分の心配をしてくれる。それだけでどれだけ救われているか、彼女達にはわからないだろう。そんな大和の考えなど知らないと言うかのように彼女の考えは的を射ていなかった。
「またレイだけノケモノーーーー。」
気がつくと拗ねて不機嫌になったレイが大和の服の裾をグイグイ引っ張っていた。
「ごめんね。じゃあレイちゃんも俺とお姉ちゃんと一緒に野菜運ぶの手伝ってもらおうかな?」
「うん!レイ、力持ちだよーー。」
レイが自分の腕で力こぶを作ってみせた。しかし華奢な幼子の細い腕には力はなく全然膨らんでないように見えた。
「それじゃ皆でお家に帰りましょ。」
「うん。」「はい。」
ライラの号令でレイと大和も返事をして彼女達の家に向かった。ライラの家まで収穫した野菜を運び、お礼に夕食をご馳走になる。それはいつもの繰り返される日課であり、大和にとってかけがえのない時間でもあった。